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7・本当の姿

「侯爵様にこうしてお会いしてみて、人の噂がどれだけ当てにならないか改めて分かりましたわ」


「どういう意味だ?」


「侯爵様は、愛されておりますもの」


「何を言っている?誰が俺の事など愛するというのだ。自分が醜男の冷酷悪魔と言われている事は知っているぞ」


「本気でおっしゃってます?」


「ああ!」


「侯爵様には見えていないのですね…」


「何を言っているのだ?」


「わたしくしがこの邸で会った侍女は皆、侯爵様の事を本気で大切に思っております。侯爵様にお仕えすることを誇りに感じながら働いておりますわ。その思いに報いる為にも、噂を払拭するよう、最大限の努力をするべきです。愚痴ばかりこぼして逃げていては、噂は消えてくれませんよ」


侯爵様、厳しい顔をして黙り込んでしまったわ。何やら考え込んでいるみたい。


若干、気まずい空気。


厳しいことを言ってしまったかしら。

でも、私も侯爵様の事を侍女達にお願いされた立場でもあるし。そもそも国の英雄がこんな扱いであって良いわけがないもの。


「公の場で、きちんと侯爵様の存在を示すのです。少なくとも払拭される噂が1つはあります」


「なんだそれは?」


「醜男です」


とびきりの笑顔を浮かべて、秒で即答したけど。侯爵様は、ピンと来ないみたいで、目をパチパチさせている。


まさか…本気で自覚がないの?


「侯爵様は、誰が見ても美しいお顔をされていますもの。皆様、一目でも侯爵様をご覧になれば、噂話がいかに信じられぬものか、即座にご理解頂けるかと」


私の言葉を聞いて侯爵様の耳がうっすらと赤くなった。ウブ過ぎる反応に驚いてしまった。

か、可愛いんですけど。これは、反則よ!


「俺の顔が美しいだと?何をバカな事…」


ひょっとして、本気で言ってるのかしら。

意味が分からない。自己評価が低すぎる!


「侯爵様は、鏡を見ないのですか?その宝石のように煌めく美しい目を大きく見開いて今一度、ご覧くださいませ!」


たまらず、ドレッサーから手鏡を持ってきて侯爵様に手渡すも、「いや、必要ない」と、あっさり返された。


よく見ると、侯爵様、耳だけじゃなくて、顔全体が赤い。お酒のせいだけじゃないわよね。

さっきから全く目が合わないし。

強引に侯爵様の瞳を覗き込むと、目があった瞬間、すぐにそらされてしまった。


照れている。間違いなく照れてるわ!

野生のネコが照れてる…どうしよう。

可愛すぎるんですが!!


最初のツンツンした印象からのギャップが大きくて余計に可愛く見えてしまう。

男性に対して「可愛い」なんて思った事はなかったけど、これは思わざる得ないわ。


侯爵様が…可愛い。


必死にお顔を真顔に立て直そうとしている所もまた…たまらないわ。

思わずニンマリと口元が緩んでしまう。


「あまりジロジロと見るな。そなたが不躾にみてくるせいで、見ろ。汗が止まらぬではないか!」


あら。確かに額からじわりと汗がにじんできているわ。

侯爵様が立ち上がって、部屋の中をウロウロと歩き回り始めたと思ったら、とんでもないものを拾って、顔を拭き始めた。


「ふぅ。暑くて敵わんな」


侯爵様が手にしたものは、私が棄てた真っ赤なスケスケネグリジェだった。


「侯爵様!それは、いけません!」


駆け寄って慌てて取り上げようとしたけど、間に合わず。私の剣幕に驚いた侯爵様が丸まっていたネグリジェを…広げてしまった。


「なんだこれは…やけに透けているな。これはまるで…」


ああ。。メチャクチャ凝視している。

どう見てもやる気に満ち溢れたネグリジェ。

あらぬ誤解を招きかねないわ!

私は頭を抱えて侯爵様から目を逸らした。


「うわあああっ!な、なんだこれは!」数秒後、顔を真っ赤にさせた侯爵様の叫び声が邸中に響き渡った。

沈黙の中、二人してベッドに横になったものの、目はギンギンに冴えている。


「そ、それにしても、このバラの花びらは何とかならんのか。体に纏わりつくのが邪魔で仕方ない」


ちらりと隣に横たわる侯爵を見ると、はだけた上半身に赤いバラの花が舞い降りて、まるで絵画のような、美しさ。

それが相当、不快のようで眉をひそめているけど、それすらも絵になるのね。

思わず見とれてしまって、ハッとした!

ダメダメ!愛の無い白い結婚なのに。

ときめいてる場合じゃないのよ!

いろいろ心臓に良くないわ。

ちょっと…どうにかしなくては。


「分かりました。とりあえず花びらを集めましょう」


私はさっさと手際よく花びらをかき集めると、侯爵様と私の間に一直線に花びらを並べた。


「こっちがわたくし。そちらが侯爵様。バラの花で線を引きました。白い結婚のわたくし達にふさわしい初夜ですわ」


私なりの、侯爵様のスイカには興味がない事の意思表示よ。

これでやる気に満ちたネグリジェの事は帳消しとなるはず。

私は胸を撫で下ろした。

侯爵様は、口をポカンと開けて赤いバラの線を見つめていたけど、「あ、ああ。分かった」と首を捻りながらも頷いた。


「白い結婚のわたくし達ですけど。さすがに男性と一瞬に眠るのは初めてですし、緊張致しますわ。眠れるか心配です。まあ、なにせ、白い結婚ですから、わたくし達の間に何か起こるわけでもありませんが。ですわね、侯爵様」


トドメの釘を打ち込んだ気分。


「ああ、もちろんだ。俺達の間には何も起こらない。保証しよう」


侯爵様の上ずった声が、遠くに聞こえて、私は意識を手放した。

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