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ある科学者の話

 情報処理室には、拍子抜けするほど簡単にたどり着いた。

 道筋が壁に示されており、その通りに進むと扉の前に警備ロボットが直立している。重要な部屋だということが一目瞭然だったのだ。

 オオモリとソウタは斧を構えて警備ロボットとの交戦に備えるが、その必要も無かった。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 警備ロボットはそう言うと、一行を室内に案内した。


 部屋の中には様々な機材があり、それぞれが複雑にコードで繋がれていた。その中の一つ、黒い筒状の物からファンの音がし、小さな明かりが数度点滅した。そして声がした。

「お疲れ様でした。私がスティーブです。そのロボットは私の管轄下なので、ご安心を」

 部屋の様子と、警備ロボット、そしてスティーブと名乗る黒い筒、各自が興味が行くものに目移りして、しばらく言葉が出ない。


「さて」

 スティーブは話を進めたいようで、催促するように声を発した。

「まず、私からの依頼のお話しますか?それとも何がご質問に答えましょうか?」

 それで最初に我に返ったのはユーリだった。

「もちろん、聞きたいことは山ほどあります。ここに来るまでに人がいたような形跡があったけど、彼らは何者?そして、どこに行ったの?まだ、この建物にいる?あなたとの関係は?それから・・・」

 ユーリはそこまで言って一旦考えた。


「分かりました」 

 スティーブは一旦、区切るように返事をした。

「それらに答えるには、この建物の歴史を話した方が結局は早そうです。それでよろしいいでしょうか?」

「ええ。もちろん」

 ユーリが答える。カンダとシンバも頷いた。


 それを受けて、スティーブは語り始める・・・


 今から50年ほど前の話です。

 教会に一人の科学者がいました。彼は天才的な頭脳を持ちながら、反社会的な思想を持っていました。

「科学の進歩に制限をかけるべきではない」と。

 教会、民間の垣根を外し、学問、産業は自由競争すべきだと。

 それは一つの考え方ではあります。しかし、彼はそれを実現する為の手段が間違っていた。

 テロリズムによって世界政府の権威を落とそうとしたのです。

 しかし、密かにテロリストを支援していたことが発覚し、教会からは追放されてしまいます。


 在野に落とされてからも彼は野心を諦めませんでした。その際の一番のハードルが電力です。

 教会と民間の力の差を埋めるには、どうしても電力の問題を解決しなければならない。科学者故に電力の独占がどれほど戦力差になるかは痛いほど分かっていました。

 しかし、発電所を民間で開発するのはとても無理です。


 そこで彼は考えました。

 旧時代の遺跡の自家発電装置を使用しようと。

 こうして開発されたのが、このネズミなのです。

 彼はこのネズミをテロリストに提供しました。そして、その付属品として二つの人工知能も提供しました。そのうちの1つ、ネズミを管理する人工知能が私です。


 ・・・そこまで話すとスティーブは一旦、言葉を切った。


「そのテロリストはどうなったの?」

 ユーリが尋ねた。

「逃げました。もうお気づきかと思いますが、皆さんが見た生活の痕跡が彼らのものです」

「なぜ逃げたの?」

「増えすぎたネズミをもて余したからです。当初ネズミの居住区は専門店街の一階だけでした。しかし、彼らはより大きな電力を得る為に、ネズミを増やすよう私に要求しました。電池にすれば裏社会では高値で売れますからね」

「ちょっと待って!君はネズミの数をコントロール出来るの?」

 シンバが思わず口を挟んだ。

「ある程度は出来ます。温度管理や湿度管理、それに飲み水にホルモン剤を混ぜたり。でも、ここまで増えたら無理です。彼らにもそう警告したのに・・・」

 機械の合成音声なのだが、心なしか無念そうに感じる声だった。


「彼らは今どこにいるの?」

 再びユーリが質問する。

「さぁ?逃げた人達のことは分かりません」

「逃げなかった人もいるの?」

「います」

「その人達はどこに?」

「ネズミのお腹の中です」

 ユーリは絶句する。そのプロセスが、襲われてなのか、屍を処理されたのか聞く勇気は彼女には無かった。


「もう1つの人工知能は、どんな役割」

 カンダが聞いた。

「兵器のコントロールです。電力を手にした彼らは、そこかしこから兵器を入手して来ました。しかし最新の兵器は全て機械制御なので、人工知能無しには使えないのです」

「その科学者の他にも、教会内に兵器を横流しする者がいるってこと」

「残念ながら、いつの時代にも一定数います」

「その兵器は、ここにまだあるの?」

「あります」

「その人工知能は今も稼働してるの?」

「してます」

 彼らの背筋に嫌な汗が流れた。それは、落とされていたドローンと無関係ではないだろう。


「質問が途切れたようなので、そろそろ私からの依頼について話してよろしいでしょうか?」

 スティーブが言った。


 部屋の中にはジーーーという機械音と、ファンの音だけが響いていた。

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