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短編集

ルシファーの独り言

短編小説第二作です。

王都にある盛況な酒場にて、世界最強の勇者パーティーは祝杯をあげようとしていた。周りには多くの客もいる。


「それじゃあエンドラ倒した記念にぃぃ!」


「「「「「カンパーイ!!!」」」」」


5人の勇者パーティーと店内の客は一斉に酒を煽る。酒場は一気に騒がしくなる。


世界最強の勇者パーティー、その名は《ヒーロー》────このパーティーは世界最強の勇者パーティーである。


魔力量は合計10億、堂々の世界ランキング1位。ちなみに2位は4億。このパーティーに敵うパーティーは存在しない。


「いやーマジみんなお疲れ〜どんどん飲んじゃってー!今日は俺の奢りだからな!」


そういう赤髪高身長イケメンはこのパーティーのリーダー、『ハイウェイ』。彼はこの世界で唯一の魔力量3億超の人間だ。パーティーのアタッカー担当でメイン武器は剣、彼の剣術は到底24歳で取得できるものでは無い。それほど強い。だが、少しバカである。


「今回のMVPは間違いなく『アドロー』だな、最高に覚醒してたぞ」


「……ふむ」


スキンヘッドで肩幅が広く、パーティー唯一の30代のアドローはこのパーティーのタンカーで、エンペラードラゴン(エンドラ)の必殺技を防ぐ偉業を成した。


エンペラードラゴンとは魔力量6億の魔獣で、倒すことは不可能と言われていた魔獣だ。


アドローはそんな化け物の必殺技を防いだ。だが、口数はとても少ない。


飲み始めて数十分。


「そういえば『ベロニカ』、また世界魔法大会で優勝したんだって?」


世界魔法大会、その名の通り、世界中から集まった魔法使いが世界一を目指す大会だ。


「まぁね、今年で三連覇らしいね」


ベロニカとは年齢26歳、パーティーではレンジャー担当の最強の魔法使いである。


26歳だがこのパーティではお姉さん的存在である。だが口調は鋭い。


「でもやっぱこのパーティに欠かせないのは『ルーニャ』ちゃんでしょ。まだ17で魔力量億超って、そん時のハイウェイより多いでしょ?」


「確かにそうだな、俺が17の時の魔力量は8000万くらいだったかな」


「えぇそーんなことぉないですよぉぉ別に褒めてもなぁぁんにもありませんよぉ?」


勇者パーティーヒーラー担当のルーニャ、彼女はまだ年齢17歳にして、魔力1億2000万の秀才。だが精神年齢は低い。


「まぁでも今回は『ST』の活躍も多かったな、さすが新型対魔獣戦闘ロボットだな」


「ありがとうございます」


STとは、特別研究グループが作った対魔獣用のロボットで、魔力量は2億3000万。並の人間には相手にならない。ロボットと言っても、見た目は人間だ。


「ざぁこ敵はみーんな倒してたからねぇ」


「雑魚!?エンドラの手下だって相当強かっただろ!?」


ルーニャの発言に、ハイウェイは驚く。


「エンペラードラゴンの手下の魔力量は、推定8000万です。また、数は100匹以上います。ですが、私からすれば雑魚と言っても過言ではありません」


魔力量8000万の敵を雑魚敵と言うロボット。だが人間には優しい。


「でもやっぱり〜さいつよはハイウェイなんだよねぇほんと強すぎて結婚したいよォ」


ルーニャは酔っ払っているのか(未成年)ふにゃふにゃになりながらハイウェイの腕を抱き締める。


「ダメ、あんなやつと結婚なんて許さないよ」


ベロニカはルーニャをハイウェイから引き離す。


「人類でただ1人の、魔力量3億超、エンドラの体力を半分以上削った怪物、そんな奴と結婚なんてダメだよ」


「ふっ、今の話のどこに結婚してはいけない理由があるのかな?」


ハイウェイカッコつけるように白い歯を見せながら笑う。


「だから怪物と人間が結婚するなんておかしいでしょ」


「いや俺人間なんですけど。え?こんなに強いのに俺一生結婚できないの?」


「だからそう言ってんだろ!」


ベロニカはハイウェイの背中を思いっきり叩く。


これが世界最強のパーティー、《ヒーロー》だ。


チームは和気藹々と酒場で穏やかな時を過ごした。



夜も更け、酒場を後にした勇者パーティーが拠点に戻っている途中。


街を歩いていると路地裏から叫び声が聞こえてくる。


「おい!さっさと乗れや!痛い目みたいかあぁ!?」


「なんだ今の声」


ハイウェイは声が聞こえてきた路地裏の方を見る。そこには数十人が何やら争いをしていた。数十人の男達は、三人を連れ去ろうとしている。


「なぁぁんかボコされてるねぇ、こーれはヒーローとしてはほっとけないよねぇぇ?」


「うんうん、本当はクソ眠いから今すぐ帰りたいけどルーニャちゃんがそう言うなら助けるしかないね」


「…………見過ごせないな」


世界最強パーティーとしては見過ごせない事件に、5人は路地裏の中へ入っていく。


「早く乗れ!もう一本いくかー!ああ!?」


「おい!お前ら、そこで何をやっている!」


ハイウェイがそう言うと、全員がハイウェイ達の方を見る。


「あ?誰だお前ら?」


グループのボスのような見た目の男は高圧的な態度でハイウェイ達を睨みつける。


「エンドラ倒したのに対して有名になってないじゃん」


「ベロニカ、こいつらに常識があると思うか?世の中のことを何も知らない、可哀想な人達なのだよ」


「いや普通に知名度ないだけでしょ」


「おいおいおいおい!いきなり現れてさっきからなんの話をしてんだお前ら俺らの事舐めてんのかぁぁあ゛あ゛?」


ボスはブチギレているのか、手に持っていた剣をハイウェイに向ける。


「いやいや、別に舐めてなんていないよ、ただ自己紹介とかしたいなら早めにしてくれよ、俺達早く帰りたいからさ」


「それを舐めてるって言うんだよ!」


ハイウェイは(とぼ)け顔をする。


それにアドローは無反応、ルーニャは眠そうに目を擦り、ベロニカはやれやれと手を上げ、STは武器を構える。


やる気があるのはロボットのSTだけで、それ以外のメンバーはさほど、いや全く戦う気がない。目の前には誘拐されそうになっている人がいるというのに……


だが、これが世界最強の勇者パーティーなのだ。


「メンバー11人、総魔力量4850万、ここらじゃ名前を出せば誰でもガタガタ震え出す最凶最悪の悪組織《疾風組》。そして俺が組のボス、『疾風(しっぷう)陽炎(かげろう)』、魔力量1100万!どうだビビったか!」


…………一同、沈黙。


「ねぇぇー早く帰りたいんですけどぉぉ」


…………。


「そうね、こんなのに関わってるなんて時間の無駄過ぎるわね、あとボスさん、あなた名前クソダサ過ぎるわよ」


ベロニカがそう言った途端堪忍袋の緒が切れたのか、陽炎は猛スピードでベロニカに接近、剣を振るう。それに合わせて、疾風組は人質を押さえる二人を残して一斉に戦闘態勢に入る。


