耳を疑った
しかしながらわたくしはグリムのプライドの高さを見誤っていたみたいである。
「いいでしょう。 無視をするというのであれば無視できなくするまでですね」
そういうとグリムは火球を自身の周囲に五個程浮かべるとそれらを全てわたくしへ向けて発射してくるではないか。
自慢ではないがわたくしの弱々ボディーであれば、たとえ低魔術である火球一つでも当たれば即死できる自信がある。
というのも魔法のダメージは自身の保有している魔力量である程度ダメージが軽減されるのだがわたくしにはそもそも魔力を持っていない為ダイレクトにダメージを受けてしまうのである。
イメージとしては筋肉と脂肪で出来た、日々のトレーニングにより鍛え抜かれた鋼の肉体と、筋肉も脂肪もないひょろひょろの身体とでは、ボクサーにジャブをお腹に打たれた時のダメージが違うのと同じようなものと考えれば分かりやすかと思う。
そう考えれば良く今まで生きて来れたなと、我がことながらびっくりである。
もしわたくしに公爵家という肩書が無ければ今頃とっくに死んでいただろう。
そんな事を、死を強く意識したためかやたら時間が伸びて遅くなったように感じる世界で思いつつ『あぁ、わたくしはここで死ぬのだなー。 死にたくないなー」と自身にこれから起こるであろう悲劇に対してそんな心境で徐々に近づいて来る火球を見ていた。
そして火球が目の前まで迫り、その熱によりどこか他人事のような感覚から一気に現実に引き戻されたわたくしは恐怖により固く目を閉じる。
「……………………」
しかしながら、待てど想像していた衝撃も熱さもなく一向に訪れる気配が無く、不思議に思ったわたくしが目を開けると、そこにはわたくしを火球から守るように前に出て剣を抜刀したウィリアムの姿があった。
「何故邪魔をする?」
「俺はマリー様の剣である。 剣が主を守るのは当然だろう」
「つい最近まであれほど毛嫌いしていたにも関わらずこの短期間でどのような心変わりがあったのか、実に興味深い。 それとも噂の通りそこの毒婦に洗脳でもされたのか?」
「いや、むしろ俺はマリー様のおかげで目を覚まして現実を見る事が出来た」
そして互いににらみ合い、一触即発といったその時、騒ぎを聞きつけた講師が走りながら怒声と共に近づいて来ているのが見えた。
「ふん、まぁ別にこの毒婦はいつでも殺せる」
そう言い残すとグリムは姿を消すのであった。
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あのカイザル殿下が地方に飛ばされて実質の幽閉をされたと最初聞いたときは耳を疑った。




