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旅行先で見かける狂気のお土産ってあるよね

 


 立ち込めた砂煙が晴れると――



「くぅー?」



 ――犬がいた。






「いやいやいやいや! 菌の話してたよね?! なんで犬が? というかモンスター……なのか?」


「キャーーッ! 可愛い! もっふもふよ! もふもふ属性キター! 飼いたい! もちろん飼うのよね?!」


 小型犬のサイズにクリーム色が混じった、ふわふわの白い毛並み。

 トイプードルとマルチーズを合わせたような顔の犬?がつぶらな瞳をこちらに向けている。


「ていうかコレ、実家で飼ってた犬に似てるんだよなぁ。なんでだ?」


「くぅ? くぅーっ!」


 気付いてくれた!と言わんばかりに尻尾をブンブン振り回し、二人の間を駆け回る()

 実家の犬を懐かしく思い抱き上げると、またもやぼわん!と煙を上げた。



「きゅきゅきゅー!」





「「カメェエエエ?!」」


 アキラの手に、掌サイズの亀がいる。

 わしゃわしゃと手足を動かし、必死に存在をアピールする亀。


「こ、コイツは小学生の頃、縁日で買ってもらったミドリガメ、その名も安息香酸! 略してアンさんじゃないですか! お久しぶりですぅ!!」


 ちなみに名付け親は当時高校生だった姉だ。苦手な有機化合物を覚えるためだけに命名されてしまった記憶が蘇る。




「ちょ、ちょっと。どういうことなのか私に説明しなさいよ!!」


 もふもふから一転、首をウネウネと卑猥に動かしている亀。改めアンさん。



「うぅーん。恐らくだが、俺にくっついて転移してきた菌が原因かもしれん。転移の影響と俺の魔力が何らかの作用を起こし、突然変異を起こしたのかな? じゃなきゃ俺が実家で飼ってた動物に変化するハズもないし。ん? もしかして実家に居たGさんに変化とかしないよな? ジョージとか言い出したらシャレにならんぞ?!」



 亀の頭でニヤァと笑った幻覚が見えた気がした。




 

「それで、この子はどうするワケ? 有害そうには見えないけど、モンスターなんでしょ?」


「うん、それは心配ないと思うんだ。アンさんは俺と同じく神によって転移させられてきたわけだろ? それに俺の魔力の影響を受けたこともあって、何となくコイツの意思も感じ取れるんだよな」


「そ、そんなことって……ゔっ。わ、分かったわよ! 分かったから二人して頭ウネウネするのやめてよ! なんか卑猥だし気持ち悪いったらないわ!」


「心外な! 俺はともかくアンさんはメスだぞ!」


「逆に心配になるわ!!」


  ロロルの必死の説得により普段は犬形態となることに決定したアンさん。

 ちなみに実家の犬はまた別の名前があるのだが、アンさんで統一して欲しいらしい。



「んー仲間も増えたし、旅も楽しみだな!」


「私はよく分からないのが増えて不安が増したわよ……」





 ◆◆◇◇


 愉快な旅の仲間を増やし、何事もなく目的の都市に着いた一行。


 王都モノガルの東に位置する聖都ジーク。

 女神を信奉するマーニ教の総本山であり、都市の中心には大聖堂カシードラが建っている。

 大陸の各地、果ては世界を超えて人々が訪れ、神に祈りを(ささ)げている。

 信徒だけではなく、王都との交通の便も良いため商人の往来も多いこともあり、王国第二の都市として発展した経緯を持つ。


「王城にも負けないという規模の大聖堂は、観光スポットにオススメってガイドブックに書いてあったが……なんじゃこりゃあ?!」


 一同が見上げた先には、確かに巨大な大聖堂が建っている。

 ただし、超がつくほどのファンシーである。

 ファンタジーではなく、ファンシー。

 五つある尖塔はソフトクリームのような形をしている。

 全体的にパステルカラーの黄色やピンクで彩られ、入口にある五角形のレリーフには、大きな文字で"まーに"と書かれている。




「なによ、文句あるの? 女神の可愛さをこれ以上なく表現してるでしょ?!」


 ふふふん! と両手を腰に当て仁王立ちでドヤ顔をかます残念美少女。

 胸をそらしすぎてシャツとホットパンツの間から白いお腹が見えてしまっている。

 確かに可愛い(?)のかもしれないが、残念な香りが(ただよ)う。なんとなく、女神も同じような雰囲気をしている予感がするのは気のせいではないだろう。



「街の人達が微笑ましい顔で見てくるから、やめようね? ……まぁ、可愛さは置いておくとして。これだけ発展してると、ご当地グルメは期待できそうだな! なになに? ジーク焼きにマーニサンド? おいおい"女神まん"ってなんだよ?! 女神様と同じ大きさ? もちろん二個セット? 下ネタじゃねーか!」


「おいおい兄ちゃん、馬鹿にしちゃいけねーよ。俺ァこの女神まんに人生かけてんだ! 毎日大聖堂の女神様像に祈りを捧げ、毎年神官様の監査を受けてまでこの味を守ってきてんだぜ? しかもそれを親子三代続けてんだからな!」


「あら、随分と女神想いな信徒も居るのね〜きっと女神も満足に肯いているハズだわ」


ロロルが感心?して湯気の立ち上る"女神まん"を覗いていると、背後から尋常じゃない気配が近付いてきた。


「おいあんた! なに仕事サボってくっちゃべってるんだい! それにあんた、毎日祈りを捧げてるのだって、女神様の胸を鼻の下伸ばして眺めに行ってるだけじゃないか! 第一、監査だって代々あんたの家系の男達が女神様使って変なことしやしないか、不安だからやられてんのを承知してるのかい!?」


「げっ! 母ちゃん!」


オーガのような奥様(おばちゃん)がおっちゃんの耳を片手で掴んで、店の奥に引きずっていってしまった。

今後の街の安全のためにも、やっぱり廃業させた方がいいかもしれないと思うアキラ達であった。




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