「ふっ、魔力1000万如きが、イキってんじゃないよ!」


「一級魔法、〖エーテル・ガード〗」


ベロニカは薄紫色の防御魔法を展開し、陽炎の攻撃を防ぐ。


「ほう、一級防御魔法か、それもなかなか熟練されているな」


陽炎は先程の雰囲気とは違い、本気で殺しにかかってきている。疾風組は全員黒の戦闘服を着ており、戦闘向けの服だ。


周りの仲間達も、獲物を狩るような目でハイウェイ達を睨む。戦闘に慣れている、そんな雰囲気が疾風組にはあった。


「ふっ、一ついいことを教えてあげるよ。“生き残りたいのなら、戦う相手は選ぶこと“」


そう言うと、ベロニカは魔法陣を展開する。


「これは、ベロニカ一人で片付いちゃうな」


ハイウェイは最初から分かっていたようにそう言い、壁に寄りかかる。


「それは遺言か?ならばこちらも、本気で行くぞ!」


陽炎も剣を構える。


「一級魔法、〖ライジング・サンダー〗」


「疾風組奥義!〖ゴット・サイクロン〗!」


それぞれが放った技は、偶然にも相性が良かったのか、疾風組のサイクロンにベロニカのサンダーが合わさり、ビリビリと光る大きな雷雲となった。


「解析の結果、目の前の雷雲は3億ボルトに相当します」


STは淡々と解析結果を説明する。


「ウビビビビビビビビビビビ!!!」


疾風組がサイクロンの中にいるため、全員黒焦げになり気絶した。


「はい、いっちょあがり」


ベロニカは手をパンパンとしながらハイウェイ達の元へと戻ってくる。


「お疲れベロニカ、あとの2人は俺に任せろ」


と言っても、まだ2人に戦闘の意思があるとは思えないと考えているハイウェイは武器を構えずトコトコと2人の元へと向かう。


「ひっ!」


そのうちの一人は走って逃げようとする。


「おっと、逃がさないよ」


その瞬間、ハイウェイは音速の速さで男の前に行き、男の首を叩き気絶させる。


男はバタッと地面に倒れる。それを見た最後の疾風組メンバーはフリーズしている。


その隙にハイウェイは音速で被害者を確保した。


「うひゃゃハイウェイさん早すぎ〜」


ルーニャは感心するようにハイウェイにパチパチパチと拍手を送る。


「ふふふ、やろうと思えばもっと早く動けるぞ」


「そんなに早く動いたら私ぃ壊れちゃいますよ♡」


「る、ルーニャちゃん!?酔っ払ってもそんなこと言わないの!というか未成年飲酒は普通に犯罪よ!」


「えぇぇーいいじゃないですかぁ、私達世界最強なんですょぉ?」


眉間に手を当ててベロニカは下を向く。


ルーニャは完全に酔っ払っていた。


「…………最後のやつはどうする」


ずっと傍観していたアドローは、最後のメンバーをどうするか、皆に確認する。


「まぁ戦う意思無さそうだし、捕えて軍に引き渡せばいいだろう。っとそれより、三人とも大丈夫ですか?」


連れ去られそうになっていた3人は地面に座り込み、自分達が助かったことに涙を流していた。一人には殴られた痕があり、顔から少量の血を流していた。


「本当にありがとうございました、あなた方は命の恩人です」


一人の若い男は手を合わせながらハイウェイに礼を言う。


それに対しハイウェイは「当然のことをしただけですよ」とカッコつけつつ言う。


「んじゃお前、大人しく捕まってくれるよな?」


STが被害者の手当をし、ハイウェイは最後のメンバーの元へと向かう。


すると。


「ふふふふふ、くくくくく、かかかかか!」


「なんだその気味の悪い笑い方は。なんだなんだまだ戦うってのか?」


細身で肌白い男は持っていた剣を構えた。


「ほう、やるのか、その最後まで諦めない心は尊敬しよう、だが、お前では俺には勝てない」


ハイウェイも剣を構える。


「そんなカッコつけなくていいから早く終わらせてよ」


ベロニカは少し離れたところから野次を飛ばす。


本当は宿に帰ってもいいのだが、ルーニャがハイウェイの戦いを見たいと言うのでベロニカもルーニャを置いていけず帰れずにいる。


ベロニカにとって、ルーニャは妹のような存在だ。夜の街に一人置いて自分だけ帰るのは嫌なのだろう。


「分かってるって、すぐ終わらせるよ」


「へへ、そんな舐めた態度取ってられるのも今だけだぞ?」


男は持っている剣をクルクル回りながら言う。


「解析の結果、目の前の男の魔力量は推定510万です」


魔力量は、100万あればまぁまぁ、1000万あれば中々、5000万になるといや強、1億になると世界ランカー並、と言ったイメージである。


510万は決して弱くは無いが、強いと言える魔力量でもない。


「510万でよくあんなカッコつけられるね、ハイウェイみたいだ」


すぐにカッコつけようとするのはハイウェイに似ている。


だが魔力量は62倍差もある。到底男はハイウェイに勝つことは出来ない。


「……………………見せてやろう、俺の本気を」


男は剣を地面に刺し、手を胸の前で合わせて目を瞑る。


ゴゴゴゴゴ────────


地面が揺れ、男から薄い光が放たれる。


「……ふむ、どうやら先程の奴らとは、違うようだな」


男の雰囲気は先程とは変わり、全くの別人のような雰囲気になった。


剣を構える姿も、只者では無い、まるで剣の道50年の達人のような構えをしている。


「再解析の結果、男の魔力量は推定6700万まで上昇、軽んじて戦うのはおすすめしません」


STとアドローは男の雰囲気が変わったのに対し、今までより真面目に男の方を見た。


「6700万て言っても〜ハイウェイさんならよゆーでしょー」


ルーニャの言った通り、たとえ500万から6700万になったとしても、ハイウェイからすれば誤差の範囲内だ。


ハイウェイの魔力量は3億1000万、今だその差は4.6倍の差がある。


「ふっ、お前の力は分かった、ならば俺もそこそこ真面目に戦ってやろう!」


ハイウェイも真剣な目で男を見る。


────────


ヒューと風が吹く音が鳴った刹那、キン、と、鋼と鋼がぶつかる音が夜の街に鳴り響く。


「はっ!」


一同が驚いた、ハイウェイのそこそこ真面目の攻撃を、男は防いだ。


どうやらこの男、なかなかやるようだ。そう思ったハイウェイはさらに攻撃をする。だが、あくまでそこそこの攻撃を。


2人は攻防を繰り広げる、正確には男がハイウェイの攻撃をひたすら防いでいるだけだが。


「ハイウェイどんだけ舐めプしてんだよ、STだって軽んじて戦うなって言っていたのに」


「いや!こいつなかなか強いぞ!お前らも戦ってみろよ!」


「いや強いのはあんたが真面目に戦ってないからでしょ、あとそんな玩具みたいに敵を扱うのはやめなよ、さすがに酷すぎるよ」


玩具扱いするのは置いといて、ハイウェイが敵を強いと言っているのはとても珍しいことだ。男の強さは本物らしい。


ハイウェイは一度男から距離をとる。


「それほどの力を持っていて、なぜお前は疾風組のメンバーにいたんだ?」


しかもわざわざ魔力量を隠してまでも。魔力量を隠すのにだって魔力を使用する。それは隠す魔力が大きければ大きいほど。魔力を使用し続けるのはずっとランニングしているのと同じだ。そこまでして魔力を隠す理由、それをハイウェイは気になっていた。


