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2話






ギース・ドレスティは、男爵家が集まる街の中で唯一存在する侯爵家の長男だ。


この街で一番の権力を持つ家に生まれた彼は、今や街の子供たちのガキ大将となっていた。


彼の両親はとてもギースに甘く、彼が問題を起こしたとしても揉み消してしまうっておじいちゃんが話していた。


そして彼は火属性、風属性の二属性持ちで、権力や強さに勝てないと悟ったこの街の住人は、たとえ理不尽なことを要求されたりしても、逆らうことなく過ごしていた。






ギース達がいるのは、町外れにある森の中の小さい広場だ。


そこは、小さな草原になっていてこの街の子供たちの遊び場となっている。


が、しかしこの時間は子供達はいないため、ギース達が占領している。


いつも僕は、兄達に森の中を進んでそこへ連れられていた。


おじいちゃんに聞いた話だと、この世界には魔物と呼ばれる危険な生物がうじゃうじゃいて、この森にもそれがいるそうなのだがあまり深い場所へと行かない限り、遭遇することは無いらしい。


そして僕達が通ってる道も、普段から人がよく通る場所なので安全だが、おじいちゃんは、


「そうやって油断していると、魔物にばったりと会った時に直ぐに食い殺されるぞ?」


と言われているので、油断はしていない…………つもりだ。少し不安だけど……






しばらく歩くと、ギース達のいる広場に着いた。


彼らは草原に横たわっている木に座って雑談をしていた。


「それでよ〜……お、来たか。待ってたぜ、魔無し。ヘヘッ」


彼はそう言って立ち上がると、こっちに近づいてきた。


「それじゃあ今日は、、、そうだな……いつもの特訓をしようか。な?いいだろ?」


ギースはそう言って僕に視線を向けた。


ギースが言った特訓というのは勿論、文字通り特訓をするわけじゃない。


ギースやルイズ、そして周りにいる奴らが僕に向かって魔法を撃つ。もちろん彼らもやりすぎはまずいと知っているので、初級魔法だ。そして僕がそれを必死に避けるというものである。


