第36話 私が村長です。
「アンタ、タオフェン村に着いたらどうするつもりなの?」
「存在する人間皆殺しにするです!?」
「そんな物騒な事しないよ!? 俺、これでも勇者っていう正義のヒーローを語ってるんですけど?? それもう魔王の発想だよな!?」
俺たちは今、魔導機に乗って宿で世話になったジャン君の故郷"タオフェン村"へと向かっている。
昨日立ち寄った村のおばあちゃんの話では、タオフェン村は解放者達に占拠されているらしい。
――正直、宗教絡みでイザコザを起こすのは嫌なんだよなぁ。
基本的に信者というのは自分の信仰が正しいと信じているから、説得がしにくい。
科学的に物事を示しても、聞く耳も持たずに弾圧されてそのまま処刑されかねないからね。
「でも、このまま放っておくわけにもいかないんでしょう? 下手したらクーデターが起きてこの国から神器を貰うどころじゃなくなるわよ?」
「あっ……そうだった。……どうしよう、この件を後回しにして他の国に行きたくなってきた」
「駄目です! このままじゃこの国の獣人は解放者達に捕らえられて、きっとロクな扱いも受けずに処刑されちゃうです! ジャン君も殺されちゃうです!!」
――そうなんだよなぁ……聞いた限りだと過激な連中そうだからやりかねん。
それにここまで首突っ込んでおいて、知らないフリしてサヨウナラは流石に出来ないよな。
「なら悪魔を捕まえるなり元凶を解明して差別をどうにかしなきゃならんよな。はぁ……今回みたいな人間相手に戦うってのが嫌なんだよ。モンスターと違って倒せないじゃないか」
「「倒せばいいじゃない!」」
「やだよ!! 異世界人の俺にあっさりと人殺しを勧めないでよ!!」
過激な人間は身内にも存在していた事実に項垂れるアキラ。
彼の先へ行きたくない気持ちとは裏腹に、ロロルは魔導機のスピードを上げてタオフェン村へと急いだ。
というより、普段よりかなりのスピードが出ている。しかもブツブツと言いながら途中で出現する小型モンスターを次々と殺戮していくので、かなりのサスペンスな状況だ。
しかも周りに何を言っているのか分からない声量でずっと呟いているので、アキラとリタは怖くて仕方ない。
流石に気まずくなった周囲がイライラしているロロルを宥めつつ半日ほど移動を続けると、前方に広大な麦畑が見えてきた。
しかし次第に近くでよく見えるようになると、どこか違和感を感じるようになってくる。
普通ならあるはずの黄金色に輝く穂は見当たらず、収穫された後の茎が畑に大量に放置されている。
「ん〜? 小麦って今収穫期だったっけ? ミールばあちゃんが居たインダール村ってまだ収穫してなかったよなぁ?」
「えぇ。特に異常な天候も無かったはずだし、これなら収穫はもう少し後だとは思うけど……なんだか変ね」
「早目に収穫したとしても、どこで小麦を干してるです? 普通、麦を収穫したら乾燥させるですが……」
元農村出身のリタが専門的な疑問を指摘する。
――俺は稲しか育てたことがないが、同じようなものなのだろうか。
稲も刈り取ったら田んぼに干すからね。
「この村で何かが起きてるのかもしれない。みんな、注意して行こう」
村の外には怪しい人は居ない。
……というより、人の気配が全く無い。
信者に占拠されている筈では……?