「俺が魔力を隠す理由?はっ、お前らみたいなバカなカモを誘き出すためだよ。バカだなお前ら、まんまと罠にかかってよ」


「分からないな、自分以上に強い相手が来たらどうするんだ?」


弱いふりをして敵を誘き出し、本当の実力を見せて敵を倒す。これ自体は誰にでも思いつきそうな作戦だと思う。だが、今回のように、さらに自分より強い相手が来た場合は、ただ恥をかいて終わりなだけだろう。


「知りたいか?だが教えられないな、まだ俺はお前達の実力を認めていない」


「いや俺の実力見せたらお前が死ぬんだよ」


「…………」


男は顔を傾げて「何を言っているんだ?」という顔でハイウェイを見る。


「なぁ、さっきからお前は勘違いをしている、俺はお前に話しているんじゃない、お前()に話しているんだ」


男がそういった時、後ろにいた4人も少し反応する。


「お前、自分の魔力量を分かっていないのか?」


ハイウェイにも敵うわけないのに、勇者一行に挑もうとしている、バカとしか思えない。もしかしたらこいつは自分の魔力量を本当に分かっていないからそんなこと言えるのでは、とハイウェイは思う。


「知っている、むしろ知れない方法なんてないだろ」


まぁそうだ、自分の魔力量は無意識に分かる。


「……ほんと、お前はよく分からんやつだ」


ハイウェイは剣を構えつつ、ベロニカに言う。


「ベロニカ、俺に攻撃力上昇魔法を付与してくれ。コイツをぶっ殺す」


あくまで脅しだが、本気で殺しにかかれば少しは驚くだろう。と思いベロニカに攻撃力上昇魔法の付与を頼む。だが。


「ばーか、あんたに魔法付与するのはマジでやばい時だけって言ってたでしょ」


「そういえば、そんなこと決めてたな。じゃーいいや……それじゃ、終わらせるか」


ハイウェイは足を踏み込み、一気に男との距離を詰め、剣を振るう。


「はっ!いいぞ!もっとかかってこい!」


男はなぜかいまだ強気でいる。


「その言葉を言えるのは俺だろ!」


ハイウェイはさらに強く剣を握る。一発一発が重い、魔力量3億の攻撃、それに魔力量6000万の男は耐えることが出来ず、ついにハイウェイの剣は男の腹を斬った。


男の腹から血が流れ、ぽたぽたと地面に血溜まりを作っていく。


「その程度の傷なら回復魔法でどうにでもなる、早く降参してくれ。それとも、まだ斬られたいか?」


ハイウェイは自分の剣に付いた血を拭きながら言う。


「ちょっとハイウェイ、これ以上尺を取るととんでもなく長い短編になってしまうわよ」


とんでもなく長い短編とは果たして短編なのだろうか、という急なメタ発言はやめてください。


「てことで、バン」


ベロニカは攻撃魔法を放ち、男を吹っ飛ばす。


壁にヒビが入る程の勢いでぶつかった男はガクッと頭を下に向ける。


「おいおい、あれ生きてるのか?」


「さぁ?でも最悪死んでてもいいでしょ、犯罪者なんだから」


「あのぉ終わったなぁらぁ帰ってもいいですかねぇ?そろそろ限界なんだよねぇ」


ルーニャは眠そうに目を擦りながら言う。


「そうだな、俺も眠いしそろそろ────」


「ふっ、ふふふ、お前ら、合格だ」


壁にめり込んでいる男は乾いた笑いをみせてから、意味深な事を言う。


「さて、お遊びはここまでだ、ここからは、()()()()()をしよう」


男の声を聞いた途端、勇者一行全員にゾワッと鳥肌がたった。


「……は?」


めり込んでいた壁から出てきた男は、表面に付いていたスライムが落ちる様に姿が変わっていく。


細身で肌白かった男から、25歳くらいで白髪ロングヘアーの女の姿へと変わった。


「ひぃ!悪魔だぁ!」


一人の被害者が男……女に向かって言う。


「いや確かに着ている服は悪魔っぽいけど、悪魔なら背中に翼もしくは光輪それか角が生えているはずだ」


ハイウェイは淡々と被害者に言う。その声色は、今までとは違い、真剣で多少の恐怖心すら伺える。


今ハイウェイが言った通り、悪魔ならば悪魔の特徴があるはずだ、だが、その特徴が何も無い。つまり目の前にいる女は悪魔では無いということになる。


「だが、アイツは……このまま放置しちゃいけない奴だ」


「ハイウェイ、あれ、なんなの?」


見ているだけで死を感じる、今まで戦ってきた全ての敵とは桁違いの強さを感じる。


あれは本当に人間なのか?ベロニカはただただ困惑していた。


「ST、アイツの魔力量は?」


「解析中……解析失敗。再解析……解析失敗。再解析……解析失敗……解析の結果、解析不可能」


魔力量、解析不可能、これが世界一の高性能ロボットの答えだった。


「100億、これが私の魔力量だ」


女は簡単に自分の魔力量を教える。だが、100億……


「そんな訳ないだろ、と言いたいところだが、そんなことあるかもしれないな……」


「ハイウェイさぁん、これぇ、戦わないとダメですか?」


「貴様たちに選択肢は無い。ここで私と戦え」


「……だ、そうだ。一つ聞いていいか?お前、名前は」


ハイウェイは女に向かって名を聞く。


「そうだな……『ルシュ』とでも呼んでくれ」


「……そうか」


ルシュと名乗った女は、何か武器を出すでも、魔法陣を展開することもなく、手でハイウェイに合図を送る。それは、少し時間をやるという意味の合図だった。


それをハイウェイは正しく読み取り、仲間達の方を見て話をし始める。


「みんな、今まで一緒に冒険してくれてありがとうな、お前らとのパーティーは最高に楽しかった」


他のメンバーも察しているのだろう、誰も茶化したりふざけたことは言わないでハイウェイの話を聞く。


「だが、これからは俺達は伝説の勇者パーティーになる戦いをする。勝てるかは……まぁどうでもいいか、とにかく全力で挑もう。そんじゃ────行くぞ」


5人はそれぞれ武器を構える。


ベロニカは全員に26種類のバフ魔法をかけ、ルーニャは魔法の杖を取り出し、全員に回復魔法をかけ、アドローは異空間から盾と剣を取り出す。STは武装を解除し、戦闘態勢に入る。ハイウェイは本気で挑もうと剣を構える。


それに対し、ルシュは手を叩こうとしていた。


パン!


