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16・愛に気付いた日

ドレスを購入した後、私とロイアスはレストランに入って、美味しい料理を堪能した。

王都では高くてなかなか食べられないオマ-ル海老や蟹も、手軽な金額で楽しめる。


身が詰まって美味しいオマ-ル海老に夢中になっていると、愛しそうに私を見つめるロイアスの視線を感じて顔が熱くなる。こんな時にドキドキさせないで欲しい。喉に詰まったらどうするのよ~!


「美味しそうに食べるアリエルを見ていると、俺のミ-ナを思い出す」」


は?一気に現実に戻された。


「俺のミ-ナ?」


誰?ミ-ナって。すっと、真顔に戻る。


どう考えても女性の名前よね。

私、今、堂々と浮気宣言されたのかしら?


「ミ-ナと俺は共に戦場を戦い抜いた同士だ」


グラスワインを飲みなから、ロイアスがさらっと言う。


なぜかしら?面白くないわ。

まあ、「白い結婚」だもの。ロイアスに好きな人がいてもどうでもいいはずなのに。


「女性の剣士なのね…」


物凄いグラマーでスタイルの良い美女を想像してしまって、気分が沈んでいく。ロイアスとさぞお似合いなんでしょうね。強くて美人でグラマー。勝てるわけないわ。私の豊かな想像力が、勝手にミ-ナ像を作り上げていく。料理を食べる手を止めて、どんどんうつ向いていく私に向かって、ロイアスの声が降り注いだ。


「剣士ではないぞ。ミ-ナは馬だ」


「馬…?」


「ああ。ミ-ナは干し草が大好きなんだ。食いっぷりが良くて見ていて気持ちがいい。アリエルと同じだ」


ヒヒ-ン!馬と一緒にされて喜ぶ女性がいるかしら?ロイアスの褒め言葉、全く嬉しくないんですけど!


でも、目の前のロイアスを見ていると、全く悪気はないのよね。女性慣れしてないロイアスだもの。仕方ないわよね。


ここは広い心で許すことにする。

ほっとしたら…再び食欲が出てきた!

よしっ。たくさん食べよう。


ロイアスは値段なんか見てないけど、私はしっかりチェックした。良心的な値段設定と、満足するボリュームの両立。素晴らしいレストラン!いきなり当たりのレストランを見つけるなんてついてるわ!


前菜からデザートまで美味しく頂いた。

特にデザートのチョコレートケーキは絶品だった。ここは必ずまたロイアスと来ることにしよう。


大満足でお腹を擦りながら店を出て歩いていると、すれ違った男性が慌てたように私達の前に歩み出て挨拶をした。


「アリエル!俺だよ!ジョセフだ!」


「ジョセフ…本当だわ!ジョセフ!久しぶりね!」


思いがけない再会だった。こんな街中で偶然会えるなんて。二人して再会を喜んでいると、ロイアスの視線を感じる。慌ててロイアスにジョセフを紹介した。


「ロイアス!こちらは、シャローナのお兄様でジョセフよ。ロイアスと同じ王宮騎士団に所属しているわ」


私の紹介を受けて、ジョセフがロイアスに挨拶をした。


「急にお声かけしてしまい、申し訳ございません。王宮騎士団第一部隊団長、ジャンヌ-ル侯爵様ですね。わたくしはジョセフ・ブルアンと申します。どうぞよろしくお願い致します」


「…ああ」


固い挨拶だった。なんていうか…ぎこちないような。ジョセフはすぐにロイアスから目を離し私に向き直った。


「妹から2人が結婚したと手紙をもらったよ。あまりに突然の事で驚いたな。早くアリエルに会って話がしたいと思っていたんだ」


ジョセフはニッコリと微笑みながら私に握手を求めてきた。固く握り返しながら、ジョセフと視線を交わすと、柔らかな雰囲気がシャローナと重なって、親近感を覚えてしまう。


「わたくしもお会いしたかったですわ。こんな所で会うなんて、すごい偶然ですわね」


ジョセフと軽く立ち話をしていると、ロイアスが咳払いをした。やや不機嫌そうに眉をひそめている。


「話が尽きないようだが、行きたいところがある。先を急ぎたい」


ロイアスに急かされて、私とジョセフは途中で話を切り上げた。もう少し話をしたかったけど、仕方がないわ。


「ジャンヌ-ル侯爵様、足止めしてしまい、申し訳ありません。もし今度、稽古場でお会いできましたら、ぜひお手合わせをお願いしたいのですが」


「ほう。いいだろう。楽しみだな」


ジョセフ…優しい口調ではあるけど、何だか挑戦的な言い方に聞こえる。ロイアスも思うところがあるようで、強い眼差しで真っ直ぐにジョセフを見据えている。


うん?この2人、何だかバチバチしてない?

真ん中に挟まれた私。笑顔がひきつるわ。


「え~っと。ジョセフ!それじゃあ、またね」


ロイアスを引きずるようにその場から立ち去った。手を振りながらジョセフを振り返ると、ジョセフが何か呟いているのが聞こえた。

ハッキリとは聞こえなかったけど。

切なそうに微笑むジョセフの顔が目に焼き付いて離れなかった。


「アリエル…俺は本当に…君に会いたかったんだよ…」


行き交う人の声に消されて、ジョセフの声は私には届かなかった。


スタスタと大股で歩くロイアスの後をついていく。ロイアスは全く振り返ってくれない。

もう!足の長さが全然違うのよっ!少しは気を遣いなさいよっ!喉まで出かかった言葉をグッと飲み込む。


いつもは同じ歩幅で歩いてくれるのに…さっきから不機嫌なままなのよね。一言も話さないし。


「ねぇ、ロイアス。どこにいくつもりなの?」


「……」


無視ですか!!

