マーク
貯水槽に行く前に、スティーブは扉に大きく『C倉庫』と書かれた部屋に立ち寄った。
分厚い金属の扉を開けると、中の空気はひんやりしており、ユーリは軽く身震いをした。
部屋の中は、規則正しく何列も金属の棚が並んでおり、その中に大量の瓶や箱が整頓されている。
「これは薬品なの?」
ユーリが聞いた。
「はい。でもこの棚の物はほとんど役には立ちません。流石に変質しているでしょう」
そう言ってスティーブは奥に進む。
そして、銀色の金属製の大きな箱の前に立った。何かしらボタンのようなものを操作して扉を開けると、溢れた白い冷気がスティーブを包む。流石にソウタも、ここれが冷蔵庫、もしくは冷凍庫であることは容易に想像できた。
スティーブは中に入ると、大きな箱を両手で抱て持ち出してきた。
中には金属の瓶が2ダースほど入っている。
「カタログ値では100年持つことになってますが・・・」
そう言ってスティーブは瓶の上に付いていたボタンを押した。
他の全ての瓶も同様に押していく。
「1分お待ちください」
そう言うとスティーブは無言になった。オオモリとソウタには不思議な光景だが、質問するにも何を聞いていいかも迷う状態。教会メンバーが何も言わないので、きっと普通の作業なんだろう。そう考えてソウタも何も言わず並べられた瓶の蓋を、なんとなしに眺めていた。
しばらくすると、いくつかの瓶の蓋に何かが浮き上がってきた。赤い『✕』の字のようだ。
「ダメなのは3つ。意外と状態いいですね。これぐらいあれば足ります」
スティーブは✕の字が浮かんだ瓶を取り除き、他を箱に詰めなおした。
「品質検査だったんですか?」
ようやくソウタが理解して聞いてみる。
「そうです。お待たせしてすみません」
スティーブが答えた。
そして、箱詰めを完了し、箱を台車に載せた時、スティーブが機敏に扉の方を向いた。
「何か来ます」
「ネズミ?!」
ユーリが身構える。
「いえ、警備ロボットのようです。それも・・3体」
「3体!巡回ですか?」
シンバが声を潜めて聞いた。
「いえ、こんな所を3体で巡回はしません。明らかに我々が目的でしょう。見つかるの早かったですね」
スティーブは声を潜めても無駄とばかりに、普通に話す。
「目的は?やはり、我々の確保ですか?」
カンダが銃を構えながら聞いた。
「ですね。確保で済めばいいですが・・・」
スティーブはかなり物騒なことを、さらりと言ってのける。
そして入り口の扉が開いた。
スティーブの言う通り3体の警備ロボットが入って来る。
「スティーブですね?何をしているんですか?」
警備ロボットの1人が言った。
「やぁマーク。ただの巡回と棚卸ですよ」
スティーブが答える。そして、マークとは兵器管理の人工知能の名前だとユーリ達に説明した。
「侵入者達と巡回?本気で言ってますか?」
「ええ。彼らは侵入者ではありません。私の古くからの友人です」
「呆れました。不審な行動と、不審な言い訳、敵対行為とみなすのに十分です」
そう言うと、手にした警棒がバチッと火花を散らす。
2体もそれに倣う。
「マズイですね。。」
ユーリのこめかみから汗が一滴流れ落ちる。
「3体。。1体でも苦労したのに。。」
シンバが電撃棒を握りしめる。
「薬を壊さないようにお気をつけを」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
こんな状況下でも抑揚が変わらないスティーブの声にカンダが苛立つ。
「まぁ、なんとかなるでしょう」
そう言ってオオモリが前に出た。
「ですね。みなさんは下がっていてください」
ソウタも前に出る。
「そんな!二人で3体を相手にするつもりですか?!」
ユーリが叫ぶ。
「はい」
オオモリとソウタが同時に笑顔で答えた。
「ということだ、マークさん。我々が相手をする」
オオモリは、ズカズカと先頭の警備ロボットに歩みよる。
「既に数々の敵対行為を行っている侵入者と、話すことはありません」
そう言うやいなや電撃棒を振り下ろす。
オオモリは、なんなく左手の盾で受け止めた。
それと同時に脇を締めたコンパクトなスイングで、斧を顔面に叩き込む。
樹脂の外皮は見事に割れ、中の機械にも損傷があることが伺える。その証拠にマークの声らしきものが、完全に雑音になっていたからだ。
オオモリは、そんな様子は気にも止めずに第二激を左腿に打ち込む。
やはり樹脂の外皮は簡単に割れ、軸脚を損傷した警備ロボットはバランスを崩した。
すかさず背後に回るオオモリ。背中のある部分に渾身の一撃を叩きこんだ。
「バッテリーか!」
カンダが呟いた。
カンダがバッテリーのケーブルを抜いたのを見て、彼らは位置を覚えていたのだ。
もっとも彼らはカンダのような繊細なことはしない。ケーブルごと斧で叩き切る。
ソウタも全く同じ戦法を取っており、交戦開始から5秒と立たずに2体の警備ロボットが戦闘不能になった。
残る1体も、まずオオモリに顔面を割られた。
「そうか!」
カンダが気付く。オオモリ達はまずスピーカーを破壊しているのだ。そうすることでネズミ達を呼ばれることを防いでいる。
ただ、今それを口に出すと、相手に情報を与えることになる可能性もあるので、彼は黙っておくことにした。
この3体にもはや勝機は無さそうだが、どこでマークが傍受しているか分からないからだ。
カンダがそんなことを考えてる間にも、背後に回ったソウタにケーブルを叩き割られ、3体目も機能停止した。
3体合わせても制圧に10秒もかかっていない。
「カンダさん。凄いですねこの盾!全然電気通さないし衝撃吸収するんで受けやすいです。ありがとうございます!」
呆然とする教会の3人に対して、彼らは後輩と練習仕合をして来たぐらいのノリで帰ってきた。




