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第54話 「再始動4」

試合開始

 3日間の間連携の確認や、ポジションの話しなどをほぼほぼ完璧に仕上げることができた。


 試合本番の当日、チーム全体としては緊張などしていなかった。立火のフットサル部のみんなは応援に来たがっていたが、それだとガチガチでプレーしそうなので遠慮しておいた。

 でも、午後からの準々決勝に進むことができたら来てもらおう。


「今日の目標はキャプテン、何ですか」

「えーと、ぼこぼこニスル」

「はいありがとうございます」

「よし、5人でアップするか」


 ふざけてしまった。こんなところじゃふざけるのが当たり前のことなんじゃないのか。

 とまあ、お遊びはこれくらいにするとして、入念にみんなでアップをした。


 アップといっても軽いパス回しとシュート練習くらいだ。私はその前に試合前の恒例のリフティングでボールを足になじませた。

 これを済ました私たちは最終確認を行った。


「クレハが一番気を付けないといけないのはバックパスだね」

「わかってるって。こちとら毎日君らとフットサルしてるんだよ。最初の頃に怒られすぎてもう大丈夫」

「フォーメーションとしては3-2で行くの?」

「それが一番堅実だしね」


 この形が立火の人たちと相手をしていて点を取られにくく、勝ちやすかった。


「やばかったらまあ逃げる」

「先制するのが前提なんだ」

「要するに」


『『勝ちゃあいいんだよ』』


 ということで午前の部のグループステージが始まった。


 なんなく全勝することができた。そしてこれと言って見どころがなかった。運がよかったのか、自分たちが強かったからなのかわからない試合だった。


 無難に決勝トーナメントに駒を進めることができたチーム準立火。本立火の人たちが準決勝から応援に来てくれた。


「がんばれー」

「かてー」


 気持ちがこもっていなかった。


「負けたら退部」


 無事に決勝まで進めた私たち。この大会ってそんなに重いものだっけか。優勝して当たり前ということなのかな。


 だけど一瞬にしてそれがなっかったこととなる。

 それは去年の新人大会で立火を破り、全国大会優勝を成し遂げた水嵐(すいらい)高校が参戦していたからだ。なんとそのメンバーで。

 私たちがその高校と当たるとしたら決勝戦。会場全体が水嵐高校の優勝だと噂していた。


「この雰囲気懐かしいね」

「3年ぶり」

「二度目はいいって」

「はああ」



『『黙らそ』』


 3年ぶりの感覚をもう一度味わったことで火が付いた私たちはやる気満々だ。

 本立火のみんなが差し入れで持ってきてくれたものは、本当の立火高校のユニフォームだった。その中にはなぜかキャプテンマークも入っていた。


「なにこれ」

「あら、もみじ知らないの?これはユニフォームっていって試合で着る服だよ」

「そんなこたあ、わかっておる」

「今からする相手見てみ。みんな着てるでしょ」

「キャプテンマークはだれがするのさ」

「そりゃ、一人しかいないでしょ」


 全員の視線がこちらに向けられる。


「ユニフォームは違うけど、全国優勝した時のメンバーと同じ。この逆境を超えるには気持ちを一つにするだけ。行こう」


 それぞれ中学校に着ていた時の番号のユニフォームを着て、試合に臨んだ。



 相手ボールから前半が始まり、先制点をとって勢い付けたいところだが、なかなかうまいことにはいかない。

 試合を見られていたせいか、完全に前の私と澪にマンツーマンで付かれている。攻撃の起点封じることで点を取らせないようにされている。


 これまでなかった戦術に苦しめられ、2点を取られ、ハーフタイムに入った。

 前までは先制してそのまま前半を終えていたが、今回は先制されたことで空気が重たい。


「やるしかない」


 ディフェンスで頑張ってくれている静がつぶやいた。


「あの感じだと静一枚でもいけるはず」

「だから私と音は一枚上がろう」

「一番前はクレハだけのほうがいいかも」

「考えにあった1-3-1するってこと?」