一回の拍手、それは半径500メートルの〖異空間魔法〗を展開した。使用するには膨大な魔力が必要だ。


その魔法にヒーローは動揺しなかった。


「その覚悟、非常に素晴らしいな。だが、私も初めから全力でいく、覚悟はいいか?」


異空間魔法を展開したルシュは、ハイウェイ達から少し離れた場所で手を少し広げながら聞く。


「あぁ、覚悟はできている」


────────刹那


視覚が姿を認識するよりも速く、突然ベロニカの目の前に現れたルシュは、ベロニカの頭めがけて拳を振るう。


もはや奇跡と言っても過言ではないだろう、奇跡的に反応できたSTはベロニカを守ろうとベロニカを突き飛ばす。だが、その際STの腹部にルシュの拳が当たる。


「あ……」


ベロニカの涙声を横に、STは腹に穴が空くでも故障するでもなく、バラバラに壊れた。


そして、一瞬の隙も入れずにルシュは左肘をアドローに向ける。


「ふっ!」


ただの肘突きだが、盾でガードしたアドローは後方へ吹き飛ばされた。


「なんという力だ」


何とか耐えたアドローはルシュの事を真っ直ぐ捉えながらそう言う。


「お前ぇぇぇ!よくもっ!STをっ!」


一方ベロニカは攻撃魔法を放とうとする。そしてハイウェイは剣を振るう。


「特級魔法、〖イグニス・インフェルノ〗」


ベロニカの手から、小さな灼熱の太陽が現れ、その玉をルシュに向けて放つ。


「はあぁぁあ!」


ハイウェイはベロニカに合わせて、ルシュの首に向けて剣を振るう。だが、


「素晴らしい炎だ、しかし」


ルシュは腕でハイウェイの攻撃を防ぎ、もう一方の手からベロニカに向かって火炎放射器のように炎を出した。


一行は一つ一つの攻撃が速すぎて、対応出来ずにいた。


誰も守ることが出来ず、ベロニカは焼死した。


「ベロニカさんっ!」


ルーニャは今まで見せたことの無い声でベロニカの名前を叫ぶ。だが、時すでに遅し、既にベロニカは死んでいた。それでもルーニャは状況が信じられないのか、ベロニカに回復魔法をかけようとする。


「甘い!」


「ルーニャ!」


ルーニャに向けた先程よりも強めのパンチを、アドローは盾を構えて防ごうとする。


ハイウェイは再度ルシュに剣を振るう。


「ああああああ!」


ルシュの拳は、いとも簡単にアドローの盾を貫いた。世界一硬度の硬い鉱石で作られた特注品の盾を。


そのまま拳はアドローの腹すら貫いた。


「うがっ!」


口から大量の血を吐く、アドローの腹には大きな穴が空いていた。既に、助かる見込みは無いだろう。


ハイウェイの剣は腕によって防がれた。


「アドロー……すまん」


「……な、に、謝る、必要なんて、ない」


そう言い残し、アドローは地面に倒れた。


これで3人目、世界最強の勇者パーティーは何もできず、メンバーの半分以上を失った。


「あ、あ、あ!」


残った2人、ルーニャの心は壊れかけており、もはや戦える状態では無かった。ハイウェイは、ただただ────────


「仲間のために命を懸ける、素晴らしい絆だな、お前も、そろそろだろ?」


ルシュは目の前にいるハイウェイに向かってそう言う。


その声色は、まるでこれから起こることを楽しみにしているようだった。


「だが、お前、お前は、邪魔だ」


一変して暗い声色でルシュはルーニャの首を持ち絞め上げた。


「あっ、がっあっ」


ルーニャは首を絞められもがく。


「ルシュっ!お前ぇぇぇ!」


感情を我慢する限界が来たのか、ハイウェイは顔に血管を浮かばせながら叫ぶ。


だが、動くことができない、このまま斬りに行けばルーニャも斬ってしまいかねないからだ。戦うのに躊躇しているハイウェイに、ルーニャは無理矢理声を出して言う。


「わたしっごと、斬ってください!」


口から血を流しながらルーニャは言葉を続ける。


「私なんて、いなかったほうがっ、よかったんですっ、私のせいで、私のせいで!みんな!」


「違う!みんなが負けたのは俺が、無力だったから」


ハイウェイは熱の篭った目でルーニャを見ながら答える。仲間が死んだのは、俺のせいだ、だから。


「自分を犠牲にするのはやめろ」


ハイウェイがそう言うと、ルシュはクッと口角を上げる。


「これが、人間なのか」


ルーニャにだけ聞こえる程の声量でルシュは呟いた。そして、ルシュはルーニャを投げた。


ハイウェイの元へ飛ばされたルーニャは何度も咳をする。常人ならとっくに窒息死している程長い時間首を絞められていたのだ、相当の瀕死状態である。


「早く!回復魔法を!」


ハイウェイがルーニャに気をかけていると、


「バン」


「…………あ?」


ハイウェイの胸元から血が流れる。


避けれる絶対的な自信があったからこそ、ハイウェイはルーニャに気を使っていのが、避けることは出来なかった。


「あぁ、すまん」


ハイウェイはルーニャに寄りかかりながら倒れる。


「あ、あ、あ?」


────────


いつの間にか、ルーニャは顔をルシュに掴まれて地面に押さえつけられていた。


「これは私の慈悲だ」


そう言うと、ルシュはなにかの魔法をルーニャの顔で使った。


ルシュの使った魔法は脳を破壊させる魔法。使われた人間は脳が破壊され死亡する。


「これで、あとはお前だけだ、ハイウェイ」


…………


ハイウェイは静かに、息を整える。


分かっていた、こいつには勝てないことなんて。そして覚悟も決めていたつもりだ。だが、仲間が死ぬのはこんなにも……


「悲しいな」


ここから先は、人外の戦い。


既にハイウェイの魔力量は人間の持っていい魔力量を優に超えていた。


魔力量14.3億、それが覚醒したハイウェイの魔力量だ。


先程のハイウェイよりも、もっともっと速く、秒速3000キロのスピードでルシュの首を捉える。


「!」


ルシュの首から血が流れる。血が流れたのは“幾百年“ぶりか。そう思うルシュ。


続けて攻撃しようと剣を振るう。それに対してルシュは防御魔法を展開する。だが、展開した防御魔法は破壊される。


そのままルシュの腕に剣がめり込む。


────────この戦いが決着したのは、それから17秒後、だが戦っているふたりの中では一時間以上の時が経っている。


身体中から血を流すハイウェイ。


たとえ3億1000万から14億3000万になったとしても、ルシュからすれば誤差の範囲内だ。


ルシュの魔力量は100億、今だその差は7倍の差がある。


「こんな胸の踊った戦いは何年ぶりか、お前達には感謝している。だが、お前達は選択を間違えた」


「お前達は逃げるべきだった、生き残りたいのなら、戦う相手は選べ。死んだら元も子もない」


「だが安心しろ、私の最近の夢は────人間のフリをすることだ」


ルシュは今までに無いほど、魔力を込めた一撃を放とうとする。


それをただ呆然と見るハイウェイ。


想うことは、仲間達のこと。だがここで謝るのは間違っているのだろう。誰も責めないだろう。なぜなら俺たちは、世界最強のパーティーだから。


「……生まれ変わったら絶対お前を倒す。それまで待っとけよ!クソ野郎!」


ハイウェイの声が聞こえたのか、ルシュは少し笑うと魔法を放つ。


それはこの異空間を白く染め、異空間ごと消滅させた。





街には朝日が差し込んでいた。雲ひとつない青空、鳥のさえずりが聞こえる穏やかな朝。


だがルシュの立っている裏路地には、バラバラに散らばっている破片、男だったのか女だったのかも分からない黒焦げの焼死体。腹部に大きな穴を開けて死亡している男。少しの傷を負って横たわっている少女。


