さようなら!って初対面で言うこと!?
一週間ほどの船旅を終え、一行はヘリオス王国の港街、テトリアに到着した。
船の上では、梅干しや梅酒を作ったり、マーレ族であるレジーナの主導で、釣りをして楽しんだ。
俺が作った醤油もどきで食べる鮮魚の刺身が好評過ぎて、マーレ族も呼び込んだ大宴会となってしまった。
海流を読むことが得意な彼らの協力もあって、通常よりも早い旅程となったが、船員達はみんな残念そうな顔をしていて笑ってしまった。
「トリメアの漁港も凄かったけど、テトリアはなんというか、要塞じみた造りをしてるんだなぁ」
「ガハハハ! スゲェだろ! 太陽の国ヘリオスは、農業が主産業だからな。大事な商品や船を守る為に、国家予算で堅牢な漁港を作ったのよ!」
この渡航船を取り仕切る、海ゴリラことトゥーリオが自慢げに語る。
確かに国の一大産業を、国家予算で保護してくれるのは良いことだ。
貴族や役人が税だけは取り上げて、民に還元することなく私服を肥やすことしかしない、なんて事はよくある話だ。
まぁ港湾工事をこの国の公共事業にして、裏では談合や下請け業者との癒着といった悪どいことをしているかもしれないけど。
どっちにしても国民としては、国が率先して整備してくれるだけで有り難いんだろうね。
「あっ! 虫が荷物を運んでるですよ! ゴーリオさん、アレなんなんです!?」
「だーれがゴリラ男だ! アレはバグーロっつぅ家畜化した虫だな。自分が住む宿を取っ替え引っ替えする習性があるのを利用して、積荷や人を運ばせてるんだ」
バグーロと呼ばれた虫は、見た目はエビに似ている。
トゥーリオの言う通り、積荷の空いたスペースに身体を入れて、ワシャワシャと荷物を運んでいる。
……というより人間の指示通りに運んでないか!?
あっ、なんか言われて頷いてやがる!!
マジ? 人語理解してるの? あのエビ頭で??
異世界ならではの風景に、子供のように目をキョロキョロとさせるアキラ。
それを微笑ましく見ていたレジーナは、少しだけ悲しげな表情で口を開く。
「さて、無事にテトリアまで着いたことじゃし、我は海へ帰るとするよ」
「あっ……そうだったか……」
「寂しくなるわね……」
「寂しいですぅ。ボクはレジーナさんが、なんだかんだで一緒に来てくれると思ってたです……」
リス獣人であるリタは、同じく人族ではないレジーナと特に仲が良かった。
船ではいつも二人でコソコソとプリュネ酒を飲んでいたほどだったので、こうして別れるのが辛いのだろう。
「別れといっても、一生会えぬワケではなかろうよ。なに、海で繋がっていればいずれ会えるのじゃ。そう、我ら義姉妹に| プリュネ・セールメント《梅園の誓い》がある限り!」
ヤバい、なんか異世界で変なワード聞いちまったかもしれない。
……ま、いいか。酒で意気投合したけど、こいつら三人じゃないし。
えーっと、聞かなかったことにしよう。そうしよう。
涙声で抱き合う二人をよそに、逃げるように下船するアキラであった。
◆◆◇◇
文字通り海へと帰ったレジーナを見送ったアキラ達は、トゥーリオと共にテトリアの冒険者機関へと足を運んだ。
トリメアの街長に、モンスター襲撃についての報告をすべきだと言われたからだ。
街の防衛自体は依頼こそ無かったものの、冒険者の活動として評価に値する行動だったそうだ。
この国のテトリア支部が、その現場に居た当事者に詳しい話を聞きたいというので、ここで報告することにした。
テトリアの冒険者機関はゴシック様式の石造りの建物で、教会のような幻想的なステンドグラスが特徴的だ。
聖都ジークで見た建物も、荒くれ者の冒険者が集まるとは思えないほど綺麗だったな……
またイメージが崩れるなぁ、と既視感を感じつつ建物に入っていく。
「テュース!」
「「「テュース!!!!」」」
「…………」
受付嬢のお姉さんみんな凄い可愛い。
ドイツのディアンドルっていうの民族衣装みたいな制服を着てる。
……でもなんだか凄い寒気がするし、心のトラウマがほじくり出されて、塩ブチ込まれてる感じがする。
それになんか前にも同じような洗礼を受けた気がするけど、今度は言葉がワカラナイ。どうしよう。
「あぁ、初めての方でしたか。いらっしゃいませ。先程のは、こちらの挨拶ですのでお気になさらず」
カウンターの中から一人の女性が出てきた。
しかし、この人どこかで……
「ギャァァア!! で、でたーーー!!」
「何をいきなりゴミムシが出た時のような声を出してるんですか。寧ろ貴方の方がゴミムシ……いえ、ゴミのようですね。うーん、ゴミ捨ての依頼ってあったかしら?」
「そ、その猛毒舌! なぜあなたがテトリアに!?」
「ん……あぁ、貴方はアクテリア王国から来たのですね。私はこのテトリア支部の支部長、ソルティーナと申します。会ったことがあるのは、恐らく妹のルナの方でしょう」
そう自己紹介したソルティーナは、姿形は妹だというルナにそっくりだが、ピンクゴールドが輝く美しい髪をしていた。
「あ、たしかにルナって人は銀色の髪だったわね」
「でもお二人ともすっごく美人さんです〜」
「あら、お綺麗な方々に言われると大変嬉しいですわ。余計な事を吐き出すゴミ男なんかより、よっぽど」
ここまで完全に存在を消していたトゥーリオに助けを求めるが、ツィーっと顔を逸らされてしまった。
チッ。ゴリラは役に立たないし、味方がいない。
「あぁ、妹に読心術を教えたのは私ですからね。まぁ単純な貴方程度なら、ソレを使わなくても分かりますが。さぁ、用件は大体分かりましたので、奥の部屋へどうぞ」
「おい、トゥーリオのおっさん! あんたこの毒蛇女の事を知ってたんなら、先に言ってくれよ!!」
「言ってどうにかなると思ったのか!? 俺ですら、まだ苦手意識メチャクチャあるんだからな!!」
――ダンッッッ!! バキィッ!!!!
「早く来ないと貴方達が座る椅子が無くなりますよ?」
「「イエスッ! マムッッ!!」
結局この後俺たち男性陣は、心の中で思った悪口を全て暴かれ、椅子を弁償するか椅子になるかまで追い詰められました……




