第47話 龍鱗狼のステーキ、実食!
三人掛かりでどうにか倒すことができた龍鱗狼。
リタいわく、このトカゲもどきは非常に美味らしい。
先を急ぐ必要はあるが身体も衣服もボロボロ、命懸けの戦闘で精神的にも限界だった俺たちは食事を兼ねて、ここで休憩することにした。
「とはいえ、俺たちの何倍もでけぇコイツらをどうやって捌くかだよなぁ……」
目の前に横たわるのは、五体の巨大な恐竜たち。
龍鱗狼の名前の通り、そのボディは強靭なウロコで覆われていて俺の聖剣クラージュでどうにか斬ることができたほどに硬い。
「まぁ俺しか聖剣が使えないんだし、やるっきゃないんだけどさ」
「しっかり頑張ってね? できるだけ私も手伝うわ」
「ボクも美味しいご飯を食べるために全力を尽くすですー!」
二人からの声援を背に受けつつ、戦闘直後で気怠い身体を動かし再び聖剣を呼び出す。
巨大な医療用メスみたいな形状をした聖剣を包丁代わりにして、俺と龍鱗狼との第二ラウンドがスタートした。
◇
「はぁ、はぁ……つ、疲れたぁ~!!」
解体を開始してから一時間ほどをかけて、やっとひと段落が付いた。
俺は力尽き、地面に大の字になってハァハァと荒い息を吐いている。ちなみに他の二人も同様だ。
ロロルとリタの指導の甲斐もあって、どうにか全部の龍鱗狼を捌き切ってやった。
元の世界で魚や実験動物を解体することはあったけど、あんなモンスターを捌いたのは初めてだったから慣れるまで時間が掛かってしまった。
でも基本的には骨格や内臓は分かりやすかったし、食べられる部位もそこまで多くなかったのでどうにかブロック肉にまで加工することができた。
「とはいえ、さすがに三人で食べるには多すぎる量だけどな!」
恐らく重さで言ったら50kgは優に超えていると思う。スーパーで売っている牛塊肉だって500gぐらいなんだから、それが100個もあると考えるとその多さが分かるだろう。
「別にいいじゃないの。残りは私の収納にしまっておけば、好きな時に美味しいお肉が食べられるんだから」
「そうですよぅ。なんならボクが干し肉にして溜め込んでおきますからっ」
いや~、この食いしん坊なリタに任せると知らないうちに備蓄が無くなっていそうで怖いんだよなぁ。
この前港町で買った干し果物も気付いたら全部食べられていたし。
「でもまぁ、二人の言う通りだな。取り敢えず今回は、この一番脂のサシが入った上等そうな部分をいただこう! せっかく俺たちが苦労して倒したんだしな!」
「「賛成~っ!!」」
三人同時にむくっと起き上がると、さっきまでの疲れが嘘だったかのようにキビキビとキレのある動きで準備をスタートする。
こういう時の俺たちはチームワークが抜群なのである。リタが手際よく火を熾し、ロロルが調理器具の準備を済ませ、俺が肉の下拵えをする。
基本的には俺が調理担当だからだ。
「んんー。今回はまぁどんな肉質なのかも分からないし、シンプルにステーキにしよう」
バラしている時にも気付いたのだが、やはり脚や顎付近はどうしても筋肉質過ぎ、というか筋張っていて恐らく硬くて食べられなさそうだった。食用にできる部位も実際に食べてみないとどんな料理に適した肉なのか不明だし、今は試食を兼ねて焼いて食べてみよう。
そうと決まればさっそく、肉塊を聖剣で5cmほどの厚さにスライスしていく。
切った感じではこの部位は筋も少なく、どちらかと言えば牛肉に近い。
なにより緻密に乗った脂が宝石のようにキラキラと光っていて、俺みたいな肉の素人が見ても美味しそうなのが分かる。
日本でいた頃ならA5ランクとかついていたんじゃないかな?
「うほほ、これは食べるのが楽しみだな~。もしかしたらタレは要らないかもしれないけど、沢山食べちゃうかもしれないし念のために作っておくか」
準備を終えて俺の調理を興味深げに見ていたロロルに頼んで、魔導機に収納してあった食材を取り出してもらう。
今回タレに使うのは玉ねぎに似た野菜、リンゴの様なフルーツ、アンさんに頼んで作って貰った醤油もどきにニンニクの風味がある香味野菜を漬け込んだもの。たったコレだけだ。
「ロロル、この材料を全部すりおろしてくれるか?」
「分かったわ。……ふふふ。私はもうアンタの作る料理は信頼しているし、これも期待しているわよ?」
旅を始めた頃は俺の作る料理におっかなびっくりだったロロルも味の虜になってしまったのか、近頃は文句も言わずバクバクと食べるようになった。
リタなんかは量に不満があるらしく、恨めしい目で空になった食器を寂しそうにいつも眺めているけれど……食材も時間も無限にあるわけじゃないからそこは勘弁してほしい。
「最近アキラ様のご飯を食べるようになってから、ボクの身体が重くなった気がするですよね~」
「あっ、それ私も思っていたわ! まったく、乙女の天敵よね~コイツの美味しいご飯は」
「それは褒めているのか? それともクレームなのか!?」
「「どっちも!!」」
まったく、この食いしん坊どもは……。
でもそう言って美味しそうに食べてくれるんだから、作り甲斐があるってもんだよなぁ。
前の世界では一人寂しく缶ビール飲みながらメシ食ってたんだし。
そんな悲しい過去を思い出しながら、俺は龍鱗狼の肉に下味を付けていく。
ちなみに俺の個人的なこだわりで、塩は焼く直前に振り掛ける派だ。
理系脳的に言うと、塩の浸透圧で肉内部の水分が抜けてパサつきやすくなってしまうのを防ぐためだ。よって事前にやっておくのは胡椒のみ。
ちなみに安い肉の臭みを抜きたい場合は、日本酒や玉ねぎのすりおろし、ニンニクで漬けておくのがオススメだ。
「はい、こっちは終わったわよ!」
「ありがとな、助かる」
そうして簡単な処理を済ませている間に、ロロルもタレの準備が終わったようだ。
すりおろしてもらったペーストとニンニク醤油を混ぜ合わせれば、お手軽ステーキソースの完成だ。
「よしっ、あとは焼くだけだ!」
「わぁい! 待ってました!」
「早くはやくっ~!! ボクのお腹はペッコペコですよぅ!」
うんうん、それには俺も完全に同意だ。
リタが熾してくれたたき火も落ち着いてきたし、これなら調理もできるだろう。
石で作ったカマドに網をセッティングして、塩をパラパラと大胆に掛ける。
準備はこれで完璧。重量感たっぷりの下処理済みの極厚ステーキ肉を次々と乗せていく。
――ジュワァアアッ!!