はっきり言ってリンチ以外の何物でもない。


…………リンチってどういう意味だろう。


僕はたまに意味がわからない言葉を思い浮かべることがある。


それも自然にだ。


こういうことが起こる度に、自分の身に何が起こっているのか不安になる。


「それじゃあ始めようか。おい、魔無し。いつも言っているが、遠くへは絶対に行くなよ?」


「………はい、分かりました……」


「じゃあ行くぜ?」


「!」


ギースがそう言った瞬間、僕は吹き飛ばされた。






そこからは一方的な暴力だ。


火属性の攻撃で火傷を負わされ、


水属性の攻撃で水浸しに、


風属性の攻撃で吹き飛ばされ、


土属性の攻撃で全身に打撲を負った。


さっきルイズにやられた胸の痛みなんか比べ物にならないくらいの苦痛が僕の体を襲った。


だけど、こんなことを何回もやられているせいか、ある時からこの苦痛より早く終わって欲しいという思いの方が強くなっていた。






「………ちっ、なんかもう面白くなくなったし、今日は終わりだな。ホント最近、お前の反応がつまんなくて直ぐに飽きてしまうじゃねぇか。なぁ、お前らもそう思うだろ?」


しばらくすると、ギース達は僕への攻撃をやめた。


「魔無し〜。もっといい反応見してくれよ〜。じゃねぇとつまんねぇんだよっ」


「うっ」


ギースは、倒れている僕のお腹に蹴りを入れると、


「はぁ〜、なんかもういいや。おいお前ら、一緒に美味しいもんでも食べに行こうぜ!」


そう言ってルイズや周りの子供たちと立ち去って行った。


……………やっと静かになった。


「はぁ、はぁ………うぐっ……」


僕はあちこち痛む体を起こして、何とか近くにある木にもたれかかるように地面に座った。








僕が魔無しとわかってから、みんなは僕をいじめるようになった。


最初はバカにされたり、無視されたりというレベルだったけど、だんだんエスカレートしていって、今ではさっきのように魔法で攻撃をするようになった。


そしてそれを親たちは黙認している。もちろん僕の親もだ。


彼らの親にとって、魔力無しである僕は邪魔以外の何物でもないのだろう。


もう、疲れた。こんな生活を僕はいつまで続ければいいのだろう。


いつの間にか眠くなっていた僕はそんな疑問とともに、浅い眠りについた。

















*******




『………………ん』


「お、やっと起きた。早くしないと学校に遅れちゃうよ?」


朝起きると目の前には、茶髪ロングの美人………………幼なじみの女の子がいた。


『う〜ん………今何時?』


「今はねぇ〜、七時半だよ!」


目の前の幼なじみはそう言って笑顔を見せた。










『……………は!?』


俺はベッドから飛び起きた。


そして即行でパジャマを脱いで制服に着替えた。


「ちょっと、幼なじみだとしても私みたいな可憐な美少女がいるんだから、もうちょっと恥じらいを持って欲しいんですけど」


『悪い、気づかなかった。』


「え……そっか、そうなんだ。▉▉▉▉にとって私はその程度の女なんだ。悲しいよ。グスン」


『そんな大根芝居より下手くそな演技をする暇があったらさっさと玄関で待ってろ』


「酷い!せっかく私がわざわざ▉▉▉▉を起こしに来てあげたのにそんなこと言うんだ!」


『俺はそんな事頼んだ覚えはないし、▉▉▉が勝手に来てるだけだろ』


「む〜」


『だからそんなかわ……うざい顔を俺に向ける暇があるなら玄関に行ってろ』


おっと失言。


だが幼なじみは俺の失言に気付いたのか、ニヤニヤしながら


「ふ〜ん……私ってそんなに可愛い?なんなら幼なじみという関係に免じて、私と付き合ってあげてもいいんだよ?」


『お前なぁ………ふざけてやるにしても限度があるだろ。ほら、さっさと行け。シッシッ』


「へいへーい」


そう言って幼なじみは俺の部屋から出ていった。


俺はササッと学校に行く準備をすると、部屋を出た。






リビングに行くと、既に家族が朝食を済ませていた。


「ちょっと▉▉▉▉、また夜遅くまでゲームしてたの?」


『違うよ母さん。俺はゲームをしてたんじゃなくて、ゲームを見てたんだよ』


「どっちも同じじゃない……そんな生活続けてたらいつか病気になるわよ。ほら、早くご飯食べて学校に行きなさい。▉▉▉が待ってるんでしょ?」


『はーい』


俺は机に用意されていたパンとおかずを一瞬で平らげると、幼なじみが待つ玄関へと向かった。


『それじゃ、行ってきまーす。』


「はーい、行ってらっしゃーい」


『んじゃ、行こか』


「うん!」





………ス………




『ん?』


「どうしたの?」


『いや、なんか呼ばれたような気がして』


「気のせいじゃない?」


『かもな』









…ユ……ス!………









『…………なぁ、やっぱり俺呼ばれてる気がするんだが』


「え、なに?心霊現象?ちょっと怖いんですけど……」


『あのなぁ……』











…ユーリス!

















すると突然、目の前が真っ暗になった。












*******




「ユーリス!」


「はっ!」


「ユーリス、大丈夫か?」


目の前には赤髪ロングの女の子、キアラがいた。


「あれ?僕、今まで何を………」


なんか夢を見ていたような気がするけど……

ダメだ、思い出せない。


「良かった、目を覚ましてくれて。私がここを通ったらユーリスが倒れていたから」


「そうなんだ、起こしてくれてありがとう」


「また、ギースの奴らか?」


「………うん」


「くそ、遅かったか。全くあいつらは貴族としての誇りがないのだろうか、ホントに……」


「大丈夫だよキアラ。僕はもう慣れたから」


「何を言ってるんだユーリス。慣れたらいいってものじゃないだろ、あぁいうやつは。

ていうかユーリスお前ボロボロじゃないか!あいつらどこまでユーリスを傷つけたら気が済むんだ。待ってろ、すぐに回復するから。『回復(ヒール)』」


そう言ってキアラは、僕の傷を癒してくれた。






キアラはおじいちゃんと同じく、僕が魔力なしとわかっても優しくしてくれる唯一の友達だ。


キアラは出会った頃とは違って、僕より男の子っぽくなったと思う。話し方とか特に。


ちなみにキアラがさっき使った魔法は、光属性の『回復(ヒール)』という魔法である。


彼女は、この街で滅多に見ない三属性持ちの天才だ。


そしてそんな彼女が僕に優しくしてくれる理由がわからなかった。


以前聞いた時も、


『別にいいじゃないか。でも強いて言うなら、誰かを助けることが騎士の務めだからかな?』


と言っていた。


でも、だとしても僕を助けたところで彼女のイメージが悪くなるだけだ。


それでは、僕の方がすまない気持ちでいっぱいになる。


だがキアラに、


『私は、守る価値があるものと無いものがあると両親に教わった。そして私は守る価値があるものをしっかりと守っているつもりだ。だからそんなふうに思わなくてもいい』


と言われたから、僕は気にしないようにしている。






しばらくすると体の痛みが引いた。


「ありがとう、キアラ。僕はもう大丈夫だから」


「そうか、ならいいが……」


「うん、じゃあね」


「あ、あぁ」


僕は半ば強引に話を切ると、キアラと別れるのだった。

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