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13話

疲れただけ







翌日、集合時間が七時半と早かったこともあり、いつもより早く家を出た俺は睡魔に襲われていた。昨日、雫玖と別れる時に言われたあの一言で、早く寝ることができなくて悶々としていたせいだろう。


つまりこれは雫玖のせいだな!うん!


まぁどっちみち脳が完全に起きるのはまだまだ先だろう。


現在、俺はとある人を待つため、家の前でぼーっと突っ立っていた。


言い忘れていたが、今は六月末という梅雨が終わり、さあ本格的な夏が始まるぞ的な季節である。


なので案の定、本日の空模様はあまりパッとしない曇りだった。


「ヒロキおはよう!」


「うぉ!びっくりしたぁ………」


しばらくの間、家の前でぼへ〜っとしていたら突然大きな声で挨拶をされたのでびっくりした。


声がした方を向くと、


「んも〜。ヒロキちゃんと起きてる?早く行こ!」


そこには雫玖がいた。


曇りの日には似合わない、まるで太陽のような笑顔につい目を奪われてしまう。


そんな彼女の服装はいつもの制服と違い、動きやすそうな灰色のジャージと短パンだった。そして髪型は、いつもの背中までしっかり伸びたゆるふわロングではなく、シュシュを後ろに着けてポニーテールにしていた。


そして俺も、ジャージではないがTシャツの上に半袖シャツと短パンという、似たような服装だった。


雫玖は朝からいつもと変わらず元気いっぱいだった。この時期は暑苦しいのでやめて欲しいのだが、そんな面も許せてしまうので、もはやどうしようもない。


ちなみに何故ここに雫玖がいるのかというと、昨日メールで雫玖から、『明日は一緒に学校行こ!』という文が送られてきたので仕方なく………は無いが、むしろ嬉しかったのでこうして雫玖と登校することになった。


普段雫玖とは下校の時は一緒だが、朝は別々だったのでなんだか新鮮な気持ちだった。

今日限りの雫玖との登校である…………本人に頼めば、毎日一緒に登校することができるだろうが。


しかし、生憎そんな度胸は持ち合わせていない。ヘタレだな、俺。


「ヒロキー!早くしないと置いてっちゃうよ!」


俺が回想タイムに入っているうちに、雫玖はいつの間にかかなり先まで歩いていた。

俺は置いていかれる前に、早歩きをしながら雫玖の隣に向かったのだった。






朝の学校のグラウンド。


いつもなら部活の朝練などで使われているはずのその場所は現在、遠足の集合場所として使われていた。


俺と雫玖がグラウンドに着く頃には、既にほとんどの人が集まっていたようで、赤、青、緑など、いろんな色の服を着た生徒たちで、グラウンドはカラフルに彩られていた。


「いや〜みんな張りきってますなぁ!」


「あーはいはいそうですかそうですか。ふぁぁぁ〜」


「もう!いい加減早く起きなよ!じゃないとこうだぞ〜?うりっ!うりうりっ!」


「ちょ、おい、やめろって!」


なかなか頭を起こそうとしない俺に痺れを切らしたのか、雫玖は俺の脇腹をつついてきた。


くすぐったさや恥ずかしさにより、俺の頭は一瞬で覚めた。それと同時に顔の方も熱くなってきた。


「お前ら公共の場でイチャイチャすな」


そう言いながらこっちに歩いてきたのは、雄一と川上のペアだった。


「イ、イチャイャなんてしてねぇわ!」


「だとしても、俺らから見れば十分そう見える」


「うぐ……そう言われてもな」


俺は、別にそう見られても困るどころかむしろ嬉しいのだが、雫玖の方が大丈夫なのかという心配の方が大きかった。


「…………」


さっきから隣にいるはずの雫玖がものすごく静かなので、ちらりと目を向けると、本人は顔を赤くして口をニマニマさせていた。え、何、やっぱり俺のことが好きなの?そうなの?


俺の中で、雫玖が俺の事を好きだという事が現実味を帯びてきた時、


「おーい、そろそろ集まる時間だぞ」


「え?あ、おう、すぐ行く」


気づいたら既に、学校の校舎の前で整列が始まっていた。


「ほら中村、早く行くぞ」


「う、うん。わかった」


俺は遅れまいと、雫玖を連れてみんなの元に向かっていった。もちろん手は握っていない。






「え〜今日は生憎の……………なので…………………という予定で……………というわけなので……………なので、今日は思い切り楽しみましょう」


全校集会の校長先生ほどではないが、先生の長い話を頭の中で聞き流して、俺はこの場を乗り切る。他の人も俺と同じようにしているのが横目で見えた。その後、俺達は列となって学校沿いの道にとまっているバスに向かった。


俺たちが乗るバスは、観光バスみたいなしっかりしたものではなく、一般の人が乗るようなバスを貸切にしてもらったものだった。かなりの年季が感じられるが、動けばいいと思ったらしい。


