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貯水槽の葛藤

 貯水槽のエリアには、複数のタンクがズラリと並んでいた。

「専門店街のスプリンクラーに使用するタンクはこちらです」

 スティーブの案内があるので、オオモリ達は迷わずに進むことが出来た。

 いくつかあるうちの1つとはいえ、そのタンクは成人男性の背丈よりも大きい。

 薬剤投入はカンダとシンバが担当することになった。二人は備え付けの金属梯子を登って行く。

 蓋は錆び付いてはいたが、カンダ持参の潤滑オイルで何とか開けることが出来た。

 蓋を開けると、一瞬ムワっとカビ臭さを感じたが、すぐに鼻が慣れるレベルで、水質はそこまで悪く無さそうだ。濾過装置が働いているというのは本当らしい。


「これ、全部入れちゃっていいんですよね?」

 シンバが階下のスティーブに確認する。

「はい。お願いします」

 スティーブが答える。

 最初の一瓶こそ手が震えたが、次第に流れ作業になり、ものの数分で作業は完了する。


「投入完了しましたよ。後はスプリンクラーを起動するだけですね。どこかにスイッチがあるんですか?」

 とカンダ。

「いえ、スイッチは私が電子制御で入れることが出来ます」

 とスティーブ。

「あれっ、じゃあもう動いてるんですか?カウントダウンでもしようと思ったのに」

 ソウタが軽くふざけて言った。

「いや、まだです」

 それだけ言ってスティーブは黙った。


「ん、なんだ?やっぱりカウントダウンします?」

 とソウタは、あえて軽く言った。

「そうですね。その方が、やりやすいかもしれません」

「スティーブ・・・」

 ユーリが声をかけた。

 スティーブは無言で振り向く。

「ひょっとして、迷ってる?」


「迷ってるワケではありません。こうするしか無いんです。ただ、少し他の手段が無いか、最終確認をしていただけです」

「それを『迷ってる』って言うのよ」

 ユーリの言葉にスティーブは何も返せなかった。

「何か引っ掛かる所があるなら、教えてくれない?」

 やはりスティーブは答えられない。


「麻酔薬とはいえ、かなりのネズミがそのまま永眠するからですか?」

 シンバが聞いた。

「そうなんですか?」

 とソウタ。

「はい。麻酔も量が過度になれば死に至ります。特にネズミのような小さい生物は、あまり長時間麻酔をかけると、眠っている間に生きる為の体温が保てなくなります。ここのネズミのように個体差が大きいネズミに対して、このような不確実な方法で投与する場合、多くのネズミに対して過剰にならざるを得ないでしょう」

 スティーブが沈黙しているのでシンバが代わりに説明する。

「なるほどな。我々は、もともと全て駆除するつもりだったんだけど、いざ助けると決めた後で聞くと躊躇する気持ちは分かるな」

 とオオモリ。

「何度計算してもこれが一番彼らの被害を最小限にする方法なんです」

 スティーブがようやく口を開いた。

「本来、このままいけば人類への被害が拡大し、最悪の害獣認定される未来しかなかったのです。それが、皆さんの来館で出来た希望です。迷う必要はありませんね」

 機械音声ではあるのだが、ソウタはスティーブの声には悲壮感を感じた。


「スティーブ!」

 ユーリが肩に手をかけて言った。

「私はアナタの決断に、とやかく言うつもりはない。でも未来の話なら出来る。アナタ、この遺跡を出たら私の秘書になりなさい!」

「秘書・・・ですか?」

「私には作りたい未来がある。それは、今回の旅で確信に変わった。いずれは世界政府の議員にもなる。その手伝いをしなさい!」

「・・・」

 唐突な提案にスティーブは困惑している。

「手始めに、このネズミ達が共存できるような研究を、教会でアナタがやりなさい。若輩者だけど、それなりの地位とコネクションはあります。カンダさんとシンバさんの地位とコネクションも併せれば、アナタに研究してもらう環境ぐらいは作ることができます。ですよね?!」

「ん?ああ」

「そうですね」

 ユーリの圧に押される形でカンダとシンバが答えた。

「現在がどんなに計算しても変わらないなら、もっと未来を見るの。未来なら、より良くなるように計算出来るでしょ!」


 ユーリはスティーブの両肩に手を置いて、じっと彼の顔を見た。

 スティーブはしばらく無言、その後、ものすごい勢いでファンが回った。


「ありがとうございます。ユーリさん。そしてみなさん。もう大丈夫です」

 スティーブの声から悲壮感が消えた。

 機械音声だが、確かに悲壮感が消えたとソウタは感じた。


「じゃや、改めてカウントダウンでもします?」

 ソウタが言った。

「いえ」

 とスティーブ。

「まだ何か?」

「もう、スプリンクラーの起動はしました」

「そっちかよ!切り替え早いな」

 一堂に笑いが起きる。

 しかし、その笑いはすぐに収まった。スティーブの様子がおかしいからだ。


「起動したのですが・・・放水されません・・・途中で止まっているようです・・・ここか!」

 スティーブが何かを確認しながら喋る。

 おそらく遠隔でセンサーのチェックをしているのだろう。

「いけません。1ヵ所物理的にバルブを閉められています・・・おそらく・・・」

「マークか!」

 オオモリが舌打ちをする。

「はい。おそらく。我々の進行ルートを見て作戦を察したのでしょう」

「じゃあ、そこに行ってバルブを開ければいいんだろ?」

「はい。ですが・・・いると思います。マークが・・・それも本体が」

「この前のとは違うんですか?」

 とカンダ。

「ええ。この前は量産型の警備ロボットの、通話機能を利用して喋っただけです。ちょうど私が皆さんに話したように。しかし、マークには専用機があります。軍の将校クラスの機体が。今の私のように人格を移して直接制御すれば、量産機とは比較にならない殺傷能力が出ます」

「マズいな・・・」

 カンダが激しく頭を掻いた。

 ユーリとシンバは腕組みをして何かを考えている。


「ちょうどいいじゃないですか」

 口を開いたのはソウタだった。

「どうせ、女王ネズミを確保した後に破壊する予定だったでしょ。向こうから来るなら、手間が省けていいじゃないですか」

「だな。とりあえず行きましょう。将校機か何か知らないが、我々が破壊してやりますよ」

 オオモリも賛同した。


「いつもすみません」

 ユーリが言った。

「それで行きましょう。頼ってばかりで申し訳ありませんが、よろしくお願いします!」

 二人に感謝と敬意を表しつつも、強い意志でユーリが決定を下す。

「ですよね。お願いします」

「お願いします。流石に帰ったら何か奢ります」

 カンダとシンバも同調した。

「秘書になったら私も何か奢ります。給料が貰えればですが・・・」

 とステーブ。

「沢山稼げるぐらい働いてくれよ。期待してるから」

 ソウタがそう言って、オオモリとユーリを見る。


「じゃあ行きましょう!」

 図らずもオオモリとユーリの声が揃った。

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