王都へ
俺は簡易地図を見ながら、ここテトリアから南方にある王都ヘキザットへ向かう迂回路をシミュレートする。
真っ直ぐ南へ向かうルートは現在、領主軍がモンスターの制圧中のため通行不可能。南西方向は川が蛇のように流れているので陸路は行きにくい。
そうすると、やや南東寄りに弧を描いて南下するのがベターかな。
ちなみに俺が召喚されたアクテリア国から今いるヘリオス国までの進路は、地球で言うところのスェーデンからバルト海を抜けてポーランドに入る感じに似ている。
だから今はポーランドの首都、ワルシャワに向かおうとしているようなものだ。
……全く分からないって?
日本なら岡山県から海を船で渡って四国に入り、高知県方面に向かうといったところだ。あぁ、桃と蜜柑食べたい。
「そうすると、ジャン君が生まれた村も通りそうですね……」
「仕方がないだろう。まぁ俺たちがジャン君の代わりに、村がどうなったのか様子を見てくるのはアリだと思う。本人に伝えるかどうかは別としてだが」
「うーん、そうね。もし本当に解放者達が言うように悪魔が出るなら、それこそ勇者であるアンタの役目よ。その聖剣クレージュの錆にしてやりなさい!」
やっぱりロロルはジャン君の一件を根に持ってるよなぁ。彼の親が殺されたキッカケになった悪魔をかなり嫌悪してる。
普段は素っ気無い性格に見えて(俺に対してだけかもしれないが)、たまにミョーに情に厚いところを見せるんだよなぁ。個人的には好印象なんだけどさ。
「ちょっと、変な目で見ないでよね! 討伐するのは私じゃなくてアンタなんだから! しっかりしなさいよ!?」
「へーへー。がんばりますよーだ。それじゃあ明日は久しぶりに魔導機に乗って王都へひた走りますか!」
◆◆◇◇
次の日の朝、アキラ達はテトリアを出発する前に情報収集と道中にこなす事のできる依頼が無いかを確認するために、ソルティーナさんの居る冒険者組合に向かった。
「ヘキザットまでの情報ですか? えぇっと、詳細な情報は軍部関係者しか知らされていないのですが。確かに私は彼等を読心出来るので、ある程度の情報は把握してますよ? ……分かりました。もう、仕方ないですね。まぁ勇者であるアキラさんなら多少は開示しても大丈夫でしょう。……絶対に秘密ですよ?」
さすが読心能力持ちのソルティーナさん。考えてる事もまるっと読まれてしまうから話も早い。
それに「秘密ですよ?」ってウインクしながら可愛く言われてバラすような奴は男じゃあない。
その後、モンスターの出現状況や治安の良し悪し、この国の貴族や軍部の関係性なんかを出来る限り教えて貰った。
……うん、読心チートは反則だよね。
軍のお偉いさんが裏で武具商会と組んで談合していたり、実はその商会は宰相の紐付きで悪巧みの情報が筒抜けだったり。コレがバレたら、一時間もしないうちに大勢の暗殺者が大通りを走って襲いかかってきそうな話ばかりだった。
そんな情報がたかが冒険者機関の支部長が知っている、という事実にも驚きだけど。
一応心配になって「国に恨まれて消されたりしないんですか?」と聞いたが、なんと彼女の一族(親戚家族が世界各地に居るらしい)は元々そういう諜報専門の家系らしい。
一族が働いている冒険者機関は世界中の国々と繋がっているので、共通の平和目的に限って協力する代わりに、彼女の一族が悪用されないように保護されているんだとか。
まるで生きた核爆弾のようだ。自ら抑止力扱いされる事で、誰も手を出すことができない。
「うふふ。アキラさんはミステリアスな女性は嫌だったかしら?」
「大好きです!!」
「……リタ、あんな馬鹿は放っておいて、私達はさっさと行きましょうか」
「早く行くですね。なんだかあの人と一緒に居ると、得体の知れない気持ち悪い病気が移りそうですー。……それではッ! ソルティさん、お世話になりましたです! また会ったら魔葉パーティーするです!!」
「色々と世話になったわ、ありがとう」
「ちょっ、もうちょっとだけお話を……」
「はい、気をつけて行ってきてくださいね。またのお越しをお待ちしております」
約一名を無視しながらカウンター越しに深々とした一礼で見送ってくれたソルティーナさんの元を辞去し、俺達はいよいよ王都ヘキザットへ向けて出発した。
◆◆◇◇
「おぉ〜!? これはまた長閑な風景だなぁ〜」
魔導機の窓から外の景色を覗くと、小麦畑が黄金の大海原のように広がっていた。
丸々と稔った実が風に揺られて潮騒のような音楽を奏でている。遠くにはクワを持った農民が畦道をゆっくりと歩いているのが見えた。
どこか遠い昔に見たようなノスタルジックな風景は、アキラに郷愁の念を抱かせる。
そして故郷を思い出す者は一人だけではなく……
「ボクの生まれた村も小麦畑がたくさんあったです。お父さんとお母さんと一緒に毎日働いて……懐かしいな……」
魔導機の後部からくぐもった声が聞こえてくる。
普段明るい性格なので忘れがちだが、リタもジャン君と同様に生まれ故郷と家族を失っている。
それにまだ十代半ばの少女だ。辛いに決まっているだろう。
「こういう風景もいいよなぁ。俺がいた故郷では米を育ててたんだ。米は水田っていう水を張った畑で育てるから色々と管理が難しくてさぁ……」
俺はリタを下手に慰めることも出来ず、気を紛らわるために自分の昔話を語った。
田んぼで滑って泥だらけになった話や、カエルの合唱、おたまじゃくし掬い。日本特有の景色なんかを、取り留めもなく話した。
ロロルはいつものMDを聴くこともなく俺の話を黙って運転していたし、リタも泣き疲れて寝るまでずっと短い相槌を打ちながら聞いていた。
「なぁ……リタをジャン君の生まれた村に連れて行って大丈夫だと思うか?」
「……多分、無理でしょうね。同じ獣人だし、その村でどんな扱いを受けるか分かったもんじゃないわ。取り敢えず状況が分かるまでは私達二人でどうにかしましょう」
……だよなぁ。ていうかロロルも連れて行くのは正直言って不安だ。主に村人相手に突然殴り掛かったりしないかが心配なんだけど。
ちなみにジャン君が生まれた村はテトリアから二つ目の村だ。
今日はその手前の村で夜を明かす予定である。
リタが眠りについた後は何となく会話も無くなり、無言で魔導機を走らせた。
……この世界の異物とも言える俺は、何が正しいのかはまだ分からない。
宗教観とか、倫理観。そういったものは国や民族が違えば異なるのは、地球でもそうだった。
だから俺が正義を振りかざして一方的に断罪することなど、いくら勇者であっても許される行為ではない。
だが、今は身内となったリタや、知り合ってしまった人に関しては出来る限りはどうにか手を伸ばしたい。
だが俺が与えられたチートでは、人々の考えや常識までを変えるなんてマネは出来やしない。
だからこそ俺は勇者としてではなく、一人の人間としてチート無しでこの困難に立ち向かわなければならないだろう。
それが真の勇者なんだと、俺は思う。




