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散歩

「お話をする前に少し準備がありまして、カンダさん、お手伝いお願いできないでしょうか?」

「ん?はい。何をしたらいいでしょう?」

 スティーブの突然の指名に、軽く驚きつつもカンダは返答する。

 エレベーターホールでは、シンバの呼びかけに呼応したのだ。なんらかの方法でこちらの様子を伺っているのだろう。名前ぐらいはそこで覚えていてもおかしくはない。


 私の後ろにある、赤い小さなカードを抜いて貰えないでしょうか?

「赤?赤、赤、赤・・・この小さいヤツかな?」

「はい。一旦カチッと音がするまで押し込めば抜けるはずです」

 カンダは言われた通りに作業をする。

「抜けましたよ」

「ありがとうございます。今度はそれを、そこの警備ロボットの後頭部に差し込んで欲しいのです。人でいう後頭骨を上に剥がすようにすると蓋が開きますので」

 カンダは一瞬躊躇したが、警備ロボットは直立不動なので、覚悟を決めて言われるままにやってみた。

「既に何か刺さってるけど」

「あっ、すみません。それは抜いてください。そのカードにその方の人格が詰まってますので大事に扱ってくださいね。抜けたら文字が書いてある方を上にして、やはりカチッというまで差し込んでください」

「やりましたよ」

「ありがとうございます」

 そこでスティーブは一回沈黙した。代わりに勢いが増したファンの音が響き渡る。

 黒い筒と警備ロボット、双方からその音はしばらく続いた。


「ふぅ。成功です」

 ファンの音が落ち着くと、警備ロボットが喋った。

「もう少々お待ちください。必要なデータを移しますので」

 そう言って警備ロボットは自身の胸部のハッチを開いて何やらコードを取り出し、黒い筐体につないだ。

「スティーブなの?」

 ユーリが聞く。

「はい」

 警備ロボットが答えた。

「よし、終わりました。カンダさん、先ほどの抜いたカードを下さい」

 そう言ってスティーブはカードを受け取ると、部屋の隅にあった棚の引きだしに丁寧にしまった。 

「さて、少し散歩しましょう。歩きながらお話します。着いてきてください」

 スティーブが扉を開けて部屋の外に出る。5人は促されるままそれに続いた。


「どこに向かうの?」

 ユーリが聞いた。

「貯水室です」

 スティーブが答える。

「この建物は、電力もそうですが、様々なものを自給自足できるようになってましてね。雨水を貯めるタンクと、ろ過装置があるんです」

 スティーブが歩きながら話す。

「もちろん、人間の飲料には出来ませんが、清掃や下水用には十分なんです」

「消火にも?」

 カンダが聞いた。

「さすが、鋭いですね」

 スティーブが感心する。それを聞いてシンバも何かを察したのか渋い顔をした。

「どういうこと?」

 ユーリが尋ねる。オオモリとソウタも頷いている。彼らも理解が追い付いていないのだ。

「貯水槽に毒物を混ぜて、スプリンクラーで噴霧するってことじゃないですか?」

 カンダが言った。

 ユーリ、オオモリ、ソウタは納得した顔をする。シンバはますます渋い顔になった。

「流石ですね。近いです」

「近いとは?」

 シンバが食いついた。

「この建物には、十分な殺鼠剤がありません。だから麻酔薬を噴霧します」

「麻酔?それじゃあ効果が切れたら意味無いのでは?」

 オオモリが聞いた。

「ええ。だから効いている間に、巣に行って女王2匹と雄鼠を別々に確保します。それで当面の繁殖は抑えられます」

「確保してどうする。連れて帰るのか?」

「そうなりますが、連れて帰るのは貴方たちでは無理です。女王を連れてあの洞窟を行けば、洞窟に残ったネズミが半狂乱で襲い掛かるでしょう」

「だったら麻酔が効いているうちに殺処分した方が早いのでは?」

 オオモリが言う。

「もちろん、それも一つの選択肢です」

 スティーブが立ち止って行った。


「ここからは私のお願いです」

 スティーブが全員に向き合うように立ち位置を直す。

「専門店街の最奥に、もう一つの人工知能、即ち兵器管理システムがいる部屋があります。そこで彼を破壊して欲しい。そうすれば、この建物に安全に空から来られるようになります。そこで女王達を教会の研究施設に運んでいただきたい」

 それぞれがスティーブの真意を考えた。

「なぜそんなことを?」

 ソウタが聞いた。彼は考えて分からなければ聞いた方が早いという、割り切りのスピードが早い。

「残念ながら、この建物の巣をなんとかしても、ネズミは既に外に出ています。完全に撲滅はもう出来ないのです。だから今後の為の研究に充てて欲しい」

「既に別の女王が外にいる可能性があるってこと?」

「その可能性は低いです。しかし、必要に迫られれば動物は様々な対応をします。既存の誰かが女王に変化することも十分考えられます」

「ですね。その可能性はあると思います」

 生物の専門であるシンバがその可能性を肯定した。

 スティーブはシンバを一瞬ちらっと見てから言葉を続けた。

「・・・と、いうのは表向きの理由です。本心はあまり無下に彼らを殺したくないのです。私は生い立ちからして彼らの親のようなものですから。。。できたら人類、そして他の生態系とも共存して欲しい」

「彼らとて被害者ですからね。人の欲の為に作られた哀れな生き物です。私もスティーブに同意です」

 真っ先に賛同したのはシンバだった。

「ロボットに感情で訴えられるとは思わなかったな。そういうのに弱いので私はかまいません」

 とオオモリ。

「シンバさんには1回助けられてますからね。その意見は尊重します」

 とソウタ。

「スティーブは珍しいタイプの人工知能ですね。非常に興味があるので、反対はしません」

 とカンダ。

「保留します。麻酔で眠らなかった固体や、兵器管理の人工知能と何らかの交戦になることも予想されます。こちらの人員に危険が及ぶ場合は殺処分します。それでいかがでしょう?」

 一番厳しい意見だったのはユーリだ。

「ですね。それにも異論ありません」

 オオモリが満足そうに頷く。全員も同意の意を示した。


「感謝します」

 スティーブはお礼を述べると、くるりと向きを変えて歩きはじめた。

「それではご案内します」

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