第46話 第三の眼
俺がこの世界で考案した化学魔法を使って、どうにか第三世界からの侵略者を倒すことができた。
龍の名を冠するだけあって、この龍鱗狼は勇者パーティである俺たちでも死を覚悟するほどの強敵だった。
お陰で服も身体もボロボロ、もう動きたくないほどに三人の疲労がピークに達していた。
正直言って、このモンスターの弱点に気付かなければもっと悲惨な目に遭っていたかもしれない。
身体を張ってヒントをくれたアンさんには、本当に心から感謝をしなきゃならないだろうな。
……おっと、ロロルたちにコイツの弱点を聞かれていたんだっけ。
とはいえ、俺も確信があって試したことじゃないんだけど――
「この龍鱗狼の弱点。それは恐らく、トカゲが持っている第三の眼だったんだ」
そう、このモンスターの意外なウィークポイント。
偶然それに気付いた俺はそこを化学魔法で突くことによって、龍鱗狼を戦闘不能にさせることに成功したのだ。
「え? 頭には二つしか眼がついてないですよ?」
「そうそう。リタの言う通りよ? それは直接戦った、私たち全員が分かってることじゃないの」
ようやく復帰してきたリタとロロルが「何を言っているんだコイツは」と疑いの目で俺を見てくる。
でも不思議と嫌な感覚じゃ無いし、戦闘で衣服がボロボロになった露出度高めな女性陣にジト目をされると、なんだか癖になりそうだ。
「まぁな。知っていなきゃ分かるわけがないんだが、ドラゴン……いや、トカゲの一部には、頭頂眼と呼ばれる第三の眼を持つヤツがいるんだよ」
「「とうちょう……眼?」」
「くるるぅ、くるぅ?」
これまた聞きなれないワードに、二人と一羽が揃ってポカーンとしている。
あ、油断したリタの下乳が見えたッ!!
「……アキラさん?」
「このッ……クズが……!!」
「あっ、ちょっ。やめて!! その布団叩きでお尻叩かないでッ! 痛ッ!! ああっ!!」
「く、くるるぅ……」
アンさんに呆れられた目をされながら、凶器を振り回し始めた女性陣から必死で逃げ回る。
ていうか俺は生身なんだから布団叩きはともかく、釘バットで死ぬ。普通に死ぬ。
「ま、待てまて!! そうやって走るとまた服がッ! 痛い!! 見えちゃうって!!」
「うるさい!! 死ね! しねっ!!」
「女の敵ですっ! この変態魔王勇者!」
自分の肌が思っていた以上に露出していたことに気付いた二人が落ち着いたのは、俺が彼女達と同じ状態になるまでボロボロにされた。
なんつーか、龍鱗狼にやられたダメージより大きい気がする。
第一、男の俺が服を破かれたって、どこの誰も得しないだろうがよ!!
そもそも、俺は悪いことを何もしていないのに……解せぬ。
「……ふぅ。で? それで第三の眼って、いったい何なの? もったいぶらないでさっさと言いなさいよ!」
「やっぱりこれって理不尽だよな……? まぁいい。この第三の眼っていうのは、こいつらみたいなトカゲの頭にある、特殊な器官らしいんだ」
第三の眼、またの名を頭頂眼ともいう。
これはこの龍鱗狼だけではなく、地球上の両生類や魚類の一部にも存在する、光を受け取るための装置だ。
そしてそれは両の眼ではなく、頭部にあった隠れたもう一つの眼。
この頭頂眼が光を受信することで、太陽の位置を確認したり、視覚的な補助を行ったりしているのだ。
「つまり、この龍鱗狼はこの昏い森の中で俺たちの場所を確認できたのは、この第三の眼のお陰だったってワケだ」
「ふぅ〜ん。じゃあトカゲ狼たちは、さっきの光の魔法を喰らった所為でその眼をやられたってこと?」
「ほえぇ~。そうやって言われてみても、ボクには普通の鱗があるようにしか見えないですよ?」
そう、せいぜいちょっと色が違う鱗がある程度なのだ、これが。
しかし、一説には本来の眼と同じ構造や神経を持っていて、それが脳に繋がっているというのだから中々に侮れない。
「ちなみにこの頭頂眼、人間にもその名残があるかもしれないんだってさ」
「「ええぇっ!?」」
人間の脳の中心にある松果体という部分。これは頭頂眼が進化の過程で変化したものだという説がある。
この松果体は太陽の光を感知することで、人間の体内リズムを調節する機能があるらしい。
「もしかしたら、リタにはこの頭頂眼が残っているのかもしれないな?」
「えぇ~。ボクとトカゲを一緒にしないで欲しいです~! だってボクは、可愛いくてセクシーなリス獣人なんですから!!」
すっかり元気を取り戻したリタは、ピョンピョンを跳ねながら不満をアピールする。
うーん。俺としてはイモリとかも飼っていたし、トカゲも結構可愛くて好きなんだけどな。
まぁセクシーはともかく、リタには可愛さで負けるかもしれないけど。
「やめなさい、リタ。そんな恰好で飛び跳ねてたらまたこのクズにいやらしい目で見られるわよ」
「うぐっ! 見てない! 今回は全然見てないから!!」
「……最低ですね」
「もうそのネタはやめろって! そんなことよりだ。なんでまたこんな森の中に、第三世界のモンスターが居たんだろうな?」
二人のギラりとした鋭利な目が俺の心にザクザクと突き刺さるので、どうにか話題を逸らしにかかる。
そもそも、前に戦ったウナギ型モンスターのピギール然り、この国の異常なモンスター氾濫に然り、なぜこうもタイミング良くこの第一世界に出没しているのかが謎なんだよな~。
「確かに、ボクが第二世界からゲートを使ってこの世界に渡ってきたと同じように……にしてはここ最近頻度がおかしいですね」
「もしかしたら、これも魔王とやらの先兵かもしれないわね」
「……そう考えた方が自然だろうな。もしかしたら、この国を襲った疫病や解放者達も魔王の仕業という可能性もあるな」
黒幕や仮想敵なんて、この広い世界を見ているといくらでも出てくるんだよなぁ。
……とはいえ、姿の見えぬ敵についていつまでも話し合っていても仕方がない。
この国の反乱が起こる前に、一刻も早く解放者達を止めなければならないのだ。
「とにかく、ロロルは魔動機をまた出してくれ。一度休憩をして装備を整えなおしたら、なるべく直ぐに出発しよう」
残念だけど、俺の目の保養タイムは終了だ。
このままでは、俺が変態魔王としてこの二人に討伐されかねない。
俺は紳士な勇者を目指すのだ。
「……なんだかとても不服そうな顔に見えるんだけど。そうね、さすがに今回の戦闘は堪えたわ。私もそろそろ、新しい呪願を考えなきゃいけないかもしれないわ」
「ううぅ。ボクも動けないくらいヘトヘトですぅ。あ、そういえばアキラさん!」
龍鱗狼の頭部を蹴飛ばして遊んでいたリタが唐突に声のトーンを変え、目をキラキラさせながら俺に声をかける。
「ん? どうした、リタ」
「この龍鱗狼、こんな見た目ですけど……」
「「けど??」」
「実は、とーっても美味しいらしいんです!!」
リタの言葉を聞いた俺とロロルは、ピタリと着替える作業を止め、お互いの顔を見た。そして数秒見つめ合った後に無言で頷く。
「「……よし、ご飯を食べてから出発しよう!!」」
そう、お腹が空いては戦はできないからね!
さぁ、さっそく龍鱗狼を使った焼肉パーティーの始まりだ!!!!




