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マーク専用機

 スティーブの予想通り、スプリンクラーの物理バルブの前に彼はいた。


「一人とは、えらい自信だな」

 オオモリが言った。

「しかも素手とは」

 ソウタが返答する。


 マーク専用機は全身黒一色で、見るからに威圧感がある。

 形は量産型と似てはいるが、装甲の形状が微妙に違うようだ。一番大きく違うのは、関節部分も何かしらで覆われており、金属の骨組みが露出している部分が無いこと。即ち、そこに電撃を加えるという戦法が通用しない。

 手の形状を見るに、武器を使ってもおかしくはないのだが、ソウタの言う通り両手とも何も持っていなかった。


「下手に強力な武器を持って奪われることを警戒してるのか、それとも徒手格闘タイプなのか・・」

「たぶん両方でしょうね」

「だな」

 二人とも、一筋縄ではいかないことを既に感じている。


「自分とソウタで当たります!スティーブは三人の警護を!」

 オオモリは全員に向けて指示を出した。

「了解です」

 スティーブが応答する。

 ほぼ同時にマークがオオモリに突進して来た。


「速い!」

 ソウタが言うと同時に、マークのドロップキックを躱すオオモリ。

「そんな大技食らうかよ!」

「ただの挨拶です」

 すぐに体勢を立て直し、ミドルキックを放つマーク。

 オオモリは盾でガードする。

「ようやく喋ったな」

「もう話すことはありません。全員排除します」

「やってみろ!」

 オオモリが斧を一閃。

 マークはそれを腕でガード。

「何!?」

 マークの装甲は斧では貫けない。


「無駄ですよ」

 マークはガードした反対の手でストレートパンチを打つ。オオモリはバックステップ。

 マーク追撃のワンツーからのローキック。オオモリ、なんとかステップで避けたものの、大きく体勢を崩す。

「こっちだ!」

 止めに行こうとするマークに、背後からソウタが打ち込んだ。

 量産型ならばバッテリーを破壊できた腰部にヒット。しかし、やはり装甲は貫けない。

「無駄ですって」

 マークのショルダータックルに、ソウタが吹き飛ばされた。


「大丈夫か!」

 オオモリがソウタに声をかける。

「なんとか」

「しかし、参ったな。動きがシンプルなのは一緒だが、それを補って余り有るほど速い。。」

「そして硬いっすね」

「でも、やるしかないだろ」

「何か策はありますか?」

「無い。目を慣らして、装甲を貫くまで叩く!」

「よし!」


 二人は左右に散会する。

 そして同時に斧のフルスイングを加えた。

 オオモリは腕、ソウタは脚にヒット。

 いや、腕と脚でガードされた。

 マークは、おそらく装甲の厚い部分でわざと受けるような防御方法をするようだ。

 そして、ソウタの胸部を狙ってパンチを4連打。

 鋭く突きさすような、文字通りパンチというよりは突きという打撃。

 たまらず2発被弾する。

「おらっ!」

 背後からのオオモリの斧が腰部にヒット。

 だが貫けない。

 マークは振り向きざまに裏拳を出す。これは、ただの牽制で、続けて細かい突きを7連打。三発被弾。

 あえて顔面や腹部を狙わず、胸、肩、腕といった急所ではないが、避けにくい部分を狙って来る。

 一撃必殺のフルスイングではなく、鋭く、細かく、回転の速い連打。

 パワー、耐久力、スタミナに圧倒的な自信がある戦法だ。

 もっとも、その連打の一撃ですら一般人なら必倒の威力がある。普段から打たれ慣れている二人だからこそ何とか耐えている状態だ。


「いけません。二人が目に見えて消耗してきてます」

 三人を守る体勢を崩さずスティーブが言った。

 一撃一撃は致命傷ではないが、肩に被弾すれば腕が上がらなくなる。胸に被弾すれば呼吸が浅くなる。

