第38話 はじめての……
「と、取り敢えず……村長さんの手当てを続けようか」
これ以上勇者の務めの話をされるのが嫌だったアキラは、急な話題転換をして誤魔化す。
その言葉で村長は先程まで自分が死にかけていて、彼らに治療をして貰っていたことを思い出した。多少バツが悪かったのだろう。アキラ達に向かって頭を軽く下げて礼を言った。
「そ、そうだった。礼も言わず、すまんかったな。助かった」
詳しい事情を聞くために彼を一応助けはしたが、そもそもこの村長は獣人のジャン君の家族が殺された一因でもある。
謂れのない差別や理不尽を嫌っているであろうロロルと、差別されている獣人であるリタは彼が言った礼に対して嫌味を吐いた。
「ふん。せいぜい私に感謝することね」
「ボクはどっかの誰かさんと違って、種族で差別しないですからね」
「なっ……なにぃ!?」
「ちょっ! リタ? 相手はまだ病人だから!」
「――そうよ。事情を聞かなきゃいけなかったから生かしたけれど、そうじゃなかったらそのまま放置して見殺しにしてたわ」
女性陣のあまりにキツい言い方に、村長は怒りと羞恥を綯い交ぜにさせたような感情で顔を真っ赤にさせ、彼女達を怒鳴りつけた。
「ふっ、ふざけるな!! いくらワシを助けたからと言って、調子に乗るなよ小娘が!! そもそもなァ! 貴様のような薄汚れたケダモノ種族が、ワシの大事な村を穢したからこうなったのだろうがッ!!」
口角から泡を飛ばすように、リタを罵倒する村長。
先程までは神の遣いであるプロクシーが居たので感情を抑えられたのだろうが、今では堰が壊れたダムのように口撃が止まらない。
「この卑しく穢らわしい獣人どもが!! ワシの村で飼ってやった恩を忘れおって! そもそも村にあんなケモノが居なければこんなことにはならんかったんだ!!」
「ちょ、ちょっと村長。それ以上は言わない方が……」
「……そうだ! あの獣人夫婦のクソガキが逃げたせいだ!! アイツがきっとどこかで今もワシの村を呪っているに違いない!! あの忌々しいネズ「やめろ」ヒィッ!?」
アキラは聖剣クラージュを抜き放ち、村長の眼前へと突き付けた。
切っ先が触れた額からうっすらと血がポタリと落ち、それを見た村長はガタガタと震えだす。
「黙れ。今すぐそのクソを吐く口を閉じなければ、お前とこの村から逃げたお前のクソ息子を死んだ妻の元にこの手で送葬ることになる」
「なっ何をっ!? き、貴様は勇者なんだろ! ワシ達善良な農民達を殺すと言うのか!?」
「俺が女神とやらに頼まれたのは、魔族や悪魔から民を守ることだ。獣人達を害するすることじゃあない。……寧ろ俺には自分が保護すべき村人だった獣人を見殺しにしたお前達の方が、よっぽど悪魔に見えるが?」
「ば、馬鹿なことを言うなッ! アイツらは悪魔の手先で……」
「もういい。いくら俺がこれ以上、悪魔と獣人はこの病に関係がないと言っても信じないだろう?」
「私は信じてるわよ」
「当然、ボクもです!」
「ぐっ……!! この獣人かぶれのエセ勇者めが!! 出て行け!! ワシの村から、今すぐ出て行くんだ!!」
その後もあの病み上がりの身体で思いつく限りの罵倒をゼェゼェとしながら吐き出す村長。
そんな彼に冷ややかな目を向けながら、俺たちはタオフェン村から出ることにした。
「やっぱり助けなきゃ良かったわ!! あの人間のクズが。アイツは自分が人殺しだってこと、分かっててあんな事を言ってたのかしら!?」
「獣人の中にも人族が苦手な人はいるですが、あれは完全に差別です。ボクが信じている女神様はそういう理不尽は絶対に許さないです」
「そうよ! きっと村人だって悪魔なんかに呪われたんじゃなくて、神に見放されたからなんだわ!」
ロロルもリタも、怒り心頭になりながら魔導機に乗り込む。
