第34話 「好きな子」
えへへ
「そういえば2人とも高校生だけど、彼氏とかいないの?」
放課後の空き教室でそら先生がつぶやいた。
高校生活最後の一年、そんな人がいたら苦しい受験勉強も楽しく感じるのかな。
「そういうのはもみじに聞くといいですよ。だってこの子、小学校の時好きだった子いたもんね」
「好きだったってことはフラれたの?」
「その子県立大学の付属中学校の受験しちゃって、卒業式以来会ってないんです」
「それじゃ、志望校をその大学にしてるってことは、まだ好きなんだよね?」
「うん」
こんな話をするのはいつ以来だろ。こんなにもほっぺたが熱くなる感覚をしたのはいつだったかな。あの人のことを考えるだけで、胸がキュッとなる。それは中学校の入学式のとき、彼がいないことがわかって、寂しさを感じた。それと同時に彼が入試に受かったんだという喜びもあった。
私が彼の虹空晴輝のことを好きなことがはっきりとなったのは小学6年生の音楽発表会の頃だった。晴輝が伴奏者に選ばれたとき彼はやる気ではなかった。彼とは幼稚園からの付き合いだから、なんで選ばれたのに嬉しくないのかはわかっていた。実は、緊張しいで、人見知りだから、人がいっぱい集まるところでピアノを弾くのが好きじゃなかった。
ある昼休みの時間、聞き覚えのある音色が聞こえてきた。その音に導かれ、音楽室までやってきていた。やはりその音を醸し出していたのは晴輝くんだった。ピアノを弾いている彼は、入ってきた私のことに気づいてなかった。彼の側に置いてある椅子に座ると、すぐに私の存在に気が付いた。
「なんだ、もみじか。笑いにきたのか?」
「いや、綺麗な音がしてるなって。生の音を聞きに来た」
「周りから見て、俺って情けないって思う?」
「うーん。知らない」
「自由奔放なやつに聞くのが間違ってたか」
プロのピアニストにも引けをとらない人の演奏を一人きりで聞ける機会なんてめったにないと思ったのもあるけど、ホントは声をかけに来たなんて言うのは恥ずかしい。
私は人の噂なんか信じたりはしない。だって、本人が頑張ってるんだから。
「諦めたり、逃げ出したら情けないけど、頑張ってる人はかっこいいよね」
二人きりの音楽室にしばらくの沈黙が続いた。
「人肌脱ぎますか」
「え?」
「一人でも応援してくれる人のために頑張ろうと思って」
「なにより、もみじにそう思われたら終わりだしな」
少し開いた窓の隙間から流れる風が私を突き抜けた。
「何?私のこときになるの」
「みんなが俺のことを悪く言ってる時、そんなこと気にせずに喋ってくれてこういう時に支えてくれるのはもみじだけだった。だから、今言うよ。今まで、いや、これからもありがと」
二人の視線が交差する。顔が赤くなっているのが自分でもわかり、すぐに目をそらしてしまった。
「急になに?!告白?しかも私言ったやつじゃん!」
晴輝の告白のような言葉で思わず声が高くなってしまう。
「誰にも言ってなかったけど、実はもみじと違う中学校に行くかもしれないんだよね。だから、とらえ方としては間違ってないよ」
「え…」
「まだ卒業まで日があるけど、高校とか大学とかで一緒になったときにさ、気が変わってなかったら、付き合ってください」
「婚約みたいな感じだな。でも、晴輝が好きな子とかできたらどうするの?」
そう、彼が言ったことは私が気持ちが変わっていなかったらの話だ。彼自身のことは何も決まってない。
「それはないよ」
「もみじみたいな人はいないよ」
私の無意識に口角が上がる。彼の言葉は直球すぎて私の心臓が持たない。
「そんなこと言われたら私も伝えなきゃいけないじゃん」
――――――
私がこの人が好きだなって思った瞬間。それは私がサッカーをやり始めて2年が経った5年生のとき。クラブで足元の技術しかなかった私は、サッカーで一番大事といっていいキック力がなかった。持久力もあって足も速かった私にとっては欠点だった。
筋肉的な問題もあったのだろう、シュートが思うように入らなかった。フォワードなんだからそのくらい決めてくれないと困る、あいつに渡しても決まらない。という言葉を聞き続けた私は精神的に来るものがあった。
当時の私を悪く言わずにそっとしておいてくれたのは晴輝だけだった。
「なんでわざわざ自分から辛いことしてんの?」
「ごめん」
「そうじゃなくて、なんで決めれるようなことしないのかなって」
「どういうこと?」
「抜けるだけドリブルで抜いて、確実に決めれるところまで運べばいい」
「それならごちゃごちゃ言ってくるやつらを黙らせるだろ」
「相変わらず無茶なこというね」
「そういうの好きそうだし。言われっぱなしだと面白くないから」
自分のことを信頼してくれる人がいるって、心強いと初めて感じて、初めて好きっていう感情が芽生えた。
――――――
「私もすきだよ」
「辛いとき、嬉しいとき、何気ないひと時を晴輝と一緒に過ごしたい!だからその時はよろしくお願いします」
やっと口に出せて伝えられた。今まで胸にあった重たいものが一気になくなった気がする。
「ドキドキした。顔真っ赤だよ」
「もみじなんて耳まで赤いじゃん」
その後の私たちの関係はというと、卒業式までいつも通り友達のように学校生活を過ごし、あおいにだけ私たちの関係を感づかれたはしたものの、周りの人たちには知られることなくそれぞれの道を歩むことになった。
あおいが言うには、彼の顔つきは周りからの評判がいいらしく、当時からひそかに心を寄せていた子は少なくはなかったのだとか。そんな人が自分のことが好きでいてくれるという嬉しさで鼓動が高ぶった。
どこでいつ会えるかわからないけど、きっとその瞬間は私の理性が効かなくなるんだろうな。
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