マリアージュ?
「結局、食べられないって言われたプリュネを小樽一つ分も買っちゃって、どうするのよ?」
買い出しを終えた三人は宿に戻り、お茶を飲んでいた。
食べられない果物を買ってしまったアキラに、女性陣は不満タラタラだ。
「確かにこのままじゃあ食べられないし、食べられるようにしてもフルーツのようにはならないよ」
「ロロルさん、やっぱりこの人頭おかしいです。女神様にお願いしてチェンジしてもらいません?」
……とんでもない事を。
しかもそれ、本人を前にして言っちゃう??
リス耳をピコピコさせながら、笑顔でそんな事をのたまうリタ。神官らしい慈悲も優しさもない。
「ウナギとくれば梅の食べ合わせってね。このプリュネは塩漬けにしたり、酒に漬けると美味しくなるんだよ」
「新しいお酒!? なによ! そうならそうと早く言いなさい!」
「やっぱり女神様の人選は間違ってなかったです」
「……女神も料理の知識で選んでないと思うよ?」
実際の食べ合わせについてだが、医学的根拠は無いと思われる。
梅の食欲増進作用で"贅沢なウナギを食べ過ぎないように"だとか、"夏の暑さで腐って酸っぱくなったウナギを梅が誤魔化さないように"など、諸説あるみたいだけどね。
「そういう食べ合わせって言えば、犬肉とニンニクっていうのがあってね。俺がいた国のお隣さんは、そういう格言みたいなのがあるんだよ。滋養がある食べ合わせだからっていうのは、日本のウナギに似ているんだよね」
「くぅー!? くぅくくぅー!!!」
「ははは、アンさんは食べないから大丈夫だよ。君は俺の、大事な家族だしね」
某国では、土用の丑の日ならぬ、三伏の庚の日って言って、夏に狗肉を食べる習慣がある。
羊頭狗肉って言葉がある通り、一部の国では当たり前に食べているし、十数年前にも国が正式に食用肉と認めた所さえあるのだ。
「狩猟犬やペットとして飼ってる国や人は、大事なパートナーだと思っているから忌避して食べないみたいだけど。まぁ俺がいた国では犬はダメでも馬肉食べたりするし、気分の問題なんだと思うけどね」
アキラは話しながら机の上にポンポンと材料を並べていく。
プリュネ、それと同量の砂糖を容器に入れ、それらが浸るくらいまでブランデーを入れる。
ワインがあるのでブランデーも用意できたが、クセの無いホワイトリカーは無かった。
ホワイトリカーは廃蜜糖からできるエタノールを抽出・加水すれば作れるが、ブランデーで作るのも風味があって大変美味しい。
本来ならアルコール度数が三十五度以上の酒が梅酒作りに適している。
まぁアルコール度数を測る器具なんてこの世界には無いので、今回使うブランデーの度数が高いかは正直分からなかった。
ちなみに日本では、アルコール度数二十度未満でお酒を作ってしまうと、酒税法違反だ。でも、ここは異世界だから気にしない!
「あとは一年近く漬ければ完成だ。……けど、今すぐ呑みたい、よね? じゃあ、今回も……アンさん、お願い!」
一年掛かると言った瞬間、目の前の女性達に殺気の込められた目を向けられたので、我が家の救世主アンさんに縋る情けない飼い主。
アンさんはトコトコとやって来ると、いつもの犬フォームを解除し……一気に梅酒を飲み干した。
「なんだか、どんどん便利な存在になっていくわね……」
「可愛いし、強いし、誰かさんとは大違いです」
「おいソコの毒舌リス娘!! 俺の悪口って分かってるからな!」
「ぇー? ボク、そんなつもりはないでーす。勇者って自意識過剰なんですねぇ。ぷーくすくす」
「この、クソリスがぁぁああ!!」
机の周りをグルグル追いかけ逃げ回る二人をよそに、アンさんが「完成したよ〜」と合図したかのように輝いた。
それを見た二人は争いをピタリと止めた。
アキラが出来上がりにワクワクしながら、先ずは味見とそれぞれのコップに梅酒を注ぎ、水魔法で作ったロックアイスを落とす。
丸く透明な氷が琥珀色の海でカランコロンと泳ぐ度に、梅の芳醇な甘い匂いが立ち上がる。
宝石の芸術品のような見た目に一同に感動しながら、それぞれが口をつけていくと……
「「「はぁぁぁあぁあ〜」」」
全員が同時に、恍惚としたた溜め息を吐いた。
「ゴクゴクとイケるエールも好きだけど、このじっくりと呑みたくなるような深いコクも堪らないわね! プリュネだっけ? コレの甘酸っぱさが甘くしたブランデーと絶妙に調和して、スッキリとした後味になっているわ」
どこかのレビューサイトみたいな感想を述べながら、呑む手は止めないロロル。
「な? 買ってよかっただろ〜!! そうだ。船旅の間は暇だろうし、梅干しも作ろうっと。……ってリタ! 今、お前の懐にしまったその小瓶はなんだ?」
「えへ? えへへへ? いくら勇者様でも乙女の胸元を覗き込むのは、どうかと思うですよ? あっ! やめて! ごめんなさいぃ耳触らないで!! やっ、ひゃっ!」
リタは自分の小さく尖った、ふわふわの可愛い耳をサワサワされ、涙目でアキラの手をペシペシと叩いて抗議する。
「そういう事は、あと十年は女を磨いてから言うんだな!」
梅酒の入った小瓶を取り返し、泣きつくリタを雑にあしらう。
その背後では、こっそり自分のコップに梅酒を注ぎ足して飲んでいるロロル。
賑やかながらも、側から見れば微笑ましい雰囲気の中で、三人はトリメア最後の日を過ごすのであった。
「あー!! 我が居ない間に酒盛りしておる!! 除け者にしおったなぁ!!!!」
「「「あっ……!」」」