家の外で待っていたアンさんがそんな二人を心配そうに顔を覗き込んでいる。
「まぁ、二人の気持ちはよく分かるよ。あのジャン君だって自分の親を殺されはしても誰かを恨み続けるんじゃなく、必死に頑張って新しい家族と生活をしていたんだ。それをあの村長は……」
いくら彼の妻が悪魔によって殺され、村がめちゃくちゃにされたとしても、獣人をあそこまで貶めるのは許せない。
ましてや自分は命を助けてもらっておいて、獣人だっていう理由だけでリタにあんな態度を取りやがった。
――そういえば前の世界の病院に勤めていた時にも『自分は手厚い治療をされて当たり前』って勘違いする患者がいたなぁ。自分は特別扱いされないと我慢がならない人。あの時も理不尽に怒鳴り散らされたっけ……
――嫌なことを思い出してしまった。
せっかく、この世界に来て新しい人生を楽しんでいたのになぁ。
そんな風に溜め息を吐きつつ考えていると……
『ぐぅッ……がァァァア!! グォォオァァァアッッッ!!』
「な、なんだ!?」
「分からないわッ! いったいどうしたのよ!?」
「あの村長の声です!?」
突然、村長の家から雄叫びが聞こえてきた。
俺達はついさっき暴言を吐かれたことも忘れて、村長の家に飛び込んだ。
「グァァァア!! アァアアッッ!! アッァァァア!!」
「村長!! どうしたんですか!?」
「あ、悪魔が……アグッ、お゛ぉ゛ッ……」
「ロロルさん!!」
「もうやってるわ!! だけど呪願が効かないのよ!! リタは解呪できないの!?」
「ぼ、ボクは……ボクは……」
「まずい! 脈が乱れて……ケイレンまで!? クソッ、いったい何故……!?」
村長は仰向けに倒れたまま、ガクガクと震えだしてしまった。
このままでは呼吸が出来なくなって……
俺も治療魔法を試みるが、一瞬だけ改善が見られるもののすぐに再び症状が出てしまう。
次第にケイレンも小刻みになっていき……ついには心肺が停止した。
――いったい何が原因なんだ!?
まさか本当に悪魔が……?
その後も三人がかりで魔法や心臓マッサージといった応急処置を行う。
全員の体力や魔力が尽き果てるまであらゆる手を尽くしたが……結局彼の意識が再び戻ることはなかった。
完全に沈黙した村長を床に寝かせたまま、その横に座り込むアキラ達。
突然の事態に混乱と疲労でこれ以上何もすることができなくなってしまった。
そんな中、ロロルが家の中に何かを発見した。
「見て、これ……」
ロロルが指差した先には陶器でできた瓶と、先程の俺たちが持ってきた食料が転がっている。
「瓶の中身は薬か……? いや、これは……」
「なにが入っていたんです? ……くんくん。この匂い、何かのお酒です?」
――いや、コレは……
「さっき村長が言っていた聖別薬とかいうヤツかも知れない。それに瓶の底に何かの植物らしき破片が残っている。多分、薬草かなにかを酒に漬けて作る薬酒の一種なんだと思う」
だがこれだけで今の村長のように急変するのなら、とっくの昔に彼は死んでいてもおかしくない。
恐らく亡くなった理由は、聖別薬だけじゃない。
――他の理由を考えろ。発見した時の彼の状況と症状。そして俺達の治療……落ちていた食べかけの食糧と薬酒。そうか、コレは……クソッッッ!!!!
「……みんな、落ち着いて聞いてくれ。多分だが、村長が突然死んだ理由が分かったかもしれない……」
「本当!? いったいどうしてなの?」
「まさか本当にボクが原因で!?」
冷静さを取り戻せないロロルと、若干涙目になっているリタが死因を突き止めたであろうアキラに詰め寄る。
アキラは少し逡巡したが意を決するように口を開くと、喉を震わせながら彼が行き着いた答えを吐き出した。
「村長が亡くなった原因……いや、村長を殺したのは……俺なんだ」




