11話
「…………」
目が覚めると、そこはいつもの物置小屋だった。
そして隣にはシャナが僕に引っ付いて寝ていて………ええぇぇぇーーーーー!?
「うわあぁぁーーーー!!」
僕はびっくりして後ずさりし、後ろにあったベッドの縁に頭をぶつけてしまった。
ゴンッ!
「いっっっ」
あまりの痛さに悶えていると、騒がしかったのかシャナが起きた。
「ん、ユーリス、おはよ」
「お、おはよ………う?」
おかしい。なぜシャナは平然としているのだろうか。
「えっと、どうしてシャナは僕の隣に?ベッドで寝てたはずじゃ?」
「………どうしてって言われても、夜中に起きたら、ユーリスがうなされてたから」
言われて思い出す。
僕は昨日、また前世(?)の夢を見たんだった。
「そうだったんだ。起こしちゃったみたいでごめんね?」
「ん、いい。そんなことより、ユーリスは大丈夫?」
この事態を『そんなこと』で片付けてしまうのもどうかと思うが、シャナが気にしていないのなら僕も気にしないようにする。
「大丈夫だよ。ありがとう」
こうして僕の一日が始まるのだった。
*******
シャナが家に(僕の元に)来てから一週間が経った。
その間、幸いにもおじいちゃんがいてくれたおかげで、僕はギース達の所に連れていかれることはなかった。
そして僕はというと初めて魔法を使った日から、毎日庭で魔法練習という名のお遊びをしていた。
その結果、
「じゃあ行くよシャナ!『精霊の力よ、水となりて我が手にちからを!スプラッシュ!』」
「ん、前より威力が上がってる。『アースウォール』」
僕が出した水魔法を、シャナが土魔法で受け止める。その衝撃で、周りの草木が少し揺れた。
「じゃあこれはどう!?『精霊の力よ、木の力となりてその姿を現せ!ウッドテール!』」
すると今度は僕の足元から木の根が出現し、それが塊となってシャナに向かって伸びて行った。
「あまい。『ウィンドカッター』」
しかしシャナは落ち着いた様子で風魔法をだし、その木の塊を切り飛ばしていく。
ちなみに木は魔力でできているので、切られた部分は消滅する。
だが僕の攻撃はそれだけじゃ終わらない。
要するにさっきの魔法は囮である。
僕は風の刃を避けつつ、木を切り飛ばしているシャナに向かって距離を詰めた。
そして、
「『精霊の力よ、水の力となりて我が手にちからを!スプラッシュ!』」
僕が放った水魔法は見事にシャナの方に向かっていった。
が、しかし
「残念、見え見え。『ダークホール』」
シャナの目の前に現れたのは、ひとつの黒い穴だった。闇の初級魔法、『ダークホール』だ。
そして僕が放った水魔法がその中に吸い込まれていった。
「ん、これで終わりにする。『アイスニードル』」
そう言ってシャナは、氷のトゲを僕がいるはずであろう方向に向かって放った。
しかしそこには僕の姿はなかった。
「っ!しまった」
シャナはすぐに後ろを振り返ると、そこには既に魔法の準備が整っている僕がいた。
そう、僕が放った水魔法も囮だったのだ。
「うおぉぉぉー!!『精霊の力よ!雷の力となりて、我が手にちからを!サンダースピア!』」
「んっ、『アイスウォール』」
シャナは少し焦った様子を見せたが、すぐに氷の壁を作り僕の魔法を対処する。
そして僕はというと、
「うっ」
ふたつの魔法が衝突した際に発生した衝撃波で、一瞬だけ身動きが取れなくなっていた。
もちろんシャナはその隙を逃すはずも無く、
「『エアショット』」
「ちょ待、ぐふぇ!」
僕は見事に攻撃をくらってしまった。
だがシャナが手加減してくれていたのかそこまで吹っ飛ぶことはなく、すぐに尻もちを着く形で僕の体は止まった。
「いてて」
「大丈夫?」
僕が体の痛みで動けなくなっていると、シャナが僕のことを心配して近づいてきた。
「うん、大丈夫だよ。精霊の力よ、光の力となりて、我が身に癒しを!『回復!』」
僕がシャナと魔法の打ち合いをする時はこうして怪我をするので、その度に光属性の魔法『回復』を使って治している。
最初に使った時よりも、怪我の治りが早くなっているような感じがした。
そういえばこの魔法って、僕がギース達に魔法で怪我をさせられた時に、よくキアラが使ってくれていたっけ。
そう思うとなんだか嬉しいような寂しいような気がした。
そんなことを思っていると、
「…………」
なんだかシャナがめちゃくちゃこっちを見ていた。
「えっと、どうしたの?」
シャナがこっちを見てくるのは実はこれが初めてではなく、僕が『回復』を使う度に見てくるのだ。
「やっぱり………いや、もしかすると………」
そしてこんな感じにブツブツと呟いている。
とまぁ、こんな感じのことが毎日繰り返されていた。
僕達は魔法練習を一通り終えると、物置小屋の中で昼食を摂っていた。
料理はおじいちゃんが作ってくれた。
「それにしても、無詠唱はやっぱりずるいな」
「今日の魔法練習の話かの?」
「うん」
おじいちゃんには、既に僕が魔法を使えることと毎日魔法練習していることは伝えている。数少ない味方だからね。
魔法が使えることを初めて教えた時に、号泣しながら抱きしめてきたのはかなりびっくりしたのと同時に、嬉しかった。
「僕はまだ詠唱しないといけないのに、シャナは無詠唱ができるんだよ」
「ん、私凄い。もっと褒めて」
そう言ってシャナは目をピカピカさせていた。
ここ最近になってわかったことがある。
シャナは褒めれば褒めるほど調子に乗るということだ。
なので僕はなるべく自然に、かつ褒めすぎないようにしている。
じゃないとこのように無限ループが産まれるかもしれないからだ。
「ハイハイ、シャナはすごいなー」
「………ユーリス、ちゃんと褒めてない」
バレてしまった。
シャナにジト目で見られる。
「まぁ、しょうがない事じゃよ。ユーリス、無詠唱ってのはな………」
「それ昨日も聞いた」
「む、確かにそうじゃったな……シャナちゃん、ユーリスが冷たくしてくるから慰めてくれんかの?」
「おじいちゃん!恥ずかしいからやめてよ!」
おじいちゃんが昨日教えてくれたのは、無詠唱で魔法を使うには魔法とか精霊魔法関係なく、およそ二十年かかるということだった。
じゃあシャナはどうなんだってなるのだが、彼女が大精霊ということをすっかり忘れていた。
ちなみに年齢を聞くと、
「女性にそんなことは聞いちゃダメ」
と言われた。
そして僕の中に、シャナは一体何年生きているのだろうかという、新たな謎が生まれたのだった。
ヒロインが主人公の隣で寝てたというよくあるハプニング展開をしようとしたけど………って感じになった。(´・ω・`)




