マリアージュを探せ!
見学している捕食者たちから食べ尽くされる前にヤンニョムを保護したアキラは、魔葉キムチを作りを続ける。
塩漬けした魔葉を取り出し、水気を取ったら、一枚一枚丁寧にヤンニョムを刷り込んでいく。
甕に重ね合わさるように詰め、密封したらひとまず完成だ。
「空気に触れて発酵すると、酸っぱくなりやすいから注意してくれ。これで密封したまま数日経つと、ゆっくりと発酵が進んで味がまろやかになるから、それで食べ頃だ」
「「「「……」」」」
無言の眼差しを間違いなく全員から差し向けられるアキラ。
うん、言われなくても分かってたけどさぁ。
「アンさん、お願いします……」
「くぅ!」
もはや便利調理器具と化したアンさん。甕ごと丸呑みすると、何度か脈動するように震えるとピカーと光った。
「くぅっぷ」
「完成したよ!」とばかりに、吐き出された甕を開けると、不快ではないツンとした匂いが立ち込めた。
「うーん。醤油といいキムチといい、アンさんは発酵具合をどうやって上手く判断しているんだろう。不思議だ……」
「別にいいじゃないの。それがアンさんだもの」
「実は勇者として召喚されたのってアキラ様じゃなくてアンさんなんじゃないです? あれ? アン様って読んだほうがいいですか?」
「それですリタさん! きっとこんな中身カッスカスな勇者より、ずっと素敵ですよ! スライムなのにこんな愛らしいなんて!!」
「お、おい。そろそろ止めないとアキラがスライムみたいに溶けてくぞー?」
女性陣の暴言をトゥーリオがフォローしてくれるが、全く効果がない。
いいんだ、俺もそんな気がしてきたし。
アンさんの従者、いやペットでもいいよ、うん。
俺たちはいつまでも一緒だからね、アンさん?
「ふふ。ふふふふふ……」
「さて、恒例の勇者弄りは本人が壊れそうなのでここまでにして、魔葉のキムチ? とやらをいただきましょうか」
この世界には流石に箸はなかったので、それぞれがフォークでキムチもどきを食べ始める。
「からっ! うまっ!! からうま!!」
「んんー! 舌が燃えるように辛いけど、フォークが止まらないです!!」
「これは……美味しいですね。お酒はなにが合うでしょうか」
「おうっ! エール持ってきたぜェ! 記念すべき新しい魔葉料理に、乾杯だァ!!」
アキラを放ったらかしで宴会が始まってしまった。
少数の慣れない辛さで食べられない人も居たが、概ね好評だった。
これからは、さっそく渡航船組合や冒険者機関、農業と食品組合と総出で生産に取り掛かるそうだ。
というか、いつの間にかこの場に農業と食品組合の役員が居て一緒に試食していた。
「いや〜!! アキラさんのお陰で、再び魔葉ブームの到来ですよ!!」
「えぇ、本当に感謝してもしたりないですよ! ここだけの話、この街の人達も魔葉の塩漬けには若干飽きてきてましてね。これは我が国の米にも合うし、最高ですよ!」
忘れかけていたが、この国では米が栽培されている。
数日前にはピギールでご飯物を作ったが、これはキムチと一緒に食べても美味しい。
ほかほか炊きたてご飯に、キムチをチョイと乗せて一緒にいただく。
キムチの辛さが熱々ご飯の甘味と合わさって、唾液がじゅわっと溢れてくる。
合間にエールを挟んでもなお美味い。
「ねぇ、このキムチとエールはよく合うんだけど、私はワインもよく飲むのよね。なにか良いオツマミにならないかしら?」
ソルティーナさんは、それぞれの手にエールと白ワインを持ちながら聞いてきた。
酔ってるせいか、だいぶ口調が崩れているが大丈夫なのだろうか……
「ワインですか? キムチは辛くて味が濃いので難しいですね。あ、でも飲み合わせでイイのがありますよ?」
太陽の国ヘリオスは農業も盛んだが、その広大な土地を活かした畜産も有名だ。
酪農があればチーズもあった。
あれ? 発酵食品あるってことは微生物いたんじゃん。……ま、まぁいいか。
「このクリームみたいなチーズと、キムチを混ぜて食べてみてみてください。たぶんその白ワインにも合うと思いますよ」
「チーズと?? ……あら、ホント。ねっとりとしたチーズとキムチの辛さ、ワインの酸味が上手くまとまっていて面白いわ。ふふ、アキラさんはまさにシューマッパ様の再来のようみたいだわね」
出会った頃の刺々しさは鳴りを潜め、ソルティーナさんは俺に楽しそうに笑いかけてくる。
「あれ? 俺のこと少しは認めてくれましたんですか?」
「ん、そうね。少なくともこの国には害をなすことは少なさそう。ごめんなさい。冒険者でもそうなんだけど、多少力があるからって調子に乗ったり、暴力で言うことを聞かせようとしたりする奴が少なくない数の人がいるのよ。……私の敬愛するシューマッパ様はそんなことなかったんだけど。それでも女性を次々と……ね」
「あーそれに関しては俺も何も言えませんね。俺もこの世界に来た当初はかなり恥ずかしい事してたんで」
「あはっ。いいのよ? 女の子に無理矢理してなきゃ。それに、私もこんな年増じゃなかったら貴方と……」
「年増だなんて……俺は、仕事を頑張る年上のお姉さんは大好きですよ?」
「えっ……?」
「はーっ! あっついわねー、キムチ食べると身体が熱くなるわぁ〜」
「でも辛いのに砂糖みたいに甘々ですぅ!」
「おい、アキラよぅ。女を口説くなら、もう少し人の少ない所でやったほうがいいぜ?」
周りがニヤニヤと見ていることに気付いたアキラとソルティーナは、唐辛子のように顔を真っ赤にさせて俯くのであった。