ルシュの姿は、先程とは大きく違い、まるで年齢が若返ったかのように、小学生低学年ほどの姿に変わっていた。


「…………はぁ」


ルシュは溜息をついてから重い足取りで裏路地を出た。


そのまま歩き続け、ルシュはある場所へと向かう。


途中、道路からは緊急車両のサイレン音が聞こえてきた。


そして、ルシュが向かった場所はどこにでもある二階建ての宿だった。そのまま二階の一番奥の部屋に入る。


「ルシュ、お前どこいってた?」


そう言ったのは『ハヤト』、異世界転移者である。年齢は21歳、大学のラボで異世界転移の研究をしていたところ、一年間異世界に閉じ込められることになった。


ハヤトは朝食としてか、タマゴの乗っているパンとコーヒーを飲んでいる。


「む?いや少し街をぶらぶらとな」


「お前まさか、ヒーローを殺したか?」


ハヤトはルシュを見ながらいきなりそんなことを言う。その目から真剣さはあまり感じられない。


「いやお前だな、お前以外にヒーローを殺せる奴はいない」


既にテレビは速報でヒーローが壊滅した件で埋め尽くされていた。


ルシュはモジモジと手を動かす。


「しょ、しょうがないだろ?久しぶりに暴れたかったのだよ」


「バーカ、そんなんで人間のフリなんてできるか」


「うるさい!説教など聞きたくない!」


ルシュはハヤトのみぞおちを思いっきり殴る。


アドローの盾と腹を貫いた拳、だがハヤトにはノーダメージだった。


「俺をどんだけ殴ったって魔法使ったって無駄だよ、なぜなら俺は、ここの世界の人間じゃないんだから」


ハヤトはこの世界の人間では無い、それ故に、()()()()()


魔力量0。それは例えるならゲームのバグキャラのようなもので、当たり判定はあるものの、最初からHP0の者にいくらダメージを与えても0よりは減らない。そのようなものだ。


「ちぇー、つまんないな」


「お前、少しは感謝という気持ちを覚えろよ。俺がいなかったら絶対人間のフリなんてできないぞなんせお前は────」


「悪魔の王、〖ルシファー〗なんだから」


そう呼ばれたルシファーは、フンと言いながらベットにダイブする。そのまま壁の方に寝返りを打つ。


やれやれと思い、またパンを口にしようとしたその時。


「ちょっとハヤト君!また兄妹喧嘩?」


2人の関係は兄妹ということにしてある。そして今部屋に入ってきたのはこの宿の大家、『アメリア』、ハヤトが異世界でただ一人、好きになってしまった人物である。


ハヤトの心拍が上がる。それには二つの理由がある。


一つ目は単純に好きな人が部屋に来たから。


二つ目の理由は普通なら考えられない理由で、『ルシュがアメリアを殺してしまうのではないか』と思ってしまうから。


ルシュにしてみれば人間を殺すなど瞬きするほど容易いことだ。簡単に言うなら好きな人の前にいつ爆発するか分からない爆弾が置いてあるのと同じだ。そりゃ心拍も上がる。


「アメリアさん、いや兄妹喧嘩でもないんですけど……」


「ふーん、ならいいんだけど……それにしても2人とも早起きだね、まだ5時半だよ?」


元々ハヤトは早起きな方で、ルシュはそもそも睡眠がいらない。


「まぁそうですね……」


会話が続かないハヤト。


「フッ、そもそも悪魔に睡眠などいらないから」


ルシュは壁の方を見ながら呟く。


「ルシュちゃん、また悪魔のフリしてるの?ほんとに好きだね〜」


そう笑って答えるアメリアだが、顔はあまり笑ってない。


「悪魔のフリ?お前今、悪魔の────」


「ああ!そうなんですよコイツ将来悪魔になりたいとか言ってるんですよ!ちょっとやばいですよね〜」


笑って誤魔化すハヤト。


「うーん、まぁ夢を見るのは自由だから私はとやかく言わないけどさ。んじゃ!そろそろ戻るねー」


そう言ってアメリアは部屋から出ていく。


「…………ふぅ」


「……お前、あいつのことが好きなのか?」


いきなりそんなことを言ったルシュにハヤトは思わずビックリする。


「は?そ、そんな訳、な、無いだろ?」


「なるほど、好きなのだな」


悪魔にすら感情を隠せないハヤト。もしくは人の心が読めるようになった悪魔か。


「まぁいい、それよりあいつ、私が悪魔だって分かってるな」


「だろうな、何となくバレてる雰囲気はあったし……」


軽く済ませたハヤトだが、実際妹が悪魔だとバレているのは相当マズイ状況だ。自分の宿に悪魔が住んでいるなんて、誰が気にせずにいられるか、悪魔退治として国の兵士らが来てもおかしくない。


だが、そうは言ってもハヤトにはどうすることもできない。そもそもこの宿にはタダで泊まらせてもらっている、さらに食事付きで。異世界人故に働くことも出来ず、途方に暮れていたハヤトをアメリアは救ってくれたのだ。


だからここを出ていくということはホームレス生活をすることになる。悪魔の王、ルシファーを抱えて。まぁホームレスのお供としてはこれ以上にないほどの逸材だろう。


「だからこそ、お前には早く人間のフリをできるようになって欲しい、だから今からある場所へ行く」


ハヤトはコーヒーをぐいっと呑むと席を立つ。


「あるところ?」


ルシュはチラッと、席を立ち自分の元へに近づいてくるハヤトの顔を見る。


「無法地帯〖タヤオイヘ〗に行く、詳しいことはそこで説明する」


タヤオイヘとは、この世界の貧困区で、治安は最悪、犯罪など当たり前に行われている地区である。ハヤトのいる王都からの距離は400キロ程、とてもすぐに行ける距離では無い。だが、


