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1話

夢を見ていた。



優しく暖かな雰囲気に包まれた家族の夢。



父親らしき人が何かを喋っては、他の人たちがげらげらと笑い合っていて、母親らしき人はそんな光景を暖かい目で見ている。



そして僕は、その光景を………

























離れた場所から一人寂しく眺めていた。




*******




「…………!」



また、あの夢だ。

どこかの家族の光景を、一人寂しく見守っている夢。


最近になって突然見るようになったその夢は、僕の頭の中の何かを思い出させようとするが、あと少しのところで出てこなかった。


僕の体に異変でも起こっているのだろうか。


思い当たる節は………ない。


これ以上気にしても仕方が無いと、僕は気を取り直して布団から起き上がった。




僕が今いるのは物置小屋という自室だった。


魔力なしと言われた僕はある時、父から

「お前と一緒にいるのは不愉快だ」

と言われ、この物置小屋に放り込まれた。


物置小屋と言ってもそこまで不便じゃないから、僕は住む場所があるだけでもありがたく思っている。


シージおじいちゃんから聞いた話では、魔力がない人は今までにもごく稀にいたそうだが、その人たちのほとんどは子供の頃から家を追い出されて、どこかで飢え死ぬということらしい。


それに比べれば、僕のこの状況は贅沢だと言ってもいいだろう。




布団から起き上がった僕は物置小屋から出ると、靴を履いて近くにある川へと向かい、顔を洗った。


僕のいる街は、家のほとんどがこの川に沿って建てられている。


そしてそのうちのほとんどが男爵家の家だ。僕の家もそのうちの一つである。


この前、この川を下っていくと王都というでっかい街があるっておじいちゃんに教えてもらった。


この川はもはやこの街の人々の生活を支えるひとつ

と言っても過言ではなかった。


川の名前は、リーズブル川というらしい。




顔を洗った僕は物置小屋に戻り、服を着替えて家族が住んでいる家へ朝ごはんを食べに行く。


と言っても家と物置小屋の距離はそこまで離れていない。

歩いて数秒で家に着くくらいの距離だ。


玄関に入ると家で働いている茶髪のメイドさんがいた。


しかしそのメイドは僕に一瞥をくれると、嫌そうな顔をしてそそくさと立ち去って行った。


僕はそのことを気にせず、家族がいるであろうリビングへと向かった。




リビングに入ると、既に家族で食事が始まっていた。


僕も椅子に座ろうとするが、僕の分の椅子はなかった。


どうしようかと悩んでいると、


「「「「ご馳走様」」」」


と家族が揃って挨拶をして、まるで僕が居ないかのようにそれぞれに立ち上がり、自分の用事へと向かっていった。


そして長男であるルイズは、僕の横を通り過ぎる時に


「この後、玄関の外で待ってろ」


と言って立ち去って行った。


父と母はこちらに目も向けず、次男であるロイズは、これから起こることが楽しみなのかニヤニヤとしながらルイズについて行った。




しんと静まり返ったリビングで、僕は椅子に座ると、ルイズとロイズに食べられたのか、明らかに少ない朝ごはんを食べ始めた。


僕だけの食事の音が部屋に響き渡って、より一層孤独感を感じさせた。




しばらくすると突然、


「おはよう!いや〜しっかりと寝坊してもうたわい!ガハハ!」


筋肉ムキムキの男の人が入ってきた。


「いくらなんでも遅すぎるよ。おじいちゃん」


「そうか?まあそれは置いといて、ユーリス、また一人で食べてるのか?」


「うん」


「全くあいつらときたら……よし!いつも通りおじいちゃんが一緒に食べよう!」


「ありがとう。おじいちゃん」


「可愛い孫のためなら、これくらいお安い御用じゃい!」


そう言って暑苦しい笑顔満点のこの人は、シージおじいちゃん。


みんなとは違い、僕に優しくしてくれる人だ。


「おじいちゃん、今日もクッキー焼いてくれる?」


「もちろん、焼くに決まってるじゃろ!でもの、別にクッキー以外の他のやつでもいいんじゃぞ?」


「ううん。僕はおじいちゃんのお菓子の中で、クッキーが一番好きだから」


そう言って僕は笑顔を見せる。


実際、おじいちゃんの作るお菓子の中でクッキーが一番美味しいのは本当だ。

外はカリッ中はしっとりというクッキーでは出しづらい食感をシージおじいちゃんは簡単に再現する事ができる。そんなクッキーが一番でないはずがない。


「ユーリス……お前ってやつは……」


シージおじいちゃんはそういうと目に手を当て、うぅ〜と泣く真似をした。


「もう、このやり取りはいつもやってるでしょ?」


「ガハハ!確かにそうじゃな!」




そうして朝ご飯をシージおじいちゃんと過ごしていると、外からルイズの声が聞こえてきた。


「ごめんおじいちゃん。僕そろそろ行かないと」


「そうか、またあいつらと行くのか。すまんの、今日は止めてやれなくて」


シージおじいちゃんはそう言うと悲しそうな顔をした。


「ううん、大丈夫。心配しないで。」


僕はそう言って椅子から立つと、玄関に向かった。




外に出ると一番最初に飛んできたのは罵声だった。


「おいユーリス!何グズグズしてんだよ!外で待ってろって言っただろ!」


「ごめんなさい」


「ったく魔力無しの愚弟の癖に調子乗ってんじゃねぇよ」


するとルイズは僕を突き飛ばした


「うっ!」


そして手を僕に向けて突き出すと、


「『魔力弾(エアバレット)』」


と唱えた。


するとルイズの手から不可視の弾が僕の方に飛んできた。


当然僕は避ける間もなく、


「がは!」


胸あたりに不可視の弾が直撃し、凄まじい衝撃と共に僕は数メートル吹き飛ばされた。


「う………ぐっ……」


胸が痛い。苦しい。


僕が胸の痛みで蹲っているとルイズが


「今のは魔力無しのくせに俺たちを待たせた罰だ。」


と言って僕に近づくと、僕の胸ぐらを掴みあげて


「今度また同じことをしてみろ。次はこんなもんじゃ済まさねぇからな」


「うぐっ……はい、分かりました」


そしてルイズは手を離し、僕はそのまま崩れ落ちた。


「分かったらさっさと立て。ギース達が待ってるからな」




あぁ、いつもと同じだ。僕はこのままギース達の所へ行って嫌なことをさせられたり、痛いことをされるのだろう。


まだ、胸が痛い。もしかしたら骨まで響いているのかもしれない。


僕はそう思いながら胸の痛みに顔を(しか)めながら、ルイズたちの後を追って行った。



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