5 わたしの推しがイケメン攻略キャラよりイケメンムーブでつらい。
午後の授業は上級生によるデモンストレーション。
すでにある程度の魔法を学んでいる先輩たちが、一年の間に培った魔法を見せてくれるのだ。
その中には残る攻略キャラの我が従兄ツンと、辺境伯の子息トッテの姿もある。
先輩たちが空を飛ぶ魔法、雷や炎を操る魔法を見せてくれる。
スチル一枚絵で表現されていた場面も、リアルに目の前で見ると圧巻だ。
某魔法学校大作小説みたいな、ほうきで飛ぶのではない。魔法で大鷲や鷹に変身して、身一つで飛ぶ。
わたしもいつかこれをできるようになるのかな。
ゲームだと隣国の王子もこのシーンにいるはずなのに、姿が見えないな。これもまたゲームと少しだけ違う展開だ。
一年生組がみんな驚き拍手がなりやまない。
白鳥になったツンがわたしの前に降りてきて、人の姿に戻った。
「こうして直接話すのは初めてかな。シュウ。ぼくは君の従兄。つまり血縁。きちんと学んでよい成績を残しておくれよ。万年赤点なんて取られた日には、一族の恥になる」
二次元キャラならデレるまでのこの期間もお楽しみのひとつなのだが、実際言われるとめんどくせぇ。
ここで言い返すと『イベント1 従兄とわたしはケンカップル(?)』という恋愛イベントが発生する。
イベント回避のため、無言で会釈してやりすごす。
「入学初日の後輩に何を言っているんだお前は。人材育成というのは優しく見守るのも必要なことなんだぞ。最初は苦手な教科でも努力で補えるし、みんな二年の間に成長するんだ。偉そうなことを言っているけれど、ツンだって最初の一か月はローブを焦がしてばかりだっただろう」
「こいつの前でばらすんじゃない、トッテ!」
「おれが言わなくてもいずれ先生の授業で失敗談として語られるだろう」
ツンは炎魔法でお手玉していたトッテ先輩に叱られている。
いい人なんだよな、トッテ先輩。
がたいがツキノワグマみたいにでっかいから怖がられがちだけど、中身は気配りの塊である。
「トッテ先輩って頼りになるいい方ね、シュウちゃん」
「ええ。優しい先輩で安心したわ」
あとは先輩たちが、この魔法を覚えるときはどういうところで躓きやすかったかなどのアドバイスをしてくれる。
みんな真剣に聞いて書きつけていく。
その後は魔法薬学。
植物学の先生から、学院の敷地内で育てられている薬草を見分ける方法を教わる。
魔法を加えながら精製することで、普通の薬より効果の高いものが作れる。
昔のステレオタイプな漫画に出てくるような、黒いローブを着たおばあさんが鍋の中にカエルやら蛇の干物やらぶちこんでかき混ぜる……ああいうのを想像してはいけない。
実際は、化学実験室のほうが近い。
真っ白いローブを着た老人、エルダー先生がビーカーの青い液体を火魔法で煮詰め、粉末にした薬草を入れながら手をかざすと、あら不思議。
液体がピンク色になった。
「これは腰痛が楽になる薬じゃ。近頃朝起きると腰が痛くてのう」
「……腰痛の……」
「おお、おまえさんが飲んでみるかね。この薬は、腰痛になっていない者が飲むと腰痛が起こるのが玉に瑕じゃ」
「遠慮します」
全く役に立たない薬じゃなかろうか。
授業が終わり、寮に戻るとまっすぐ食堂に向かう。
セバスに会えればわたしのメンタルは全回復だ。
セバスの存在がラストエリクサー。
死んでも復活できる気がする。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
夕食はあたたかなスープとパン、ミートパイ。デザートに焼き菓子。メニューは全員一緒。学校給食ってそういうものだものね。
カウンターで受け取ると、わたしの分だけはお菓子の代わりにドライフルーツが添えられている。
わたしの味の好みを熟知していて、こういう気配りをしてくれるのはセバスしかいない。今日会ったばかりの食堂料理人が知っているはずないもの。
「ありがとう、セバス。うれしいわ。でも、わたしにだけみんなと違うメニューを出すなんて、大丈夫なの? 今はここの使用人として働くなら、屋敷にいた時のような特別なことをしたら、まずいのではないかしら」
「そうでございますね。先生方に気づかれたら叱られてしまうでしょうから、お嬢様は何も気づかなかったふりをしておいてください。慣れない環境で勉学に励まれているのですから、慣れ親しんだ味が恋しいと思いまして」
セバスがいたずらっぽく、人差し指を口元にあてて微笑む。
不意打ちの笑顔にドキューン、と胸を撃ち抜かれる。
なんでこの世界にはデジカメやスマホがないんだ。今スマホを持っていたらストレージ使い切るレベルで連写してたよ。
渋くて素敵すぎて尊死するかと思った。
これでモブって間違ってんだろ制作スタッフ!!!!