とにかく、注意して村に入ってみることにする。
「静かすぎるな……誰も居ないぞ?」
「おばあちゃんはこの村に信者達が集まってるって言ってたですよね?」
「……待って、あの家の中にだれかが居るわ」
村の一番奥にある家から、小さな呻き声が聞こえてくる。
家の扉は開いたままだが中は暗く、正常な雰囲気とは言い難い。
「モンスターかもしれない。注意してくれ」
慎重に家の中に入っていくと、入り口近くの土間でボロボロの衣服を着た男性が倒れていた。
アキラは反射的に近付き、男性に声を掛けた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ちょっ、アンタ! 危ないわよ!?」
ロロルの制止の声も聞かず、傷病者の容体を確認する。
呼吸、脈は乱れてはいるが辛うじて意識はあるようだ……
「う、ゔぅっ……」
「ロロルッ! 治療のスキルを使えッ!! 早く!!」
「わ、分かったわよ……」
「リタ! 魔導機に置いてある水と食料を持ってきてくれ!!」
倒れていた男性の顔は青褪めており、身体はもう何日も食べていないかのように痩せこけていた。
ロロルのスキルとリタが持ってきた水を飲ませたおかげで多少の顔色は良くなったが、未だにゼェゼェと息苦しそうにしている。
「はぁ……はぁ……だ、誰だ?」
「俺達は王都に向かう途中の冒険者です。たまたま立ち寄ったこの村で、倒れているあなたを見つけたので今治療をしていたところです」
「はぁ、はぁ……む、無駄だ。ワシらは悪魔に呪われた。も、もう助からん!! エルゴーの火に焼かれて死ぬんじゃぁ!!」
男性は血走った目で怒鳴りながら、痩せ過ぎて骨張った手で家の隅を指差した。
「こ、これは……」
「アキラ様どうしたんです? なにがあったんです?」
「やめなさい、リタ!! ……見ちゃ駄目よ」
指差した先には、小さな布団が置いてあるだけだ。……いや、違う。
布団の上に――焼け落ちた炭のような塊が無造作に置かれている……
「ワシの妻は悪魔に焼かれてあんな姿になってしまった!! ワシもじきにそうなる!! 息子は悪魔の手先の獣人共を殺して解放されたが、ワシはもう駄目だ!! 手遅れなんだ!!」
発狂気味に怒鳴り散らす男性。
先程まで死にかけていた人間とは思えぬ剣幕だ。
――というか今、聞き捨てならないこと言ったよな。
「獣人を殺した息子……ということはあなたが村長?」
「……コイツが」
「ロロルさん!」
自分が治療したばかりの患者を、今度は殺しそうなほどの怒りの形相で飛び掛かろうとするロロル。
もはやストッパー役と化したリタが小さな身体で必死に抑えるが、更に火に油をブチ込むような発言が飛び込んでくる。
「ワシがその村長じゃ!! 息子と村のモンはこの国を悪魔から救うために解放者と共に立ち上がり、獣人のクソ達を捕らえながら王都へ向かった!! お前達も死にたくなかったら早くあの方達の仲間にッ……!」
「――なってはいけませんよ」
その時、心に響く美しい声が家の外から聞こえてきた。
もちろん、俺達ではない誰かの声だ。
声が聞こえた方向を振り返って見てみると、そこには金色の髪をした絶世の美女がいつの間にか立っていた。
「貴女はいったい……?」
「私の話を聞きなさい、勇者よ。この男の言うことに決して惑わされてはいけません。……私の名はプロクシー。女神の代行者です」
「「「「め、女神の代行者!?」」」」
プロクシーと名乗った人物は、リタのような神官服を着ていた。
しかし彼女とは違って神秘的なオーラを身に纏い、どこかこちらを威圧する雰囲気を持っている。
――そしてなにより、俺をこの世界に飛ばしやがったあの女に似てやがる。
誰も近寄らせないほどの神々しさを持った女で、女神のような親しみやすさは一切感じない。
こちらを見ているようで見ていない目付きをしながら、代行者は感情も起伏も無い声で女神からの言葉をこう紡いだ。
「親愛なる女神は勇者に神託を行うために、私をここへと遣わしました。勇者よ。解放者達は村や町の民を盾に、兵を連れて王都に向かって進軍しています。――貴方は民を救うため、直ちにその解放者達を止めに向かいなさい」




