第41話 勇者、復活?
「悪い! 心配を掛けた!!」
アキラはロロルとリタの元へ帰ると、開口一番に謝った。
その様子は一見すると、村長を死なせ自暴自棄になっていた時の陰鬱さは消え失せたかのように見えるほどの明るさだった。
「……意外に早かったわね。アンタのことだからもっとウジウジと悩むかと思ってたわよ」
「むふふー。またそんなこと言って、ロロルさんは結構心配してたですよー?? なんだかんだ言って、アキラ様のことが大事なんですね? ククク!!」
……へぇ、それはコッチこそ意外だったわ。
ロロルは顔を真っ赤にして俺の周りをグルグルと逃げるリタのことを追いかけ回していたが、途中で俺がニヤニヤとしていたのに気付いたのだろう。今度は俺を睨みつけて文句を言ってきた。
「アンタがあの現場から逃げたせいで、私たちが村長の葬儀をしたんだからね!? 優しくて気の利く私にもっと感謝をしなさいよね!!」
そうだった。村長をそのままにして飛び出したんだっけ。それは悪いことをした。
というか、こっちの世界でも葬儀ってあったんだ。
なにか女神教のしきたりでもあるのかな?
「ありがとな、ロロル、リタ。……それで、遺体は? どこに安置しているんだ?」
「ん? なに? だから葬儀をしたって言ってるじゃない」
「あ、ロロルさん? きっと異世界出身のアキラ様は浄葬の儀で遺骸を火葬したって知らないと思うです」
「浄葬の儀?」
リタに詳しい事情を聞いてみると、既に村長は弔いの儀式によってこの世界に還元されてしまい、もはや魔結晶しか残っていないらしい。
リタの手のひらにコロンと乗った小さなジールを見せられ、俺はただ納得するしかなかった。
「なんだぁ……ちょっと解剖してみたかったのに……」
アキラから急に飛び出した問題発言に、女性陣二人は口をポカンと開いて言葉を失ってしまう。
「いやホラ。滅多にない折角の機会だし、人体の相違について実物で確かめたかったんだよね。そうだ、魔法を使う為の特殊な器官があるかもしれないし、何か新しい発見が「あったとしても、死んだ人のか、かかか解剖だなんて!!」……え? ダメだったの?」
「医者でもないのに、アキラ様はできるんです? 人が死んだだけであんなに動揺してた人が……」
困惑した二人がアキラを問い詰める。
――おかしいなぁ。研究者だったら絶対に気になるし、やると思うんだけど。
「俺は医学部の解剖に参加したことあるし、手術室でナマの内臓なんかも見てきたから割と平気だよ。まぁ解剖自体は大学時代以来だから、かなり梃子摺るとは思うけどね」
「マジかこいつ……」といったジト目を向けてくるロロルとリタ。
うーん、あまりこっちの世界では人体解剖は一般的ではなかったようだ。
「まぁ、解剖の件はまた今度機会があった時でいいさ。さぁ、これからの話をしようか!」
今度があったらやるのかよ……と呆れ顔をされたが、俺は気にしない。
知ることによって、次こそ助けられる為の何かがあるかもしれないからだ。
それからは村長の家にあった書類や簡単な地図を拝借し、ここから王都への道のりを確認した。
解放者達についてのメモのようなものが木の板に書いてあったが、具体的な活動内容については分からなかった。
唯一判明したのは、主導者と見られる人物の名で『エルゴ』と記載されていたことだけ。
「このエルゴと言う人物が、悪魔に対する信者を集めているというのは想像できた。よし、この人を探して説得してみよう」
「アンタ、それ本気で言ってるの? どう考えても私たちの話なんて聞きやしないし、下手すれば捕まるわよ?」
「きっとドサクサに紛れて処刑されちゃうですー!」
……だよなぁ。
クーデターなんて起こす連中が目の敵にしている連中の話を大人しく聞くとは思えない。
だから万が一の時は身体に直接説得するしかないかもしれないな。
「最善の策は悪魔の正体を突き止めて、証拠を叩きつけて彼らの勢力を削ぐこと。そしてヘリオス国側の味方をして神器を貰う時の心証を良くしておくことだ」
元々はそういう話だったしね。
国家規模の陰謀とか戦争には手を出すつもりは無い。いくら勇者と言えど、俺一人の身には余り過ぎる。
腕を組んで一人ウンウンと頷いていると、リタがリス耳をピコピコさせながら尋ねてきた。
「アキラ様って別に勇ましくもないし、絶大な力を持ってないのになんで勇者って言われてるんですかね?」
――そんなもの、俺が聞きたいわ。
◆◆◇◇
タオフェン村を後にした三人は、南西にある王都方面へと進路を向けた。
つまり、モンスターの氾濫があった街の東を走行中だ。
道の周りは森に囲まれており、あまり舗装もされていない道だが魔導機に乗ればホバー状態なので、とても快適に進めている。
モンスター氾濫による街道の通行止めを喰らった影響で、今回は入国した港街から時計の縁を右回りになぞる様に回り道をしたが、そのお陰もあってモンスターと接敵することは無かった。
ロロルも雑談を交えながら魔導機を運転している。
「この辺りはモンスターの餌となる動植物が無いし、面倒な敵に遭遇しないで済みそうね」
「そういえば今まで気にしなかったけど、モンスターって何をエネルギー源としてるんだ?」
もしアイツらが生態ピラミッドを形成しているのなら、それを支えるためにも結構な数と量の餌が必要だろう。
「その手の研究者が言うには、空気中や物質の中にある何かしらの魔素を吸収しているらしいわよ? 人族もそうだけど、ジールを内包している生き物は恐らく食べ物以外にも栄養源があるんじゃないかって言われているわ」
うーん、糖・脂質・タンパク質の三大栄養素に加わる魔質か何かがあるのかな?
魔素で栄養摂取できるなら、世の中の多くの人が必死になっているダイエットもかなり楽になるのでは……?などと阿呆なことを助手席で考えていると――
『グオォォオオオ゛ォ!!!!」
――ここには居ないはずのモノの雄叫びが、俺たちの鼓膜を揺らした。




