プロローグ
~世界政府略歴~~~~~~~~~~~~~
◼️西暦2500年
某国で国会の議席にAIの枠が設けられた。以後、この流れは各国に波及する。
◼️西暦2575年
議会制民主主義国が統合され世界政府となる。
◼️西暦3025年
AI化、機械化による人類の体力、知能の低下を懸念した世界政府は、計画的文明の退行を決定する。その手段として段階的な電力供給の低下が始まる。
◼️西暦3100年
電力供給の低下が進み、産業用ロボットによる大量生産の時代が終焉する。
◼️西暦3300年
文明は産業革命時まで後退していた。世界政府の直轄領のみがテクノロジーを維持しており、政府は教会と呼ばれる執行機関を通じて各地を統治していた。
世界政府と人民の間には、文字通り神と人ほどの力の差が出来上がったのである。
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林道を1台の荷馬車が進んでいた。
その両脇を二人の男が並走している。
二人は基本的には軽装だが、完全に運動に適した格好というわけではない。
揃いの黒の防刃ベストを来ており、両脚には警棒を装着している。警棒は走っても揺れて邪魔にならないように、腿の側面にピッタリと固定されていた。
その格好で速度は時速7~10km程度。二人は散歩するような息づかいで難なく走っていた。
実際、彼らはこの条件で、有事に対応する体力を残したまま90分は走り続けることができる。
二人はプロの警備員だった。
「前方、視界が悪いな」
一人が言った。それと同時に馬車に合図を送り速度を落とす。
指示を出した男が上司であり、他からは『オオモリ隊長』と呼ばれていた。
「確かに。そして、少し不自然ですね」
答えた男はまだ少年の面影を少し残していた。おそらく20歳前後だろう。彼は『ソウタ』と呼ばれていた。
前方はパッと見は樹木が密集し葉が茂っているようにも見えるが、どこか人為的不自然さを感じる。
誰かが遮蔽の為に木を植えたのかもしれない。
「いるな。5人前後か」
「はい。自分も2人ほど目視出来ました」
「サプライズパーティって・・・ことはないよな」
「ですね。残念ながら」
「警戒装備」
「よし」
二人は短く意志疎通する。そして、両足に装着している警棒を取り外し、ねじ込んで一本の棒にした。
これでだいたい長さが80cm程度になる。
そして前方から視界を外さないように馬車にすり寄り、車内に用意してあったヘッドギアと金属製の盾をそれぞれ装着した。
この間約30秒。非常に訓練された動きだ。
「着剣はどうしましょう?」
ソウタが聞いた。
二人が使用する警棒は、オプションで棒の端に刺突用のナイフを装着することが出来る。
「対人だからそこまではいらないだろう」
「了解」
この時代の警棒は21世紀の警察仕様のように殺傷力を抑えたものではない。それなりの重量とかなりの強度があるので、対人であれば叩くだけで十分な殺傷力がある。
刃物を使用するのは打撃が通りにくい厚い皮膚、脂肪、筋肉を持った危険生物を相手にする場合だった。
「出るぞ」
オオモリ隊長は馬車を止める指示をし、ソウタと二人で盾を構えつつ前に出る。
御者は馬車に弓除けの置盾を設置し、その後ろに隠れた。
明かな警戒態勢を取られたことで、隠れても意味なしと判断した野盗達が姿を現した。
オオモリの予測通り5人。武器は山刀が一人、槍が一人、斧が一人、木刀が二人。
「弓はいませんね。隠れてるのかな」
ソウタが隊長にだけ聞こえるボリュームで言った。
「いるならもう射ているだろう。警戒は必要だが、いない可能性の方が高い」
「ですね。一気に制圧しますか」
「そうなるだろうが、一応警告だけはしておこう」
そう言うと、オオモリは声を張って言った。
「警告する。武器をかまえて待ち伏せする行為は国際法B3217条において、正当防衛の対象になり自衛の為の攻撃が認められている。抗戦の意志が無いのであれば武器を置いて立ち去れ」
野盗は答えない。
逆に二人を囲むようにじりじりと距離を詰めてきた。
「聞こえなかったか?」
そう言うとオオモリは斧使いに向かって、つかつかと歩いて行った。
他の4人には目もくれず、斧使いの目だけをじっと見据えて歩み寄る。
「来るな!お前たちこそ武器を捨てっ」
斧使いは、全て言い切る前に斧を叩き落されていた。そしてもう一撃で鎖骨を砕かれ、うずくまった所に容赦なく後頭部を打たれで動かなくなった。
その間にソウタが木刀の一人に走り寄った。
最初の一撃は崩しの為の一撃。ソウタは相手の木刀に警棒を叩きつける。
予想外に重い一撃に木刀を落とさないようにするのが精いっぱい。すかさず開いた胸骨に突きを入れる。一瞬呼吸が止まった所に首に対して止めの一撃。
手応えで確信したソウタは次の相手、山刀の男に駆け寄る。
「やぁ!」
ここでソウタは今まで抑えていた殺気を全開にする。
相手の目を睨みつけ、警棒を思いっきり振りかぶる。
たまらず顔面を守るべく山刀をかまえると、ソウタの警棒は小さく弧を描き膝を砕いた。脆くも崩れ落ちる。残念だがもう一生杖なしで歩くことは出来ないだろう。
これで2対2。
距離的にはオオモリが槍使い、ソウタが木刀使いが近い。
しかし、瞬く間に3人が制圧されたことで、野盗達は完全に腰が引けている。
槍使いは「来るな!」とばかり、牽制の突きだけを繰り出していた。
木刀の男も自分からは仕掛けてこない。
一時膠着状態となる。
それを見たソウタは足元の手ごろな石を3つほど拾って槍使いに投げつけた。
「なっ」
槍使いは動揺する。
「こりゃいいな」
オオモリもマネをして石投げをする。
「ふざけるな!」
木刀使いが自らも石を拾って対抗しようとした所を、駆け寄ったソウタにタックルで倒され首を絞め落とされた。
「降参だ」
槍使いは槍を捨てて両手を上げた。
馬車の中で様子を見ていた一人が感嘆の声を上げる。
「1分で制圧完了。評判通りの手際ですね」