第44話 困った時の○○玉
「なぁ……アンさんはどこに行ったんだ?」
そう。我らの最大戦力であった不思議生物のアンさんがどこにも見当たらない。
これまでの強敵との戦いにおいて、姿を自在に変えて戦ってくれたり、特効となるアイテムを体内で合成してくれた最強の味方なのに!!
もしかして俺たちを置いて逃げてしまったのか……!?
「アンさんなら、龍鱗狼が出てきてから一番最初に偵察に向かったですよ? ホラ、今はあの木の上に隠れてるです」
さっきの戦闘で引き裂かれた神官服を片手で抑えながら、アンさんがいる木をもう片方の手で指し示すリタ。
彼女はかなり際どい格好になってしまっており、太ももや腰回りが艶めかしく露出している。
リタは恥ずかしいのか、リス耳からフサフサ尻尾までボフっと逆立っているのがちょっと可愛い。
……おっと、珍しい姿を眺めていたら睨まれてしまった。
俺は自分の上着をリタに投げてから、何事も無かったかのようにアンさんの場所を確認する。
……あ、本当だ。普通に木の上に居たわ。
ゴメンよ、アンさんんん!!!
むしろアンさんを差し置いて、人間の俺たちが逃げられなくなっちゃったけどね!!
っていうか木の上にちょこんと立っているアンさんをよくよく見てみれば、普段のモフモフ犬形態と違って、今は可愛らしいインコの姿になっている。
パッと見た感じだと、ただの野生の鳥にしか見えない。
言われなければ分からないほど完全に擬態している辺り、流石はアンさんだ。
……なんか木に居た虫を獲って食べてるけど。ねぇ、今は戦闘中だよ? こっち必死なんだよ??
「さて、どう戦う? 相手は巨大狼……いや、ドラゴンの形をした爬虫類か」
先ほどの攻防で五体満足であるものの、リタは既に満身創痍で息も絶え絶え。
数の上でもこっち側は不利。
完全に追い込まれている状況だ。
一刻も早く打開策を成立させないと、俺たちは文字通り喰われる。
今はロロルが先日購入したらしい短杖のビートマニアックス(ロロル命名)を使ってけん制をしてくれているが、元々彼女は近接戦闘が得意ではない筈だ。
このままでは、その均衡もいつまでもつか……。
相手の龍鱗狼は、自身の防御力によっぽど自信があるのか、避ける事もしない。
まるでロロルと戯れているようだ。
「クソ。喰うまで遊んでいるつもりか? せめて俺の聖剣を喰らわせる隙さえ与えられれば……」
「アキラさん! ロロルさんが!」
「このっ……糞トカゲの癖に!! ……あうっ!!」
いい加減エサと遊ぶのに飽きたのか、しびれを切らした龍鱗狼が『グオオォッ!』と唸りながらロロルに突進を仕掛ける。
呪願で自身を回復しながらなんとか善戦していたロロルも、コイツの圧倒的なパワーに押し負けて後方へ吹き飛ばされてしまった。
「ロロルッ!!」
「だ、大丈夫! それよりッ!!」
「まだ次が来るですよ!! 右、二体!!」
落ち葉が積もる地面の上を回転しながら飛んでいったロロル。
俺は彼女の元へ駆けつけようとするが、危機を察知した二人に制止される。
そしてただでさえ昏い森の中で、背後から巨大な影が差す。
――ガキィンッ!!
俺は振り向きざまに聖剣クラージュを影の主へと振りぬいた。
およそ生物らしからぬ金属音を鳴らしながら、お互いの武器がせめぎ合う。
同時にむわっと生臭い息と涎が俺の目の前から吐き出され、迫りくる死の緊迫感と物理的な圧力に思わず頭を垂れて全てを諦めそうになる。
「リタッ! 今行くわ!!」
「~っ!! ろ、ロロルさんは来ないでッ! そこで回復を……お願いするです!!」
いや、あの華奢で普段ふざけまくっているリタやロロルでさえ死ぬ気で頑張ってるんだ。
一応勇者である俺が、こんなトカゲもどきに手こずってる場合じゃねぇ!!
世界を、この国の人々を救うって覚悟決めたんだろォが!!
そしてそれは俺だけじゃない!!
ここには他にも仲間がいるんだ。
そう、最強のカードが――!!
「くうぅ~っ!!!」
「頼む、アンさん! 少しでも時間を稼いでくれ!!」
俺が前世界で飼っていたセキセイインコ(黄)にフォームチェンジしているアンさんは、その小ささを活かした高速機動で飛び回り、龍鱗狼の眼や鼻といった比較的弱そうな部分を積極的に攻撃してくれている。
流石にうっとおしいのか、龍鱗狼は小バエの如く目の前を飛ぶアンさんを攻撃目標に変更するが、恐竜と狼の特徴を持つその身体では飛行する相手を捕らえることが出来ない。
ひっかき攻撃はもちろん、噛み付きか突進ぐらいしか攻める手がないのでは、素早いアンさんを捕らえることは到底無理だろう。
それに、龍鱗狼はもしかしたら……
「そうか。もしかしたらアレがイケるか!?」
アンさん一体に対して、五匹の糞トカゲが纏わりついている。
身を賭して時間を稼いでくれたこの隙に、俺が現状を打破するための一手を打つ!!
「今こそ、俺の知識を活かす時! 頼むぜ化学魔法!!」
両手を天に掲げ、目標の魔法のイメージを魔力に込めて送り込む。
「キレイ……」
「キラキラしてるです~!」
ロロルとリタが言うように、銀色に輝く大量の粒子が空中に集まっていく。
それは薬玉から飛び出た紙吹雪が逆再生していくように、最後にはミラーボールのような球体が浮かび上がった。
よし、上手くいったみたいだ。あとはコイツを……
「アンさん、退避してくれ!! ロロル、リタ!! 目と耳を塞げえぇぇ!!」
「えっえっ、何が起こるんです!?」
「リタ、いいから!! コイツがまたやらかす気だからさっさとやるわよ!」
アンさんはピューっと旋回して森の中へ。
俺たちはすぐさま耳を両手でガードしてその場に蹲った。
その間も球体は一層の輝きを増しながら、小さく小さく圧縮していく。
そして一瞬ピクりと震え、臨界点を迎えると同時に――大気を震わせるような爆音と、白く塗り潰す程の眩い光を放った。




