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6本脚のネズミの巣

 オオモリ隊長とソウタは手際よく降伏した男達を後ろ手に縛り上げた。

「分かってると思うが、降伏した相手に危害を加えるのは国際法違反だ。大丈夫だよな」

 槍使いの男が喚く。もちろん槍は押収されている。

「さあな」

 オオモリはめんどくさそうに応じた。

「オレは一切抵抗していないぞ。従順に拘束に応じている。アンタ達はオレを守る義務がある」

「適当なこと言うな」

 オオモリは一蹴した。

「危害を加えるのは違反だが、守る義務なんてあるか。虚偽の法律を盾に相手に何かを強いるのは詐欺、脅迫に該当する。ですよね?」

 オオモリは馬車から出て来た3人に声をかけた。

「その通りです」

 揃いの白い制服を来た3人の内の一人が答えた。

「げっ!何で教会の奴等がこんな所に?!」

 男は狼狽えた。

 しかし、鼻に何か霧吹きのようなものを吹き付けられると、数秒後には寝息を立てた。

 同様に、他の意識のある者も眠らされた。


「騒がれても面倒なので、とりあえず眠ってもらいました」

 教会の一人は事も無げに言った。三人の中で唯一の女性だが、なかなか肝が座っているようだ。

「凄い効き目ですね。我々の護衛なんて要らないんじゃないんですか?」

 ソウタが言った。

「これは正確に鼻粘膜から吸収させないといけないので、動いている人を止めるのは難しいです。それに、あくまで対人の薬品なのでネズミには使えません」

「ネズミ・・・試してみたんですか?」

「ええ」

 彼女の応答は最小限だ。


 数ヶ月前から新種のネズミの目撃、被害が急増している。

 大きさは小型の者でドブネズミサイズ、最大で中型犬ほどになる。今の所こちら側から危害を加えなければ積極的に人は襲わないが、雑食性で作物に被害があり、集団で家畜を襲う事例もある。

 大きさ以上に奇妙なのが、腹部にもう一対の脚があることだ。その脚は他と比べて小さく、歩行には寄与しないが腕のような働きをする。2本の腕で餌をかかえて4本脚で走って逃げる様子が度々目撃されていた。

 今回、その新種ネズミの巣らしきものが発見され、彼らはその調査団なのだ。


「そいつはやっかいですね。とりあえず、この捕虜どうしましょう。この場で無かったことにするのが一番楽ですが・・」

 オオモリ隊長が会話に割って入る。そして、彼の経験上一番現実的な方法を提案した。

「私たちが法を犯すことは出来ません」

 彼女は首を振って答えた。

「しかし、連れていくわけにも行きませんし、解放するには危険な犯罪者ですので、このまま置いて行きましょう。今、座標を連絡したので、教会の浮遊車(フライングモービル)なら1時間弱で囚人回収に来れるそうです」

 彼女は淡々と答える。教会の三人の中で年齢は一番若そうなのだが、他の二人が口を挟まず控えている様子からも、彼女がこのチームの責任者なのだろう。

「フライングモービル!宙に浮かぶ自動車!本当にあるんですか?!」

 ソウタが少年の目になった。この時代は自動車ですら珍しい。まず、車体そのものが高価である。そして、そもそも舗装道路が少ないので酷く燃費が悪く、実用性が低いのだ。

 興奮するソウタに対して、彼女はただ頷くだけで答えた。それは、それ以上は話すつもりはないという強い拒絶の意志を感じられた。

「そいつは、凄い。そんな物があるなら、何で馬車移動するんです?」

 オオモリは明らかに不信感を表して聞いた。

 教会からの仕事はとにかく情報が少ない。重要な情報が後出しで出てくることも度々ある。

 今回にしたって相手が教会と分かっていたら襲撃そのものが避けられたはずだ。新種とはいえ、たかが害獣の巣の調査に、なぜそこまで秘密主義を貫くのか。


「そんなに民間が信用出来ないなら、テメェらだけでやれ」

 オオモリは裏では何度もソウタに毒づいていた。


「申し訳ありません」

 彼女が頭を下げた。

「いや、アナタに文句があるわけじゃないんです。ただ、オレ達民間から見たら教会さんの仕事は腑に落ちないことが多いんですよ。せめて、こちらの命にかかわるような内容は、納得のいく説明を貰えるとありがたいですね。事実、私もソウタも死にかけましたから」

 意外にも彼女、ユーリが素直に謝ったのでオオモリは少し調子が狂った。

「まぁ、あれぐらいの相手に自分とオオモリ隊長が遅れを取ることは無いですけどね」

 ソウタがあっけらかんと言う。もちろん『死にかけた』というのはこの場を見た誰の目から見てもブラフだったが、オオモリ隊長が余計なことを言うなと目で咎めた。


「目立ちたくないんです。浮遊車は目立ちますから。巣の場所が他に漏れないようにこうしています。その為のご苦労を掛けていること、説明不足だったことをお詫びします。申し訳ありません」

 ユーリはやはり素直に釈明した。賢明で名高い彼らのことだ、ここで不信感を買うのは得策ではないと判断したのだろう。


「危険だからですか?いや、だからって行くのが嫌って言ってるんじゃないですよ」

 オオモリが尋ねた。彼ももう揉める気は失せていたが、単純な疑問として聞いた。

 ユーリは一旦、回答を思案したが観念したように言った。


「危険もありますが、巣のある場所がかなり特殊な場所なんです。ちょっと言葉で説明するのが難しいので、これは着いてから詳しく説明させてください」


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