「ふむ、わかった。と言っても、移動は私の転移魔法なのだろう?」


転移魔法ならどれだけ距離が離れていても一瞬で行くことが出来る。転移魔法にも膨大な魔力を使うが、ルシファーには関係ない。


「そうだ、準備はいいか?」


「私に準備という言葉は必要ない」


ルシュはそう言いながらベットから飛び上がる。そしてハヤトの隣に並ぶ。


顔立ちは全く似ていない世界最弱と最強の兄妹。年の差14歳、正確には2979年だが。果たして悪魔は人間のフリをすることができるのだろうか。


ルシュが転移魔法を展開し、2人は目的地へと転移した。



〘二章 タヤオイヘ無法地帯〙



帰還まで残り7ヶ月


そこは、到底人が住める場所には見えなかった。多くの建物はトタンや木材で作られている手作りの家か石造りで建てられている。壁には落書きやヒビ割れも多くある。


露天商から香辛料や生肉の匂いが漂う道には多くの人が行き交っていて歩きずらい。


少し人目のつかないところを見ると、そこでは殴り合いの喧嘩が起こっており、道の端には全く動くことなく倒れている人もいる。


そんな無法地帯から少し離れた所にハヤトとルシュは転移した。


「で、私はあそこで何をすればいいのだ」


「ナーニ、簡単な事さ、今日一日、『誰も殺さずあそこで過ごせ』それだけだ」


ハヤトがそう言うとルシュはピンと来ていないのか首を傾げる。


「それは私が人間のフリをするために必要なことなのか?」


「知ってるか?普通7歳の少女は人を殺さないんだぞ」


ハヤトはバカにするようにルシュに言う。


「お前、私の事舐めているのか?人を殺さず一日過ごす、そんな容易いこと余裕だ!」


そう言いながらルシュは街へと向かって走っていく。


「夕方6時!ここ集合なぁ!」


ハヤトは去っていくルシュに向かって言う。さて、これであとは待つだけだ。……暇である。



「にしてもハヤト、私の事をあんな舐めていたとは、攻撃が効かないと言って調子乗りすぎだな、拘束魔法くらい通じるはずだし、今度縛ってやろうか」


ブツブツ独り言を言いながら街を歩くルシュ。


だが、傍から見ればまだ歳の若い少女が一人、無法地帯を歩いている状態だ。さらに服は街に溶け込めるように薄いワンピースを着ている。


犯罪に巻き込まれないわけが無い。


「二ヒヒ」


建物の影に隠れた数人の男が、ルシュを見て下劣な笑みを浮かべ、ルシュと同じ方向へ歩く。


「さて、一日どう過ごすべきか……人でも殺……普通7歳の少女は人を殺さない、か」


ルシュの思考回路は未だ悪魔の思考回路で、暇だから人を殺すという到底人間の思考回路では無かった。


ルシュは暇そうに頭の上で腕を組みながらボーッと街を歩く。


「おーい、そこの子、ちょっといいかな?」


20代くらいの男数人がルシュを建物の裏へと誘う。


ルシュは虫を見る目で男達を見るが、無視して歩き続ける。


「おいおい無視するのは良くないよお嬢さん、ちょっとこっち来な」


無理矢理ルシュの腕を持って引っ張る。建物の裏に連れていかれる姿を街を歩いている多くの人が目撃した、だが、誰一人として、女の子を助けようとする人はいなかった。理由はひとつ、助ける意味が無いから。