『ぐぐぐぐぅ~!!』
肉が炙られて美味しそうな音と匂いを立てた瞬間、大音量で誰かのお腹が鳴った。
否、鳴っていたのは俺も含めこの場に居る全員だった。
「くうっ……こ、これはヤバいな……」
次々と網の下へ落ちていく肉汁。そして香ばしい匂い。
これだけで俺たちのお腹は大合唱だ。
「は、はやく!! まだ焼けないの!?」
「もう生でもいいですぅ! はやく、はやく~っ!!」
「待て待て。早く食べたい気持ちは俺も分かるが、ここまで来たらちゃんと調理しないと絶対に後悔するぞ!?」
「「むうぅ~っ!」」
若干リタのアブない言い方も気になるが、今はそれどころじゃない。
片面に綺麗な網模様の焼き色がついたら、ひっくり返してじっくり火を通していく。
頃合いを見て一度肉を切ってみると、上手い具合にミディアムレアぐらいまで火が通っていた。
よし、食べるなら今がベストだろう!
「「「いただきます!!」」」
もう我慢ができなくなった俺たちは皿も使わずにフォークでステーキを掴むと、そのままガブリと一気に齧りついた。
――ブシュウッッ!
「「「~ッッッ!? ~ッ!?」」」
口の中に溢れ出る肉汁。そして脳に直撃するかのような旨味が爆発した。
もう……この美味さを表現する言葉が見つけることもできず、声にならない呻き声を出しながら夢中になって頬張る三人。
ふと気付けば、あれだけ大きくカットされたはずの肉塊がフォークの先から消えていた。
「ちょっと! 私のお肉を奪ったのは誰!?」
「ちょっと待て、俺じゃないぞ!? そんな大罪を犯すわけがないだろう!」
とにかく今は口論なんてしている場合じゃない。
再び網の上に次の肉を乗せて焼いていく……が、気付けば再び消滅しているステーキたち。
「な、なぜだ……!? これは何かの魔法なのか!?」
「そんな……なんてことなの……?」
この異世界なら何が起きても不思議じゃないよな……とか思っていたらロロルが涙をハラハラと流し、何かに気付いたような言葉を返してきた。
「なんだ!? いったい俺たちに何が起こっているんだ、ロロル!!」
「違う……違うのよ!! これは……私たちが意識の外でステーキをペロリと食べてしまっている。ただ、それだけだったのよ……!!」
――そ、そんなまさかっ!?
「いや、それは最初から分かってはいるんだけどな。それにしても……こんな茶番を思わずやってしまうぐらい美味いぞ、この龍鱗狼は……」
「もぐもぐもぐ? もぐっ、もぐもぐもぐ……」
リタなんかはもう、食べ始めてから一切ヒトの言葉を発しなくなってしまっている。
そう、それぐらいこのステーキが美味しすぎるのだ……。
「肉だけで旨いのに、このタレと共に食べたら果たしてどうなってしまうのか……」
ちょっとドキドキしながらも、先程ロロルと一緒に作ったステーキソースにつけて口に運んでみる。
「――ッ!! こ、これはぁあっ!!」
「ちょっと、私にもそれを寄越しなさいよ~っ!」
「もぐっ! もぐもぐぅ~!!」
呆然としている隙に、持っていた特製ソースを二人に奪われてしまう。
だけどそんなことを気にもならないほど、俺はこのステーキとソースの絶妙な引き立て合いに感動していた。そしてそれはロロルとリタも同様だったようで……
「な、なんてことなの……? 更に美味しくなっているじゃないの!!」
「も~ぐっ! もぎゅもぎゅ~っ!!」
二人は両手に持ったステーキを貪りながら、あまりの旨さに号泣している。
しかし感動はするが、食べる手と口は決して止めない。
もう夢中になって食べる肉の亡者たち。
そしてソースが無くなるころには、あれだけ準備しておいた肉の山はきれいさっぱり消え失せていた。
「う、美味かった……」
「しあわせ~! もう何もお腹に入らないわぁ……」
「うぷっ……」
至福の時間が終わり、満足顔で大地に寝そべるポンポコ狸が三匹。
誰もがお腹をぽっこりとさせ、動くこともできなくなっている。
かなりお腹が苦しくなってしまったが……これで無事に満腹にもなったし、死闘で疲れた心と身体もすっかり元気になった。
ただ、今度は満腹感による睡魔が俺たちを襲い、誰からともなく寝息を立て始めてしまう。
――そんな無防備に転がる主たちを冷めた目で見つめる一匹のワンコ。唯一理性を保っていたアンさんは、自分用にとっておいたお肉をゆっくり味わいながら行儀よく食べているのであった。




