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エピローグ 天使のケジメ?

 今日は高校の合格発表。

 朝食を取り、姉さんに見送られ家を出る。

 電車を乗り継いで、1時間30分を掛けて、ようやく高校に着いた。


「...受かってます様に」


 両手を組んで発表までの時間を過ごす。

 周りに知り合いは居ない、私の中学からこの高校を受験したのは私一人。

 更に言えば、塾からも私一人しか受験していない。


「大丈夫よ...自己採点では合格ラインだったし、兄さんも大丈夫だって」


 嫌な予感を振り払う。

 兄さんと再会を果たして7年。

 兄さんの会社が遠方だから、数ヶ月に一回しか会えなかったけど寂しくは無かった。


 連絡先はちゃんと教えて貰っていたし、約束した日にはちゃんと来てくれたからだ。


「...あった」


 張り出された受験番号の中に、私の番号が。

 何度も確認する。間違いない!


「うん、姉さん...受かったよ」


 早速姉さんに連絡を入れる。

 ずっと私を支えてくれて本当にありがとう。

 涙を堪え、ようやく自宅に着いた。

 10年前から暮らすお婆ちゃんの家。

 お姉ちゃんは地獄から救いだしてくれたんだ。


「...あ」


 自宅近くの駐車場に停められている一台の車に身体が打ち震える。

 珍しいからでは無い、それは私にとって、大切な人が来ている事を表していた。


「ただいま」


「おめでとう日向」


「良かったわね」


 玄関を開けると姉さんと兄さんが笑顔で私を迎えてくれた。


 「兄さん来てくれたんだ?」


 「ああ、今日は有給を取ったから」


 兄さんの笑顔に心が満たされる。

 今日は有給をって、車で来たんだから、昨日の夜からだよね?

 合格発表が今日なのは事前に言ってたけど。


『一緒に祝ってあげるよ』

 そんな、さりげない兄さんの優しさが分かった。


「これで兄さんの後輩だよ!」


「だな」


 涙が溢れそうになるのをごまかして、兄さんに向き直る。

 私が合格した高校は兄さんの出身校、この街では一番難しい学校。

 兄さんはバイトをしながら塾にも行かず合格したんだ。

 凄すぎる、私には絶対に無理だ。


「高校でもバスケ頑張れよ」


「もちろん!」


 小4から始めたバスケットボール。

 小っちゃかった私を心配事した姉さんが入る様に言った。

 最初は嫌だったけど、兄さんがバスケ好きと聞いて一生懸命打ち込んだ。


 お陰で、今はバスケが大好き。

 身長も165センチを越えたし

(体重は言わない)


「日向も高校生か」


「本当、まさか雄二さんと同じ高校なんて」


 姉さん達は感慨深そう。

 でも本当はどこの学校でも良かったけど、喜んで貰えたのは何より。


「だって兄ちゃんの妹だもん」


「あら?それって私より日向の方が勉強が出来るって自慢?」


「さあ?」


 姉さんは拗ねた振りをする。

 そんな訳無いじゃない、姉さんだって今は大学病院の助教だよ?

 まだ31歳なのに、次は講師を期待されてるって、凄すぎるよ。


「今日はご馳走だ!」


「やったね!」


 兄さんと姉さんはキッチンで料理を始める。

 二人並んだ姿は夫婦みたい。


『...でもそうじゃない』

 兄さんは姉さんの恋人ですら無い。

 姉さんはずっと兄さんを愛し続けているが、その想いを伝えずにいる。


 兄さんの気持ちは分からない。

 でも兄さんはずっと独り身、恋人が居るって話も聞かないし...


「兄さんモテるからな」


 上場企業のエリートサラリーマン。

 顔もハンサム、何より優しい。

 正に理想の男性じゃないか。


 姉さん、早くしないと私が兄さんを奪っちゃうよ?

 ....絶対兄さんは相手にしないと思うけど。


「どうしたの?」


「ううん」


 幸せそうに料理をする姉さん、早く幸せになって欲しいな。


「お届け物です」


「私が行くよ」


 宅配が来たようだ。

 急いで玄関に行くと大きなクーラーボックスが届いていた。

 荷札に即日配達と書いてある。

 送り主に書かれた山口史佳と書かれてあった。


『史佳さんからだ!』

 声には出せない。

 史佳さんは兄さんの元恋人。

 今やスイーツの専門店を3軒も経営している有名パティシエ。


 兄さんに酷い裏切りをしてしまい、破局した。

 後悔で失意のドン底に落ちた史佳さん。

 7年前、兄さんと偶然の再会を果たし、気持ちにケジメが着いたそうだ。


 これらは全部姉さんから聞いた。

 ホテルのラウンジで兄さんが持ってきたシュークリーム。

 あの味が忘れられず、姉さんは箱に書かれていた店の名前を頼りに見つけ出した。


 思わぬ再会に2人共暫く固まっていたそうだ。

 その後、近況を語り合う内に姉さんと史佳さんは和解した。

 私も史佳さんの店に何度か行った。

 今はすっかり仲良し。


 そんな史佳さんも二年前に結婚した。

 相手は史佳さんの店に勤めるパティシエさん。

 私も見たが、どことなく兄さんに似ていた様な...


「気のせいだよね」


 史佳さんの笑顔は本物だった、決して兄さんの代わりなんかじゃない。

 それに史佳さんのお腹には赤ちゃんが居るのだ。


「どうしたの?」


「ううん、スイーツが届いたよ」


 姉さんの声に慌ててクーラボックスを持ってキッチンへと走る。

 送り状は剥がしてボケットに押し込んだ。


「ありがとう、そこに置いといて」


「分かった」


 姉さんが小さく目配せをする。

 きっと姉さんが史佳さんに私の合格を教えたんだな。


「...全く」


 姉さん、いい加減素直になりなよ。

 そして兄さんも、過去の(わだかま)りは分かるけど。


「どうした日向?」


「あ...えーと」


 兄さんの窺う様な顔に言葉が出ない。

 いや、そんな事ではダメだ。


「兄さん!」


「え?」


「私は兄さんが好きです!」


「は?」


「ひ...日向何を...」


 姉さんが固まっている。

 兄さんは理解してるのかな?

 一世一代の告白だよ。


 「だ...だから...その」


 頑張れ私!!


「...これからも宜しく」


「ああ、もちろんだ。

 僕達は家族なんだから」


「うん」


 兄さんに頭を撫でられながら私の告白は終わった。


「...家族か」


 まだまだこれからだな。


『早くしてよ姉さん』

 私は姉さんの瞳に頷いた。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒナタのアシストが尊い。 [一言] いくら親の件でケジメがついたとはいえ義姉は関係を進めずらいよね。ここは男らしく雄二から進めないといけないんだろうけど。まさか、雄二はヒナタ狙いでヒナタが…
[良い点] おぉっ!こちらの作品も完結まで提供していただいて、ありがとうございます!安定の楽しさでした!タイトルはなるほどそっちかっていうパターンでしたね〜! 極クズたちはともかく、みんなの機微が「人…
[良い点] 女達がそれぞれケジメつけられたことかな 姉はまだ燻ってるけど 美味しい所全部日向が持ってっちゃいましたね [一言] それではここで一曲 近藤真彦で「ケジメなさい」
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