あるいはただの迷子の天使?
「私たちはただの人間じゃない!」
シティホールに急いでいるのに、こんな時間に限ってラングラード川を渡れないなんて、最悪だと、高校生に見える少女がこう思う。
「ケモミミの一族がミミとしっぽを隠さないといけないのは憲法違反だ」
「ケモミミの一族のアイデンティティを誇れ」
「自分を認めよ、獣性を解放せよ」
橋は、しっぽを出してあぐらをかいて座っている、何かを抗議している人達に塞がれた。もう抗議より新興宗教団体に属すべきだ。と、少女が心の中でつっこんだ。今日のシティホールの窓口の締め切りまであと30分、この橋を渡らなければ、絶対に間に合わない。強引に突破しようとしたら、身の危険も高いようだ。川に入って泳いで渡るのもありが、上流側に染色工場が存在する限り、安易に入ってはいけない。
魔王とかドラゴンとかのような翼さえ持っていれば…少女は子供のころ、母がよく寝かしつけのお話で言及した魔王のことを思い出した。
「どけどけ!」
悩んでいる少女の後ろから走って来た女の子が、なぜか長いポールを手に持っている。助走も完璧に、見事に川を飛び越えている。だが、勢いよく逆さまになったあげく、制服のスカートが翻えてしまって、あまりにも醜かった。
「危なかった。ペンダントが川に落ちるところだった」
ポールを先っぽを掴んだ女の子が胸元を撫でる。
「J.A!逃げられるでも思った?」
少女の後ろからドラゴン族の女の子が飛んできた。どうやらポールを持つ女の子を追いかけているようだ。
「あの…」
少女がドラゴン族の女の子を止めようとした。
「彼女に便乗させたら考えてみる!今度は逃げないから」
川の向こうに、ポールを持つ女の子が叫んだ。
「学校の中でビーガン血と称して、吸血鬼にトマトジュースをあまりにも高い値段で売りつける詐欺ばっかりやっているくせに。いいわ。最後に一回信じてあげる。そっちのメダム、僕にしっかりと掴まって」
「え?いいの?」
少女が耳鳴りになったまま、川を渡った。
「ビーガン血は健康的だ。というが、うちに全責任を負わせるな。どうぜうちの番号を伝えたとしても、また間違えてしまうのだろう?」
女の子がポールを地面に置いて、スカートのポケットから呼び出し機を出した。
「いい?メモがあればしっかりとれよ。それとも読ませてもらいたい?ジャンヌ=アンヌ・グネル、番号は…」
女の子が呼び出し機に貼ってあったラベルを見ながら言う。
「グネル?あの伝説の女優シアナ・グネルの…」
耳鳴りが消えた少女は初めて聞いた会話に、反応が大きい。
「ああ、見知らぬ人から毎回この反応だ。トロワヴィルならスーパーマーケット、マーシャンなら法律事務所、マレシャルならバカ…うちが悪かったから、セシルも翼でうちをびんたするなよ」
「私、苗字はマーシャンだよ。だけどマーシャン法律事務所とは無関係…」
「いいか?マーシャンはただの例だ。ここにモブキャラの居場所がないのよ…ごめんなさい」
生意気な女の子がドラゴン族の女の子に顔をつねられた。
「セシルさん?渡せてくれてありがとう」
「気にしなくていいよ、えへっ」
少女が礼を言って、去った。
「いいものが手に入れた気がするぞ。なになに?行動機械の免許か。僕がこういう資格を取っても役立たないけど。レアン・マーシャン。その年から数えたら…18歳?僕らと年をあまり離れていないのに、なんだか雰囲気が結構大人っぽいのね」
「軽い気持ちで人の財布をとるな。ドラゴン族やから窃盗癖があるやからと言って、うちの前はまだしも、警察へにも通用すると思った?こういうことと比べたら、うちのビーガン血は完全に合法ビジネスだ」
女の子がドラゴン族の女の子から財布を奪って、ポールを拾って、前へ走り出した。