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9・悪女の襲来

「ロイアス!ロイアスはどこ?結婚したなんて嘘よね!?あんたみたいにデブでブサイクで何の取り柄もない男と結婚してやれるのはこのわたくしだけなんだから!早く出て来なさいよ!」


結婚10日目。早朝、5時。

連日、カイルから侯爵夫人としての仕事を学ぶことに忙しく、泥のように寝入っていた私は、甲高い女性の叫び声で目を覚ました。


邸中が騒がしい。「そこを退きなさいよ!」と猛進する女性の声と、それを静止させようとする侍女達の声が入り交じり、ものすごい騒ぎになってる。


「何の騒ぎよ…祭りでも始まるのかしら…」


私はあくびをしながら、寝ぼけたまま、うっかり寝室の扉を開けてしまった。


そして、鉢合わせしてしまったのだ。


イザベラ・ブリザッシュ伯爵令嬢に。


「あんた、誰よ」


目が合うなり、敵意むき出しに睨まれて、絶句した。ボサボサ髪にスッピン姿。


メイクをしていないせいで、大きめのお顔に小さくて丸い目が更に際立って見えた。

パ-ティーで見覚えのある顔じゃなかったら、貴族だとは分からなかったかもしれない。仲良くしていたわけではないけれど、よくパ-ティーでは見かけていたから名前は知っていた。

ドレスのボタンはかけ違えているし、慌ててここへ来たのだろうと容易に想像がついた。


この状況…もしかして修羅場というやつかしら?


「わたくしは、旧姓、アリエル・アルクレスタ伯爵令嬢。現在は結婚致しまして、アリエル・ジャンヌ-ル侯爵夫人となりましたの。どうぞよろしくお願い致しますね。イザベラ・ブリザッシュ伯爵令嬢」


わざと、余裕ぶった丁寧なご挨拶を繰り出した。 


侯爵夫人となった今の私と、伯爵令嬢であるあなたとは、身分が違いますのよ、と。

イザベラは、私が名前を知っていた事に驚いたのだろうか。

ぎょっとして体を硬直させた後、私の顔を指差して青ざめながら叫んだ。


「そうだわ!あ、あなたっ!アリエル・アルクレスタ伯爵令嬢!確か没落したはずでしょ?どうしてここにいるのよっ!」


ワナワナと体を震わせてヒステリックに騒ぎ立てる姿はとても貴族令嬢とは思えない。

まさか、こんな令嬢とロイアスが…?

何か関係があるとは思えないけど。

もし、何かあるとすれば、ちょっと…ロイアスの趣味を疑ってしまう。


「どうしてか?と聞かれれば、ロイアス様と結婚したからですわ。そんなに急がれて、何か急用でもおありかしら?わたくし達の家に遊びに来られるならせめてご連絡頂きたかったですわ。きちんとおもてなし致しましたのに。まさか寝起き姿でお会いする事になるだなんて。侯爵夫人としてお恥ずかしい限りですわ。」


ホホホと、嫌味にまみれた笑顔を浮かべると、イザベラ嬢が私の胸ぐらを掴みかかってきた!

あら。怒りスイッチ踏んじゃったかしら?


「侯爵夫人!?よくもぬけぬけと!」


侍女達の必死の抵抗も虚しく、私はイザベラに胸ぐらを掴まれてぐらぐらと揺さぶられた!

目眩がしてきた時、息を乱しながら、ロイアスがこちらに走ってくるのが見えた。


「手を離せ。イザベラ!こんな時間に何をしているんだ!」


ロイアスの後ろにはカイルが控えている。

念のためだろう。警護するかのように数人の騎士がロイアスの周りを取り囲んでいた。


「ロイアス!やっと来たのね!結婚したなんて嘘よね!あなたの婚約者はわたくしでしょ?あなたにはわたくししかいないのよ! 」


ロイアスは冷たい目で、イザベラを見ていた。まさしく「冷酷悪魔」に相応しい眼差しで。


「お前との婚約は、義理の母だった女が死んだ瞬間に消滅した。今のお前と俺は赤の他人だ。二度と俺とアリエルの前に姿を現すな」


ロイアスの視線を正面から捉えたイザベラの体は小刻みに震えていた。

それでも必死に何か言い返そうとしていたけど、諦めたのか、強行手段に出た。


いきなり、ロイアスの胸に抱きついたのだ。


「嫌よ!ロイアスは私のものよ!絶対に誰にも渡さないわよ!」


感情に身を任せて泣きじゃくる姿を見て、オモチャをねだる度に泣いていたセシルが頭に浮かんだ。あの時のセシルは確か…3歳くらいだったかしらね。なんて、咳き込みながら思い出していると、騒ぎを聞き付けて走って来たライラが背中を擦ってくれた。


成人した貴族令嬢とは思えないイザベラの行動にすっかり眠気が吹き飛んだわ。凄まじい執念を感じる。二人の間に何があったの!?


「二度と俺の前に姿を見せるなと忠告したはずだ。まさか、こんな時間に邸内に襲撃してくるとはな!今度、アリエルに危害を加えたら命はないと思え!」


ロイアスが、イザベラを突き飛ばすと、周りを取り囲んでいた護衛たちが、抵抗するイザベラを引きずるようにして連れ出して行った。


「ロイアス、私とあなたの仲じゃないの!あなたの妻はこの私よ!!」


泣きじゃくりながらも、最後まで戯言を叫び続けていたけど。


立ち尽くす私を、ロイアスがそっと抱き締めた。


「アリエル…俺のせいで怖い思いをさせてすまなかった。体は大丈夫か?」


さっきとは、まるで別人のように優しい言い方に、心が解されていくのを感じた。


「ええ。大丈夫よ。それにあなたのせいじゃないもの。責任を感じる必要なんてないわ」


ロイアスの背中を優しく撫でると、「アリエル…君って人は…本当に優しいな」耳元でそっと甘くささやかれて、体中の血が逆流するかと思ったわ!寝起きの体には刺激が強すぎよ!


「と、とにかく何か事情があるんでしょう?落ち着いたら聞かせて欲しいわ」


私は、ロイアスの体からから離れて、しっかりと目を見てお願いした。ロイアスは一瞬だけ目をそらして、迷ったみたいだったけど、すぐに視線を戻して、強くうなづいてくれた。


「ああ。分かった。」


気持ちの整理が必要なのかもしれない。


「分かったわ。待ってるね」


微笑むと、ロイアスは安堵したように自室へと戻っていった。

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