ここから目的地の湖までは、およそ一時間半くらいかかると先生は言っていた。それまで俺は雫玖と隣同士なのかと思うと、変に緊張してきた。


昨日のあの発言といい、今日のあの態度といい、俺は雫玖の本心がわからなくなっていた。そんな状態で隣同士になるのは、俺の心臓にすごく悪い。だが、昨日の約束もあるので、必ず隣同士にならないといけない。


これは………地獄だな。







俺たちの席は、後ろから二、三番目という、酔いやすい人には地獄の席となった。まぁ俺は緊張でそれどころの話じゃないけど。


席順は、川上と雄一が後ろで、俺と雫玖がその前に座る形となった。


「私車酔いしないから、ヒロキが窓側行っていいよ」


「いいのか?景色とか色々見えないけど」


「うん!」


「じゃあ……窓側で」


俺には雫玖の狙いがよくわからなかったが、普通に気を使ってくれたと思い、その言葉に俺が緊張で甘えることにした。


「じゃあ、よろしくね。雄一」


「おう、こちらこそよろしくな。千雪」


ちなみに、川上と雄一は平常運転だった。


くそ、緊張で何も考える余裕が無い俺の前でそんなふうにイチャイチャしやがって……。


そんな俺の気持ちを他所に、雫玖は反対の席に座っていた女子二人と楽しく会話をしていた。なんか悲しくなってきたな……。






なんやかんやあって、バスに乗ってから三十分くらいが経過した………と思う。俺はいつの間にか眠っていたらしい。


目を覚ますと、車内は乗った直後と同じくらいワイワイしていた。


バスは現在、崖に沿って伸びている道路を走っていた。左側には迫り来るような大きな崖、そして右側には夏だと感じさせるような川や、緑いっぱいの森林が広がっていた。


特に考えていた訳では無いが、ちらりと隣を見ると、


「あっ……」


雫玖と目が合った。が、その直後雫玖はフイっとすぐに反対方向を向いた。


「おい、なんだよ中村」


寝起きで若干不機嫌な口調になってしまったことに少し後悔しながらも、俺は雫玖にどうしたのかを聞いた。


雫玖は、黙ったままそっぽを向いていた。


「お、やっと起きたか。弘樹」


そう言われて後ろを向くと、寝ている川上と、それを見守るように座っている雄一がいた。雄一は俺と目が合うと、ウインクしてきた。


何だこのキザ男は。普通に気持ち悪い。あとリア充爆死しろ。


俺は心の中でそう思いながら、雄一のことを無視し、もう一回雫玖に同じ質問をした。


「で、中村は一体なんでこっちを見ていた?」


「な……なんでも、無い……」


「本当か?ほんとのほんとのほんとに?」


「う、うるさい!本当に何も無いんだって!あ、それともヒロキ的にはなにかあって欲しかったのかな!?」


その言葉で、俺の頭が覚めるのと同時に、顔が熱くなる。


「ば………ち、ちげぇよ!ただ、俺の顔になにかついてるのかとか色々気になっただけだ!」


「ふ〜ん、本当かな〜?」


雫玖は、俺と目が合ったことに対してなのか分からないが慌てていて、それを隠すように早口で俺をいじってきた。そのせいで、俺は昨日のあの雫玖の言葉をまた思い出してしまい、それを振り払うように雫玖の言葉に反論していると、言い合いのような感じになってしまった。そしてその勢いでつい俺は昨日のことを雫玖に聞いてしまう。


「昨日、雫玖が言ったことって、あれどういうことなんだ?」


「え、き、昨日の?………っ!あ、あれはそんなに深い意味は無いから!うん!だからヒロキは気にしなくていいからね!あ、それともヒロキは私のあの言葉になにか思うところがあったのかな?」


雫玖が顔を真っ赤にしながら早口でまくし立てる。だが、やはり俺は昨日雫玖が言っていたことの


「…………ヒロキ?」


「なぁ、やっぱり雫玖って………」


俺のことが、好きなのか?


だが、それを言い終える直前……















目の前が真っ白に染まった。













そして気づいた時には、雫玖はおろか、周りの生徒と先生、そして運転手の人までがいなくなっており、慣性の力に逆らわずただ前に進むバスの中に、俺一人だけが取り残されていた。


「…………………………は?」


俺には何が起こったのか理解できなかった。


雫玖に俺のことを好きなのかを聞こうとしたら、突然みんなが消えたのだ。俺を除いて。


だが、バスはそのまま進み続けていた。


しばらく呆然としていると、目の前に大きなカーブが現れた。


「いや、ちょ、待っ………」


まずい。そう思った時には既に遅く、バスはカーブで曲がることなく真っ直ぐ進み続けた。


そして、ガードレールを突き抜け、俺を乗せたまま真っ逆さまに落ちた。


俺が最後に見た景色は、後ろに他の生徒が乗っているはずの他のバスが続けて落ちていくというものだった。



深夜テンションで書いたら大変なことになった。

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