無理矢理連れてこられたルシュの前に、数人の男が立つ。ルシュは黙って男達の顔を見上げる。


「……」


「君さ〜こんなとこで何してるの?ここの人じゃないよね?」


チャラい男の質問にルシュは不思議そうな目で男達を見る。


「何をしている?ふむ、男達に絡まれていると言うのが正しいのか、それとも街を歩いているだけと言うべきか、はたまた人間のフリを────」


「おいおいおい、ちょっと何言ってるのか分からんないけど君この街のルール知ってそこ歩いていたんだね?」


男は腕をポキポキ鳴らしながら、クスクス笑う。


「この街のルール、強者に逆らってはいけない、簡単なルールだろ?」


本当はそんなルールなんて無く、男の虚言である。しかし運の悪い男だ、強者に逆らってはいけないのならば、ルシュはこの地帯のボスになれる。


「なあなあなあお前これから何されるわかってるか?」


「……さぁ」


「お前はこれから!俺たちのおもちゃにされぶふぇぇぇ!!!」


男がそう言いながらルシュの体を触ろうとした時、ルシュは男を殴り飛ばした。


飛ばされた男は石造りの壁にぶつかる。


「お、おい……」


仲間が男に駆け寄る、だが、男は死んでいた。


「あ」


ルシュは殴ってからすぐに気づく、人を殺さないで過ごすのはこんなに難しいのか、と。


少しイラッとしたから殴った、その結果死んだ、さて、どうしたものか。


「お、お前今なにをした!」


「殴っただけだ、なんだ?貴様も死にたいのか?」


ルシュが脅すようにそう言うと男達はひぃぃと言いながら走って逃げて言った。


残されたルシュは壁に埋もれてる男を見ながら考える。


「大丈夫、まだ一人だ、ノーカン、ノーカンだこれは」


ルシュはそう言い気持ちを切り替えてまた街を歩き始めた。



午後6時


「お、殺人犯がきたきた」


ハヤトは自分の元へ歩いてくるルシュを見ながらからかうようにそんなことを言う。


「はっ、殺人犯?物騒なことを言う奴だな」


「いや本当の事だろ、36人、殺りすぎだ」


今日一日でルシュは36人、人を殺した。だが絡まれやすい姿で、実際何度も絡まれた中、36人は少ないと言うべきか。


「……」


ルシュは黒と紫色の服に服装を変え黙って遠くの街を眺める。


「だが、殺したのが全員犯罪者だったのはよかった、それは褒める」


「そうか……」


そう、ルシュが殺した人間は全員何かしらの犯罪を起こしている人間で、中には殺人をした人もいる。


結果、タヤオイヘの治安は多少良くなったらしい。だが根本的な問題が解決しない限りまた治安は悪くなるだろう。


「ハヤト、知っているか、お前はこの世界が異世界だと言っているが、それは違う。この世界はお前の元いた世界と同じ宇宙にある、実在する世界だ」


「…………は?」



〘三章 エルガリア王都〙



帰還まで残り5ヶ月


夕方頃、ハヤトとルシュは部屋で話をしていた。


「ルシュ、明日は王都中央区に行くぞ」


ハヤトは窓の外を眺めているルシュに向かって言う。


無法地帯に行ってから2ヶ月、ハヤトはルシュが人間のフリをできるようになるために色々やってきた。その結果、出会った日よりかはだいぶマシになった。


だからハヤトはルシュを王都中心区に連れていくことにした。


「いいか?王都では絶対に暴れるなよ?」


王都中央区は国で一番の発展地域で、国王や権力の大きい人間も多く住んでいる。魔法により、中央区全ては監視されている。人を殺せば誰、犯人が誰かはすぐに分かる。


「ここで人を殺せば、お前には人間のフリはできない」


「ふむ、よかろう、私に不可能の三文字は存在しない」


前にもそんなことを聞いたような気もするが、と思うハヤト。


話も終わったことだし、読書でもしようかと思ったその時。


部屋の扉が開いた。


「ハヤト君……今の話って……」


開いた扉の向こうにはアメリアが立っていた。しくじった、ハヤトはそう思う。


ついにバレたか、さてどうしたものか、ルシュならいくらでも記憶の改ざんくらいできるか、とハヤトは考えるが、一方ルシュは。


アメリアを興味のなさそうな目で見ていた。


「ルシュ……」


昔のルシュなら、こんな反応はしなかっただろう、今はどこか余裕のある反応を見せる。それは明らかな成長の印だった。


「はい、多分アメリアさんの予想通りです」


「そう……そっか!まぁ薄々気づいていたんだけどね〜」


そう言いながらアメリアはアハハと笑う。


まぁだろうなとハヤトは思う。ハヤトも薄々バレているだろうとは思っていた。


「なら、どうして何もしなかったんですか?ここにいるのは、悪魔なんですよ?」


ハヤトはルシュの方を見てから言う。


「確かに悪魔かもしれないけど、今はそう見えないし、大切な妹なんでしょ?妹を奪うことなんて私はしたくないから」


「……アメリアさん、あなたは、なんでそんなに優しいんですか」


アメリアに対する好意は上がる一方、自分はここの世界の住人じゃないのに。


「別に、深い理由は無いよ、ただ性格がいいだけ。ほんとにそれだけだよ」


深い理由は無い、ハヤト達に優しいのはただの善意に過ぎないと、アメリアは優しい声色でハヤトに言った。



話し合いの結果、中央区にはアメリアも同行することになった。


アメリアも中央区で買い物などをしたいと思っていたからである。


午後3時頃、買い物や観光を終え、そろそろ帰ろうと大通りを歩く3人、身長差から傍から見れば家族に見えるだろう。


まぁそれは置いといて、肝心な王都でのルシュはどうだったのかという話だが、ルシュは一人も人間を殺すことはなかった。


いくらハヤトとアメリアがいたからと言っても、誰も殺さなかったことは相当の進歩だろう。


「いやー買い物出来てよかったー」


アメリアは荷物を背負いながら嬉しそうに言う。


「そうですね、僕も初めて中央区に来れてよかったです」


やはり中央区、人数(ひとかず)も多く技術も発展している。そんな街を好きな人と歩く、言ってしまえばデートみたいなものだ。


それにルシュも暴れなくてよかったと思うハヤト。


「それに、ルシュちゃんも、暴れなくてよかったね」


「それ、褒めているのか?それとも私をバカにしているのか?」


ルシュはジト目でアメリアを見る。


2人の会話を聞きながら、これならあと一歩ってとこまで来たと言えるだろう。そんなことを思っていると、前から2人の兵士が歩いてくる。


「ちょっとそこの君、少しいいですかね」


若干歳をとっている兵士はハヤトを見ながら職質でもするかのように話しかけてくる。


「はい?なんですか?」


ハヤト達の前に来た兵士2人を、ルシュは下から見上げる。


「いやねーちょっと君の妹に用があるんだけど、本部まで来てもらえないかな?」


兵士はニコニコ笑いながら言う、その笑みは反論は許さないとでも言っているように思えた。


だが、ハヤトは嫌な予感が止まらなかった。このままついて行ったら、絶対やばいことになる。


──妹に用がある?心当たりはひとつしかない。妹がルシファーとバレたってことだ。だがもし本当にその件で連れていこうとしているのなら、この兵士はバカすぎる、ルシファーを刺激したらどうなるのか分かっていないのか?中央区は余裕で消滅するぞ。


「2人とも、逃げるぞ」


その言葉に2人は察したのか、ハヤトのタイミングに合わせて2人は猛ダッシュする。


「おい!待ちなさい!」


2人の兵士はハヤト達を追いかける。


「対象が逃げた!方向は東門、作戦Bを決行しろ!」


兵士は魔法で他の兵士達に連絡する。


すると、別の方向から兵士達が向かってくる。


「ちょハヤト君、どういう状況!?」


隣を走るアメリアはそうは言うもこの状況を楽しんでいるかのようだった。


「すいません今はとにかく逃げましょう!」


3人は裏路地に入り、兵士達の目から離れる。その一瞬の間でハヤトはルシュに言う。


「ルシュ、転移魔法頼む」


「うむ」


そう言うとルシュはすぐに転移魔法を展開した。


────────兵士が駆けつけた時、既に3人の姿は無かった。


「……逃げたか、だがこれでハッキリした、あの子どもはルシファーだ」



〘最終章 ルシファー討伐作戦〙



帰還まで残り3時間


中央区に行ってから早五ヶ月、いよいよハヤトが元の世界に戻る日がやってきた。


中央区に行った後からも、ハヤトはルシュが人間のフリをできるようになるためにさらに色々やった。例えば人間を襲う魔獣退治など。この魔獣退治だけでも、多くの人を救ったことに繋がる。


今のルシュはサイコパスの人間より人間だろう。


後3時間、ハヤトの部屋にはルシュとアメリアがハヤトと最後の時間を共に過ごすために豪華な夕食を広げていた。


「後3時間か〜楽しかったなぁ」


アメリアはワインを呑みながら言う。


「そうですね……まぁでも多分また会えますよ」


大学の研究で異世界に行くことが出来る装置を作ったハヤトは、そもそも異世界には1分だけ滞在するように設定したはずだった。だがエラーが発生したのか滞在時間は1年になってしまった。


ポジティブに考えれば異世界に行けることは可能と分かったため、結果的にはハヤトの作った異世界装置は上手く作動したと言えるのかもしれない。


「ルシュちゃんもどっからどう見ても人間だし、ハヤト君すごすぎるよ」


「はっ!私に不可能なことは無いのだ!」


「いや俺がいなかったら絶対人間のフリできてないだろ」


「そうだハヤト、今までの礼としてお前の願いをひとつなんでも叶えてやろう!」


ルシュ思い出したようにハヤトに向かってそんなことを言った。


「願い……か、いきなり言われてもなぁ」


残り3時間でできること、ハヤトは腕を組んで考える。すると、


バァァンと、何かが爆発した音が外から聞こえてきた。


「なんだ今の音?」


「来たか……」


ルシュはこれが起こることが分かっていたかのように面倒くさそうに立ち上がる。


「……戦争より酷いことになりそうだ。ハヤト、お前は人間のフリをするなら人を救えと言っていたな?だから私は可能な限り人を救う、お前はせいぜい頑張れ」


確かにそんなことも言ったが、まさかルシュ、お前は人を自ら救おうとしているのか?


そう思ったのも束の間、ルシュの姿が消える。


再び現れたのは8秒後。ルシュが言うには半径20km内にいる全ての人間を半径20km外に運んだと言う。


ついさっきまで、あんなに楽しく食事をしていたのに、一瞬でそれは壊れた。


「ルシュ、やるんだな?」


ハヤトは察した。さっきの爆発音、そしてルシュの反応、恐らく、ルシファーを討伐しに国の兵士達が来たのだろう。


「あぁ、売られた喧嘩は買うのが私なのだよ、お前らはルシファーをなめすぎだ」


そう言い残し、ルシュは姿を消した。


「ルシュちゃん……」


──ルシュ、住民を避難させたのは非常にいい判断だ、だが、だがなぜ!アメリアを避難させなかった。


部屋には、ハヤトの他に、アメリアもいた。


ハヤトにはどんな攻撃も通用しないため、ここにいても問題無いがアメリアは違う、こんなところに居れば間違いなく戦いに巻き込まれる。


──クソっ、俺が守れってことなのか?



