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13・秘密の内緒話

ドアの閉まる音と共にロイアスが消えると、シャローナが、椅子の上にへたり込んだ。「ああ~緊張致しました!」シャローナが、思いがけない言葉を口にした事に驚いてしまった。

まるでお手本のように、優雅なカーテシ-で挨拶していたもの。


「シャローナ、嘘は止めて。とても緊張しているようには見えなかったわ」


からかうように笑うと、シャローナがいつになく、真剣な表情で掌を私の前に差し出してきた。


「アリエル…わたくし、未だに指先の震えが止まりませんのよ!」


シャローナの指先が、小刻みに震えているのが見えて、反省したわ。本当に緊張していたのね。

震える指先を両手で包み込むと、シャローナが、ほっとしたように笑みを浮かべた。


「ジャンヌ-ル侯爵様、とてもお美しいお顔をされていて驚きましたわ!それにとてもお優しい方なのではないかしら?アリエルを見る瞳が、慈愛に満ちておりましたもの」


意味深に微笑むシャローナ。みるみるうちに私の顔が熱くなってくるのが分かって、恥ずかしくなる。


今度は私がからかわれる番なのかしら?


「そ、そんな事あるはずがありません!わたくし達は愛のない『白い結婚』ですもの。お互いの利害が一致したから結婚しただけの、いわゆる契約結婚の関係なのですから」


そうハッキリと言い切った直後。なんだか、胸が痛んだ。そっと胸に手を当ててみると、ロイアスの笑顔が頭をよぎって、心臓が爆発するところだった。


私…本当にどうかしているみたい。


「白い結婚ということは、寝室も別々ですわよね?せっかく夫婦になったのに、少し寂しい気がいたしますわ」


シャローナに言われて、ハッとした!

ロイアスが私を心配して、今夜から毎日一緒に寝ると言い出したのよね。何となく断りづらくて了解したけど。


「それが…また、イザベラが来るんじゃないかとロイアスが心配してくれて、今夜から同じ寝室で寝ることになったの」


「まあっ!侯爵様から申し出て下さったのね?なんてお優しいのかしら。ふふ。思った通り、侯爵様は、アリエルの事を大切に思っておりますのね」


照れたように微笑むシャローナを見ていたら、私まで気恥ずかしくなってくる。


た、確かに同じ寝室で寝るなんて、『白い結婚』にしては親密よね。おかしいわよね。

でも、イザベラ対策の為だもの!

それ以外に理由なんてない…はずよ!

1人で悶々としながら、頭を振っていると、シャローナが私に顔を近づけてきた。


「その…言いにくいのですけど…アリエルは、本当に白い結婚を承諾しているのかしら?白い結婚ということは、その…赤ちゃんも…」


うっすらと顔を赤らめながらシャローナが問いかけてきた。そういう事には疎そうなシャローナには刺激が強すぎると思って今まで打ち明けた事なかったけれど、この際だもの。


私は全てを打ち明けることにした。


「ええ。承知しているわ。というのも、わたしがこの結婚を承諾したのは、『白い結婚』だったからだもの。うちの借金肩代わりはそのオマケみたいなものよ」


信じられない!とばかりに目を見開くシャローナ。まあ、でしょうね。常識的な反応だと思う。


「アリエル、『白い結婚』にはどれほどの魅力があるのかしら?わたくし、無知なせいか全く想像も付きませんわ」


「シャローナは、閨の知識を学んだことがありまして?」


思い切って聞いてみると、シャローナは、照れくさそうにはにかみながら答えてくれた。


「いいえ。お恥ずかしながらまだ、ほんの触りくらいで…きちんと学んだ事はございませんの」


思っていた通りね。シャローナは閨の知識はほぼゼロ。私が初夜の真実を伝えなければ!

変な使命感に燃えて、私はルイザから教わった閨についてのあれやこれやをシャローナに教えた。話をしながら、シャローナの表情が徐々に恐怖に変わっていく。ああ、シャローナの気持ちが分かるわ。痛いほどに!


「そんなっ!スイカなんて!あんまりですわ!わたくしには無理です!」


シャローナが絶望した顔を手で覆いながら叫んだ。私はシャローナの肩を抱きながら頷く。そうよね。無理よね!私達の反応はいたって普通よ!


「アリエル、その…確認なのですが、ルイザ様のおっしゃっている事は、本当なのでしょうか?」


言いにくそうに、オドオドしながらシャローナが聞いてきた。


「ルイザは、独身だったけど、恋愛経験は豊富だって言っていたもの。たぶん…嘘じゃないと…思うけど…」


まさか、嘘じゃないわよね?って、思わず自問自答してしまった。ルイザを疑った事なんてなかったけど。今の今まで。そう言われてみたら少し不安になってきたわ。


もしかして私、ルイザに騙されてる??


誰か…誰か真実を教えて~!!


発狂しそうになる心をどうにか抑え込んでいると、いつの間にかライラが隣に立っていた。

驚いて気絶しそうになった。


完全に気配が消えていたもの。


「ぎゃああああっ!ライラっ!」


叫び声を上げてから言葉を失くして固まっていると、ライラとシャローナが会話を始めた。


「シャローナ様、お久しぶりでございます!」


「ま、まあ!ライラ!ではありませんか!お元気そうで何よりです!アリエルと少々、込み入ったお話をしておりましたせいか、全く気づきませんでしたわ」


突然、ライラから話しかけられて驚きながらも冷静に微笑むシャローナ。まさしく貴族令嬢の鏡ね!私なんてまだ、胸の動悸がおさまらないわよ!

ライラったら、いつからここにいたのかしら。

まさか全部聞かれてないわよね…。


ハラハラしながらライラを見ていると、シャローナと楽しげに世間話を済ませた後、お茶を出してさっさと退出してしまった。


良かった…あの様子だと、肝心な所は聞かれていないみたい。さすがにライラといえども、スイカの話は言えないもの。恥ずかしすぎて。


「驚きましたわ!ライラの存在に全く気がつきませんでした。ですが、スイカの話はどうやら聞いていなかったようですわね。助かりました」


シャローナの言葉に頷きながら、ほっとしたらなんだか笑いが込み上げてきた。


「あら。助かったのはライラの方かも知れませんわよ。あんな、恥ずかしい話を聞かれていたらクビにするしかありませんもの」


「まあっ!アリエルったら。そんな事、ライラに対して出来っこないでしょうに」


冗談を言いながら、シャローナと大笑いしたのだった。


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