海へ
本日も快晴、風は穏やかな追い風。
絶好の船出日和だ。
「……ロロルさんが作る"てるてる坊主"のおまじない、効果あり過ぎて怖くなってくるんだけど」
ロロルは毎晩、「あ〜した天気にな〜れ〜」と呟きながら、人間と等身大の人形を何体も、何体もせっせと作っている。
そして人形の首に紐をくくりつけ、ウッキウキで天井に吊るしていた。
彼女の人形の数は日を跨ぐほどに倍々に増えている。今日の朝に見た時には、ついに二十体を越える人形が部屋で首を吊っていた。
……アレを夜中に見たら、恐怖で失神すると思う。
「あれ、言ってなかったっけ? それが私のスキル、呪願の一つよ」
「おいおいおい、初めて聞いたぞ。ていうか俺以外でスキル持ちって初めて見たんですけど!?」
「ん? そうだったかしら……ううん。そういえば私、アンタに私の能力を聞かれた時に言ったわよ? 『私の武器は口よ』って」
「そんなんで分かるかぁあ! ていうか口が武器ってなんだよ!! ただの毒舌かと思ったわ!」
「アンタには効果抜群だったみたいだけどね。……私が想いを乗せた言葉は、スキルによって魔力を持ち、周囲に効果をもたらすの。効果が強力な呪願ほど、リスクやコストといった制限はかなりキツいんだけどね?」
……ムチャクチャだ。
そんなもの裏を返せば、コストさえ用意できれば天変地異だって起こせるってことだろ?
なんでも願いを叶えるって、これ以上ないチートじゃないか!!
……勇者の俺、必要なのかなぁ??
「だからかなり制限があるっての。死ねって言えば簡単に死ぬわけじゃないわ。口にする呪文や行う儀式は、世界に浸透するほどありふれたモノじゃないといけないし、回数制限や必要な魔力も尋常じゃ無いの」
だからてるてる坊主が大量に集団自殺してたのか。
吊るされた人が日毎に数が増えていたのは、コストが倍になるからか?
「まぁそういうワケで、必要最低限しか使えないからあまり期待はしないで? あくまで、運動会の日に晴れにするくらいの能力なのよ」
運動オンチの俺としては、運動会は雨にして欲しいなぁ。
……ん? そういえば雨には出来ないのか?
アレ? 逆に吊るせば雨だっけ??
アレコレ悩んでいるうちに、船の荷物が積み終わり、出航の準備が整った。
まぁ多少ぶっ壊れ性能のスキル持ちだったとしても――ロロルはロロルだ。
……毒舌が多少レベルアップしただけだと考えよう。
「クククク! アキラ様がドンドン無能キャラになっていくですねー!!」
あぁ、毒舌はもう一人居たんだった……
押し寄せる絶望と恐怖から逃げるように、船に乗り込むアキラであった。
◆◆◇◇
「うぉーっ! 帆船って初めて乗ったけどスゲェ速い!! 気持ちイイ〜!!」
「ガハハハ! そうだろう、そうだろう!! ウチの船乗りは風魔法が堪能だからな! それに海は自由で開放的だ! 最高だよな〜」
「いやいや……さっきから気付いてはいたけど、なんでトゥーリオのオッサンがこの船に居るんだよ!?」
甲板にはゴリラのような体躯に、ピッチリとしたビキニパンツ姿の組合長、トゥーリオが居た。
顔が強面なので、船乗りというより海賊にしか見えない。
「なんでって、俺ァこの船のトップだからよ。トリメアの街をモンスターが襲った一件で、ヘリオス国の方へも報告の為に面ァ出さなきゃなんねーのよ」
「組長は仕事ほっぽり投げて、自由に船に乗りたいだけでさぁ。まぁ、ガキのワガママみてぇなもんですから、ほっといてやってくだせぇ!」
「そういうテメェも、同じ穴のムジナだろぉがよ!」
ガハハハと笑い合うバカ達を、アキラ達は視界に入れないようにしていると。
「我が海に戻った時に確認したが、ピギールの群れはもう大人しくなっておったよ。結局街を襲った理由は分からんかったが、アキラが使った策があればまた襲撃があっても大丈夫じゃろう」
すっかりお気に入りとなった、アキラ特製プリュネ酒の入ったグラスを片手に飲みながら、レジーナが優雅に語りかけてくる。
「気に入ってくれたのは嬉しいけど、これじゃあヘリオスに着くまでに飲み尽くされそうだなぁ。まぁあれから梅も買い足したし、梅干しと一緒に作っておくけど」
「んふー。このような美しい酒は我にピッタリじゃろ? もっと沢山作って、どんどん我に献上するがよい! ンフフフ!」
グラスを眼前に掲げ、日光で煌めいたプリュネ酒の琥珀色の色彩を楽しんでいる。
彼女はちょっと尊大な態度だけど、喜ぶ仕草が可愛いので俺は満足だ。
「そういえばヘリオス国側の港街の名前、"テトリア"って言うんだっけ? トリメアと似たような響きの名前だけど」
「そうじゃ。今出国したアクテリア王国が、ヘリオス王国との友好の為に、数代前の王子と王女同士が結婚したんじゃったかの? 其奴らの子の名前を、街の名前にしおったのじゃ」
「リタも知ってるですよ!! その話は今でも、演劇の題材になってるですっ! アクテリア第三王子と、ヘリオス第四王女の国と海を越えた大恋愛は、世の中の女性のあこがれなんです! ボクもお二人みたいに海に出て、貿易王になりたいです〜」
手を組み、目をお金の単位に変えてウットリするリタ。
……そのリタの理想って、大恋愛うんぬんじゃないよね? ただお金欲しいだけですよね??
ていうか貿易王ってなんだよ、海賊王の亜種か?
「おっ? なんだ、曾祖父さんの話か! そうそう! やっぱ男は海に出なきゃだよな!」
「「「「はい?」」」」
「ん? 貿易王の話だろ? 俺っちがその孫。トリメアとテトリア、トゥーリオ。似てるだろ?」
「えぇぇえぇえぇぇぇぇ〜!?」
ビキニパンツ一丁で仁王立ちになりながら、「ガハハハ!」と笑うトゥーリオ。
こ、コイツ……まさかの元王族だった。
ん? 待てよ……じゃあ俺が世話になったあの国王と、遠いながらも血が繋がってるってこと??
あのイケメンの国王と、このゴリラ海賊王が親戚関係なんだと考えると――遺伝子の悪戯はこうも残酷なんだな、と感じてしまう一同であった。