雲一つなく、月が街を照らしている。大人の姿になっているルシュはそんな夜の街を空中から眺める。目線の先には、ルシファーを討伐するために編成された部隊、《ルシファー特別緊急討伐英雄団》が陣を構えていた。


──150人と3匹、だが人間は一人一人が強い、最低魔力7000万最大1億超え。そして私を倒すために召喚したか、『サタン』に『イフリート』、それに『アスモデウス』まで、どれも魔力10億超えの悪魔達……合計すると150億程か?ふっ負けているではないか。


敵の戦力を確認すると、ルシファーはクククと笑う。


「聞こえるか!ルシファー!」


討伐部隊のリーダーがルシファーに向かって声をあげる。


「お前の悪事もここまでだ!今、お前は死ぬ!」


「ハッ!私が死ぬ?寝言は寝て言え、死ぬのはお前ら、人類だろ?」


紫に輝く眼光、その目を見た討伐部隊の一部はゴクリと唾を飲む。


「さぁ、始めよう、これは人類の命運がかかっている戦いだぞ?」


ルシファーはそう言うと、一瞬でリーダーの前まで行き、消滅魔法を使う。


ルシファーに対抗するように討伐部隊は総攻撃を始める。


「よぉ!ルシファー!ひっさしぶりだなぁ!俺の事覚えているかぁ?」


魔力量30億、サタンはルシファーに攻撃しながら話しかける。


「……相変わらず馴れ馴れしいな、貴様は」


ルシファーとサタンは猛者同士の戦いを繰り広げる。ふたりのタイマンに介入することは出来ない。


それに加えて150人からの魔法攻撃により、ハヤトの暮らした街は瞬く間に破壊されていく。


「ふっ、500年前よりは多少マシになったな、だが、まだ甘い!」


ルシファーはサタンを吹っ飛ばす。飛ばされたサタンはいくつもの建物を貫通していく。


飛ばされた位置にルシファーは俗に言う特級魔法を放とうとする、が、それをイフリートがルシファーをぶっ飛ばすことで防ぐ。


イフリート、身長5mの怪物だ、殴る力も強く、不意打ちされ防御出来そこねたルシファーはその力に耐えられなかった。


「ほうやるな、では次はこちらからいく──」


喋っている途中、ルシファーの元に巨大なエネルギー弾が落とされる。そこには半径200mのクレーターが作られた。


どちらかというと押されているルシファー、果たして勝つのは人類か、ルシファーか。



作戦開始から数時間。


「…………おい、おい、おい!ルシファー!テメェ!何やってんだよ!」


拘束魔法に囚われたハヤトの前には、ピクリとも動かないルシファーがいた。


ルシファー、────敗北。


いや、本当は勝っていたのだ、全ての人間を()()()()にし、悪魔も結界に閉じ込めた。だがある一人の人間のせいで、全てが逆転した。


その名は、ルーニャ、世界最強の勇者一行の唯一の生き残りだ。彼女は確かに一度死んだ、だが、彼女の奥義、〖ネクロ・リジェネレーション・インフィニティ〗によって一度蘇った。


ルーニャによって全ての人間、悪魔は全回復。この時点でルシファーの魔力の残量は3割と言ったところだった。


その状態で戦闘は振り出しに戻った。これがルシファーの敗因である。


「みんな、仇は、打ったよ」


昔に比べて大きく雰囲気が変わったルーニャは、死んだ仲間達に向かって涙声でそう伝えた。


一方のハヤト。どちらにせよ後数分もすれば元の世界に戻れるため拘束されようが何されていようが問題無いのだが、だが。


「何も、残ってないじゃないか」


ハヤトが過ごした街は、跡形も無く消え去っていた。アメリアも、戦闘に巻き込まれ、もはやどうなったのかも分からない。


──ルシファーは言った、この世界は実在する世界だと、つまり、俺がここに来たから多くの人間が死んだ、俺の過ごした街も、アメリアさんも。


なら、もういいや。ごめんなさい。


「ルシファー、俺からの願いは、『好きにしろ』だ」


拘束されているハヤトは横たわるルシファーの顔を見ながらそう言った。


すると、ルシファーは目を見開く。


「なっ!まだ生きていた!?」


すぐに反応し、魔法を放とうとしたルーニャーだったが。


「〖拾参〗」


ルシファーがそう言うと、全ての人間は自分の体を動かすことが出来なくなった。


「体が、動かない?」


ルーニャーは体を動かそうとするがピクリとも動かない。ルシファーはルーニャーの元に歩きながら全員に話すように言う。


「なぜ人間は魔法に名前を付けたがるのだ?」


ルシファーが持っている魔法の数は40034種類。だがその九割が使い物にならない魔法だが。


それは置いておいて、40000種類以上の魔法全てに名前が付けられているとして、普通に考えて覚えることは出来ないだろう。


だからルシファーはもっと簡単に、誰でもすぐに分かる名前の付け方をした。それは、『強い魔法順に数字を付ける』だけだ。


例えば、先程ルシファーが使った〖拾参〗、これはルシファーが持っている40034の魔法の中で、13番目に強い魔法である。


「私には分からなかった、人間はなぜそんなにめんどくさいことを好むのか。だが、それは私が『ルシファー』だから理解できないのだろう……まっ、こんなくだらん話は言い、私はコイツの願いを叶えなければならないのだ」


その声には、怒りが含まれていた。


何に怒っているのか、そんなのひとつしかない。


いくらルシファーでも、アメリアに全く無関心でも無かった。むしろ多少の好印象もあった。あのルシファーが。そしてこの街もルシファーには唯一思い出のある街となっていた。


だが今は更地と化した。


「生き残りたいなら、戦う相手は選べ」


いつかベロニカが言った事をルシファーは言った。


「〖壱〗」


壱、言わずもがな、ルシファーが持っている最強の魔法。


その魔法の内容は、『自分自身の魔力量を1000倍にする』だ。


「がっ、あっ」


ルシファーの魔力量は現在100兆。ありえない魔力量にその場にいるだけで人間は死亡した。


「いつだがこの世界は実在する世界と言ったが、あれは嘘だ。本当はこの世界は、存在しない、異世界だ」


背中に白い翼を生やし、頭上には大きな光輪を浮かせた真の姿を表したルシファーは、ハヤトにそんなことを言う。


「なんだよ、いきなりそんなこと言って」


「はっ、今までの礼だよ気にするな。んでそろそろだろ?」


帰還まで残り数十秒。


──改めて考えると、この1年はなんだったのだろうか。俺はただ世界をひとつ破壊しただけなのではないか。


まぁどうやらこの世界はいわばゲームみたいなものらしいので、まぁ……まぁで済まされないか。


「ルシュ、俺が元の世界に戻ったらこの世界はどうなるんだ?」


「……さぁな」


ルシュはとぼけるように笑う。


「そろそろ時間だ、ありがとう人間。また会おう」


また?またってなんっ──────────



「あ、ハヤトさん、お帰りなさい!」


異世界から戻ったハヤトの前には、ラボの助手が立っていた。


「あ、あれ?俺、どれくらいの間異世界に行ってた?」


「えっ、設定通り、1()()()ですよ?」


──1分……なるほど、この世界においての1分が、あっちでは1年だったのか。


「どうでした?異世界は!あっその前にコーヒー入れますね!」


助手は目をキラキラさせながらハヤトの話を聞こうとコーヒーを入れに行く。


「あぁ……そうだな、これは作らない方がよかったのかもな」


「え?」


助手が驚いた声をあげるのと同時に、いきなり窓の外から紫色の光が差し込む。


「えっ!?なになに!?」


──な、なんだ?……嫌な予感がする、最悪なことが起きる気がする。俺の体は震えが止まらなくなった。


助手と一緒に窓から外を見る。


3階にあるハヤトのラボからは、東京の街並みがよく見える。東京上空には、紫色に輝く悪魔が、ラボの方向を見下ろしていた。


「……ルシュ────」

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