始まり
~??? 王城~
飛び交う怒号、あちらこちらで上がる悲鳴。
城壁は崩れ去り、今はもうその役目をはたしていない。それのせいでよく見える王都もいたるところから炎が立ちのぼり、壊滅寸前となっている。
大陸一と名高い軍隊・魔法師団を持つこの国には似つかわしくない光景だった。
では、この異常事態の根源は何なのか。人間業でもないし、天災でもない。
闇の魔族と王家の敵対勢力が手を組み、反乱を起こしたのだった。
そんな中、この国の女王であるフレイシア・リリー・プラタネイスは重傷を負い、魔法による治療を受けていた。
魔族の起こした爆発から王子をかばい片目と片足を失ったのだ。
「・・・申し訳ございません、女王陛下。わたくしの不注意で……」
「案ずるな、大事ない。血も止まっておるし、こうして生きているではないか。
そなたの魔法のおかげじゃ、感謝する」
微笑み礼を述べるフレイシアに皇太子は謙遜した態度をとる。
「そんな……私のできることをしたまでであり、感謝されるようなことは何も……」
「そなたは変わらぬのう。自信を持てと言ってるであろうに……!」
何かに気づいたようにフレイシアが表情を厳しくさせる。
「全員構えよ……来るぞ」
その瞬間部屋の大部分がすさまじい轟音とともに吹き飛んだ。
「くっ……皆、生きておるか。生きておるものは返事をしろ」
ちらほら返事は聞こえてくるものの動かなくなっている者もいた。城の騎士・魔法師たちが全滅するのも時間の問題だった。
(このままでは全滅する、動けるものだけでも逃がさねば……!)
「聞こえるか!?
動けるものは皇太子と皇太子妃を連れ出し、逃げろ!!
命優先で生き延びることだけを考えよ!」
「できません!!敵が多すぎます」
その通りだった。逃げるにしても敵が多すぎてすぐに追いつかれることは明白だった。
「心配するでない、余がひきつける。
なに、この程度ならば逃げ出す時間程度かせげ
「貴女様を置いて騎士である我らだけに逃げよとおっしゃるのですか?!」
まだ幼さが残る若い騎士がフレイシアの言葉を遮る。
主を置いて逃げるなど騎士である彼らにとっては屈辱でしかない。彼が逆上するのも無理はなかった。
「……ハァ、わからぬか?
我らが残滅すれば二度とこの国は蘇らない。王家の血をひくものを生き延びさせるためにはこうするほかない。
余はこの国のために生きると決めておる。この国が余の血であり民は余の命じゃ。この国のために死ねるのならば本望じゃて。
だから・・・
「それならば!」
今度は魔法師団の団長がフレイシアの言葉を遮る。その顔には覚悟と敬愛の表情が浮かんでいた。
「貴女様もこの国でございます。そして、我らの使命は貴女様をお守りすること。
貴女様が生きておられるだけでこの国は永遠にあり続けます。
ですから、これから行うすべてのことどうかお許しいただきたい。……これらはすべて我らの我儘でございます。
生きてください、フレイシア女王陛下。我らも、民も皆貴女様を愛しております」
「お主、何を、する、気じゃ……?
!……おい、まさか」
魔法師団長とフレイシアを中心に魔法陣が広がる。それを囲む魔法師たちも申し訳なさそうな、それでいて晴れ晴れとした顔をしていた。
何をしようとしているのか気付いたフレイシアがやめさせようとしてももう遅かった。
「お元気で、フレイシア女王陛下」
「まて・・・」
刹那、眩いばかりの光が当たりを立ち込め、フレイシアの意識とその姿がだんだんと薄れていった。
その消えゆく意識の中でフレイシアは倒れ行く魔法師団長の姿を見た。
その日、女王が消えた国は一夜を持たずにして滅び、あとには瓦礫だけが残った。