巨大建造物
一行の目の前に現れた巨大建造物は、ソウタの想像の3倍以上の大きさがあった。
地下から上がってくると、ぽっかり空いた平地にその建造物があり、周囲を山で囲まれている。
現在地から全貌を見ることは出来ないが、おそらく巨大なカルデラの中にいるような感じなのだろう。
「ひょっとしてこのカルデラも人工物なのですか?」
オオモリが尋ねた。まるでこの建物を隠す為に出来ているように見えたからだ。
「分かりません」
ユーリが答えた。
「ここは、2200年以前の等高線がある地図が、教会にもないのです」
彼女は残念そうに答える。
「カルデラの中に建造物を作ったのかもしれませんし、後年この施設を隠す為に築いたのかもしれません。もともとあった巨大な外壁に土が堆積してこうなったとも考えられます」
話しながら一行は建造物に近づいた。
改めて見ても大きい。ソウタ達が知っている一番大きな建物は首都にある1万人観客が収容できる競技場だが、それが3つは入るような大きさだ。
外壁の素材はコンクリートのようだが、ムラなく綺麗なクリーム色に塗装されいる箇所があちこちにあり。おそらく建物全体がクリーム色に塗られていたのだろう。
「1000年もこの状態で維持される物なのですか?昔の技術は魔法みたいですね」
オオモリは素直な感想を述べる。
建物は所々大きなガラス張りの部分があり、中の様子を伺い知ることが出来る。
現在人が利用しているようには、とても見えない荒れようだった。
それ故に建物の保存状態が驚異的に感じる。
「さすがに1000年も持ちません。ここは所々メンテナンスをされたような跡があります。完全に放置されて100年前後といった所でしょうか」
調査員の一人、シンバという男が壁を調べながら言った。彼は長い栗色の髪を後ろで縛っていおり、オオモリ達に比べるとかなり華奢で優男に見える。ソウタは彼に対して潔癖そうな第一印象を受けたが、むしろ逆で、壁や土、植物、動物の糞らしきものまで、慣れた手つきで手に取って調べている。
「ということは、少なくとも100年前までは誰かがいたんですね」
同じく調査員のカンダという男が言う。彼はシンバとは対照的に黒髪を短く刈っている。ただし華奢なのは一緒。彼も当初は口数は少ない、というより殆ど喋らなかったのだが、ここに来て言動が積極的になっている。
太古の建造物を目の当たりにして、教会の調査員達も興奮が抑えられない様子だ。
「あれが建物の名前かな?」
ソウタが上を見ながら言った。
基本的にはクリーム色の外壁なのだが、一番上には赤紫色の巨大な看板のようなものがあり、そこに大きく古代文字が書かれていた。
「アエオン?アーオンかな?」
ソウタは古文の授業を思い出しながら読んでみた。共通語が制定される以前は、世界には様々な言語があったという。ソウタの住むこの地域の古文は、使用する文字だけで数千字以上あり、学生時代は辟易としたものだ。
看板に書かれている文字は、その中でも比較的現在の共通語に近い『アルファベット』と呼ばれる種類の文字だった為、ソウタも何となく読んでみることが出来た。もっとも読んだ所で意味はまったく分からない。
「この建物は、要塞か何かですか?」
ソウタが尋ねる。
「いえ」
ユーリが答える。
「ショッピングセンターです。買い物をする場所」
オオモリとソウタは呆然と建物を見上げた。
(クジラでも売ってたのか??)
彼らには当時の様子は全く想像出来なかった。