 実際2人とも肩で息をしており、鋭さを失った斧は空を切ることが増えた。


「ン゛ん゛ッ!」


 とうとうオオモリが、腹部の急所に前蹴りを飛弾した。

 たまらず転げるように待避する。

 すかさずソウタが間に入り、フォローの体勢を取った。

「大丈夫ですか?!」

「ああ」

 ソウタの問いかけに答えつつ、オオモリは防刃ベストの下に手を入れて自分の腹部を探った。

 蹴られたのは、ちょうど肝臓のあたり。幸い肋骨は正常な位置にあった。内蔵に刺さるようなマズイ折れ方はしていない。しかし、それを懸念するような衝撃だった。


「大丈夫だ。10秒時間をくれ」

「よしっ」

 そう答えつつも、ソウタは頭の中で計算した。

(30秒だな)

 10秒では立ち上がるのがやっとだろう。

(受けていては時間が稼げない)

 オオモリへの攻撃で思い知らされた。マークに打たせてはいけない。あのスピードで連打されたら予測も何もない。

 ソウタは逆に自ら、細かい打ち込みを連打した。マークはなんなく受け止める。

 マークの性能もあるが、それ以上にソウタの動きに精彩がない。彼は、はっきりと自身の消耗を自覚した。


(斧を捨てるか?)

 ソウタは考えた。体力が削られ、斧の重さをもて余し始めている。

 ならば警棒に変えてはどうか?打撃は通じないが、1ヵ所に突きを繰り返せば、あるいは装甲を破れるかもしれない。

(いや、ダメだな)

 斧をマークに奪われた時のリスクが大きすぎる。

 遠くに投げた所でマークの脚力なら簡単に拾いに行けるだろう。


(いっそのこと、あえて斧を渡してしまおうか?)

 そんな考えが度々頭をよぎる。

(いや、さすがに本末転倒だ)

 そして、すぐに我に返る。

 しかし、そんな考えを繰り返すほどに、マークが素手であることが、有利に感じてしまう。武器を持つことで、武器を手放せないという制約を課せられたように感じるからだ。


 何度目かの同じ思考が過った後、一瞬ソウタはマークを見失った。


「待てっ!」

 再度視界に捉えた時には、マークはスティーブ達の元へ向かっている。コンマ数秒集中を切らせた隙をつかれてしまった。

 ソウタとオオモリが意外に粘るので、先にやりやすい方へ矛先を変えたのか?

「行かさんよ!」

 オオモリがマークの前に立ち塞がる。

 しかし、まだ動きにキレがない。

 マークはなんなく迂回する。その間でソウタが追い付くことが出来た。

「マーク!」

 ソウタはわざと大声で呼びかけつつ、スライディングタックルで脚を払う。

 バランスを崩したマークは背中から倒れるが、アゴを引いて綺麗に受け身を取り、すぐに立ち上がる。


(あんなに丈夫なのに、受け身は取るんだな)

 くだらないことが頭に浮かぶ。

(ダメだ。集中力が落ちている)

 ソウタは焦った。


 スティーブがマークに応戦するも、性能差は明らかで、右肘から先がおかしな方向に曲がっている。

 しがみついた際に、振りほどかれ、ついでに折られたのだろう。


「どけ!」

 オオモリが盾に身を隠して体当たりをした。

 かろうじてマークを突き飛ばすことは出来たが、オオモリ自身のダメージも大きい。


 マークは勝ちを確信したように、ゆっくり立ち上がる。


「そろそろ終わりにしましょう」

 そう言うと、ある方向を向いた。

 売り場がある方角だ。


「チーーィ、ギギ、ギギ、ギギ、チーーィ、ギギ、ギギ、ギギ」

 それが何を意味するか、おおよそは全員が理解できた。


「最悪だ。。」

 そう呟いたのは、シンバ。

「どういう意味?なんとなく分かるけど・・・」

 ユーリが確認した。

 シンバはユーリを、そしてメンバーそれぞれを見て言った。


「集まれ。外敵が来た」

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