 練習最終日に一度だけ試してみた、一番攻撃のあるフォーメーション。だが、諸刃の剣でもある。

 一番重要なポジションは前と後ろ。この2つの役割が破綻すると負けが確定する。


 紬はチームで一番頼れるキーパー。その前にはディフェンスでは心強い静。真ん中にはパスが精密な心。その両サイドにプレーが安定した音と澪。


『『決めてくださいね』』

「沙希以外からその言葉を聞くとはね」


 3年前と同じ重圧。当時はそれをやってのけた。そう、みんながいたからここまでこれた。今はやってきたことを、考えてきた魂を答え合わせするとき。


 青空に似たこの白と水色が入ったユニフォーム。今からみんなの思いをすべて翼に、運命を切り開こう。


 私はもう大丈夫。一人じゃない。自分を信じよう。



 新たなフォーメーションで迎えた後半戦。ぶっつけ本番なこともあってか、なかなか相手を崩せずにいた。


 だが、相手がミスをしたその一瞬、そこかボールを奪った右サイドの音からパスを受ける。

 相手のキーパーは私が利き足の右にボールをずらすと思ったのだろう。だけど、私が振り抜いたのは逆の左足だった。それで反応が遅れ、まずは1点を返すことに成功した。

 そこから流れと会場の流れが一気に変わった。


 そこから2点目はすぐだった。左サイドで澪がボールを少し長めに持ち、私についていたディフェンダーも澪を潰しにかかった。澪はその選手が私から離れたことを見逃さなかった。

 私は澪が出せるであろうところに顔を出した。他の人は難しいパスコースだろう。だが、彼女なら出してくると確信できた。そこにいろ、という圧が凄まじかったからだ。


 フリーでシュートを打てるようになった私は、あとは簡単な作業だった。

 決めるだけという。


 残り時間わずかでなラストプレーは、私たちのゴールキックからはじまった。


 三角形を崩さずに丁寧に繋いでいく私たち。そのことに苛立つ相手選手。

 相手からマークを外した私に気づいた心は、私の前に会ったスペースへとパスを出した。


 相手が近づいてくるがもう遅い。パスを受けた位置、トラップしてシュートを打つ角度。そこはずっと練習している場所。最後は自分の思いを、振り抜き続けてきた右足をそこでは外さないという信念に、ボールに込めた。


 想いが伝わったかのように、右足から蹴りだされたボールは、相手のキーパーの反応をお構いなく、ゴールネットを揺らした。



 同期の因縁の相手を先に私たちが打ち負かした。

 会場全体から賞賛の嵐がやまなかった。

 チーム内からは輝きを取り戻したな、と部活に早く戻れという言葉で埋め尽くされた。君たちの退部をすくってやった第一人者であることを忘れんな、というある種の皮肉を込めた言葉を送ってやった。


 この光景は3年前みたものと変わらないといいっても過言だろう。だってあっちは全国だし。下手したらそこで試合終了、部活の引退が決まる。それと比べたら軽い軽い。ミルクボーロより軽いわ。


 表彰式が行われ、優勝した私たちに贈られたのは公式戦と言わんばかりに大きいトロフィーだった。受け取るのは私になったが、彼女たちよりそれといったことを成していないが、受け取った代物はチーム全体を称賛してくれているものだった。


 私がネットを揺らしたゴールで記念写真を撮ろうということになった。

 優勝トロフィーを持って撮影をするのはもちろん3年ぶり。

 やはり、優勝するということはこころに響くものがあった。涙は流さないが、この挑戦は無謀ではなかったことに一安心だ。


 どうやら、非公式の大会で西日本で、日本で一番の規模の大会だったらしい。


 今日のことを一応学校に報告しておくと、もう入部しちゃえよ、とのことだった。丁重にお断りしておいたが、何かあれば行きますよ、とだけ言っておいた。



 諦め方を知り尽くしてしまったかもしれないが、人がしたことがないことに挑戦してみる。

 少しづつ成長していけばいい。

 信じたものを信じ抜く。

思うは招く


一番心に残ってる言葉

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