もう2度と話しかけないんだから!


街中を抜けて、しばらく歩き続けると、緩やかな坂が見えてきた。怒り任せに無言を貫きながら登りきると、眼下に美しい港が広がっていた。夕暮れを迎えた海は、輝きながら赤く染まり、ただただ、美しかった。


「すごく綺麗だわ!こんな場所があったなんて!」


さっきまでの怒りが一気に吹き飛んで、笑顔でロイアスを見上げると、強張っていたロイアスの表情がホッとしたように緩んだ。


「気に入ってもらえて良かった。アリエルに、この景色を見せたかった」


どうやら、いつものロイアスに戻ったみたいね。さっきまでの態度は何だったのかしら?


「ねぇ、ロイアス。あなた、さっきおかしかったわ。話しかけても無視するし、ひとりでスタスタ歩いていくし。わたくし、何かしたかしら?」


ロイアスがそっと、私から目を逸らして苦悶の表情を浮かべた。


「それが…自分でも分からないんだが。アリエルがジョセフと握手をしたり、話をしているのを見ていると、胸の奥が苦しかった…ムカムカしたり、動悸がしたり。戦場で暴れたくなるような押さえようのない衝動に駆られたんだ。とにかく今まで経験したことがない感情に揺さぶられて頭が混乱していた。無視するつもりはなかった。嫌な気持ちにさせていたら、すまなかった」


ロイアス、本当に、混乱しているみたい。頭を抱えて目を伏せたまま動かない。それに、こんなにも素直に謝られたら、責められるはずがない。それに、その感情って…もしかして?

いや、きっと違うとは思うけど。


「ロイアス、もしかして嫉妬、したの?」


私の言葉に、ハッ!としてロイアスが顔を上げて、穴が空くほどに私を見つめてきた。

府に落ちたような?何だか、納得したようなスッキリした顔になってる。


「そうなのか…これが嫉妬というものなのか。

存在は知っていたが…経験したのは初めてだ。嫉妬とは…ずいぶん苦しいものなんだな」


照れくさそうに、はにかみながらロイアスが微笑んだ。


あぁ。可愛い。可愛いが過ぎます…。

ロイアスが尊い~!真っ直ぐに見つめられたら身動きすら出来ない。


「アリエル…君は俺にいろいろな感情を教えてくれる」


熱を帯びたロイアスの瞳が近づいてくる。

こ、これはどういう状況なのかしら。


「どうか、君に触れることを許してもらえないだろうか?」


懇願するようなロイアスの声。赤く染まった頬。少しだけ潤んだ瞳。その全てが愛おしいと思ってしまった。私は背伸びしてロイアスの頬を両手で包み込む。


「いいに決まってるじゃない。わたくし達は夫婦ですもの」


ロイアスが、そっと私を抱き締めた。

鍛えられた体を肌で感じてしまって、ドキドキで息が止まりそうになる。

どんどん強く抱き締められて、ロイアスの体温すら感じられるほど。ゆっくりと私も腕を回してロイアスを抱き締める。


もう、認めるしかない。


私、ロイアスの事を好きになってしまったみたい。


自分の気持ちを、確信してしまった。


ロイアスは、私の事をどう思っているのかしら?最初から、愛さないし愛してほしいとも思わないって言われているし、期待したらいけないわよね。


こんなに強く抱き締めてくれるのに。


ここに愛はない。


そう思ったらすごく辛いけど、それでもいい。こうしてロイアスの側にいられるだけで、幸せなんだもの。


気持ちが高まって、ロイアスを抱き締める腕に自然と力がこもってしまった。ピクッとロイアスが反応したかと思うと、「アリエル…」耳元で私の名前を囁かれて、体が熱くなってくる。恥ずかしくて身を縮めると、ロイアスの体にすっぽりと包まれて、全てのものから守られてるような心地よさを感じてしまう。


目を閉じながらこの幸せに酔いしれていると、ロイアスが少しだけ体を離して、私の目を見ながら言った。


「アリエル。実はひとつ頼みがある。近いうちに、アリエルの実家に行ってみたいのだが。結婚はしたものの、俺はまだ、アルクレスタ伯爵に挨拶すらしていない。アリエルの家族は俺の家族でもあるのに!考えの至らなかった俺を許してほしい」


顔を赤らめてうつ向くロイアス。


こんなタイミングで何を言い出すのかと思ったら私の実家に行きたいだなんて驚いたわ!


でも、やっぱり嬉しいわね。私の家族を自分の家族だと言ってくれたもの。

ロイアスの誠意を感じて、感動してしまう。

お父様達も私の事を心配しているみたいだし、ロイアスを連れて帰ったらきっと、喜んでくれるわ。


「ありがとうロイアス。ロイアスが来てくれたらきっとみんな喜ぶわよ!一緒に帰ってくれたらわたくしも嬉しいわ!」


ロイアスの両手を握りながら言うと、ロイアスの顔がパッと明るくなった。


「そうか!良かった!それでは早速、明日行くことにしよう!」


「明日!?」


衝撃的な行動力ね…。


こうして、私とロイアスはその夜に慌ただしく準備を済ませると、翌朝には私の実家に向けて出発したのだった。


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