グルメバトル!?
街の繁華街から帰ってきたアキラは、荷台に大量の樽を持ってきていた。
「アンタ、そんなに酒樽持ってきてどうするのよ。アイツらを酒で酔わせでもするの?」
「あははは! 我も飲むぞ! もうヤケだ!!」
「違いますよ! まぁ見ててくださいよ! アンさん! 頼みます!」
「くぅ? くっくくぅー!」
呼ばれたアンさんは次々と酒樽に取り付き、中身を飲み干していく。
更にアキラは両手を前に突き出し、魔法を唱える。
「ハァァァ!! シエル・ラールム!!」
「ロロルさん、今度はなんです?」
「さあ? こういう意味不明なワードが出てくるのはアイツの国で流行ってる"ちゅーに"って言う病気らしいわよ?」
アキラの昔からの持病はともかく、巨大な水球を作り出した。
そしてそれをピギールではなく――なんとアンさんに放った。
「くぅううっ!」
既に酒樽の中身を吸収し巨大化していたアンさんは、更に水球をも飲み込んだ。
そして一瞬発光すると、飲み込んだ全ての液体を猛烈な勢いで吐き出した。
「ひぎっ!? ひぎぃいいいい!!!!」
「くぅーーー!!!」
「よっし! これで聖剣クラージュの御披露目ができるぜ! おらぁぁあ!」
放水が止まると、アキラはのたうち回るピギールを片っ端から切り捨てていく。
そんなアキラの拙い剣技でも通用することを見ていた、周囲の冒険者や兵隊、そしてレジーナなどのギャラリーも次々と参戦していった。
「我のッ! 我のォ! 貞操の恨みぃいい!」
「はーい。怪我した人はこっちよー! ほーい、痛いの痛いのとんでけ〜!」
「ていっ! おりゃ! ボクの必殺の棒術を喰らうですっ!」
「あの神官さんヤベェぞ! 釘の生えた木棒でメッタ打ちにしてやがる!」
「お前ェさんのカミさんだって包丁で三枚下ろしにしまくってるじゃねぇか! 十分怖ぇよ!! ……俺はあの可愛い妖精さんに癒して欲しいぜ」
レジーナは泣きながら槍を振るい、ロロルが怪我人を癒す。
そしてリタは、持ち出し先不明の釘バットでボッコボコにしていた。
あまりの狂鬼振りに途中からモンスターも住人もリタから逃げた。
やがて途中から様子を見に戻ってきた街の住人まで戦闘に参戦し、夜通しをかけてついにピギールは討伐された。
「はーっ、はーっ、はぁっ……! つ、疲れたぁぁ!!」
「わ、我も……も、もう動けにゅぅ」
「あーっはっはっはぁぁ! もう居ないですか!? ボクに逝かせて欲しい奴はもっともっと、かかってくるですぅ!」
「なんでリタはそんなに元気なのよ……私もう寝たい……」
「ロ、ロロルもお疲れ……あのさ。多分だけど、コイツらの返り血ついたままだとかぶれるかもしれないし、身体を綺麗にしてから帰ろうか……リタはほっておいて。」
アキラはもう水球を出す魔力も残っていなかったので、近くの住民に水を貰い、みんなで汚れを綺麗に洗い流した。
その頃には街も落ち着きを取り戻し、それを確認した一行は、足を引きずるようにして宿へ帰り食事も摂らず眠りについた。
◆◆◇◇
「――それで? 疲れて寝ているところを叩き起こされて連れてこられた挙句、散々相手をさせられたコイツらを見る羽目になっているこの現状の理由は説明してくれるのよね?」
「わ、我はもうヌメヌメは嫌じゃぁ! もぅおうちかえりたい! かえるのじゃあ!」
アキラ達は宿に戻り、朝にも関わらず爆睡していた。
しかし、数時間後にやって来た渡航船組合長達に寝巻きのまま担ぎ出され、ここ繁華街に連行されていた。
幸いにして街は思ったほどの被害はなく、繁華街も今は普段通りの人並みが見られるほどにまで回復していた。
……但し、魚市場さながらのように床にピギールが並べられているこの風景を除いて、だ。
「いやぁ、まさかと思ったが、お前さん達が女神様が呼んだっつぅホンモノの勇者サマだったとはな! お陰でトリメアは救われたぜ! ガハハハ!!」
「ロロルもそう不機嫌にならないでくれよ〜。いやさ、組合長さんに言われるまですっかり忘れてたんだけど、俺がピギール討伐の為に途中で持ってきた酒樽があったじゃない? アレ、実はこの繁華街で借りてきた"酢"だったんだよね〜」
「「「す、酢ぅ!?」」」
「おぅ! 俺っちのカミさんが繁華街の食堂やってるから聞いたんだけどよ。お前さん、料理用の酢を使ってアイツらを倒したんだって!? まぁ戦闘に使った酢は街長に請求すっから気にしなくていいんだが、討伐したピギールの処理にはどうしても困っちまってよ〜。それで、何か良い案がねぇか相談したかったんだよ」
地球でも勿論そうだが、一般的な魚というのはご存知の通りヌメヌメしている。よく釣りたての魚なんかは掴めず海へ落としてしまう、アレである。
このヌメヌメというのは、ムチンと言われる糖タンパク質の一種だ。
このムチンはヒトの粘液など多くのヌルヌルにみられるのだが、酢を掛けられると変性が起こり、粘りや滑りが無くなってしまうのである。
コレを利用すれば、魚のヌメりや生臭さを取りやすいので、気になる人は酢で洗ってみるのがオススメだ!
ちなみに納豆や野菜の一部のヌルヌル系の栄養なんかも壊れる可能性があるので、注意は必要だが。
「それでまぁ使った酢の代金の代わりに、何かピギールを使ったレシピを考えてみようかなって思ったんだけど。このピギールっていうモンスター……やっぱりウナギの類だよなぁ」
泣き声は豚野郎そのものだったが、捌いてみるとその身はもはや肉厚のウナギと言っても差し支えがなかったのである。
ちなみにウナギの本当の旬は土用の丑の日がある夏ではなく、脂肪を溜め込む冬だと言われている。
しかし、ピギールには季節など関係が無かったようだ。
捌かれた身には上質な豚の甘味がある脂が綺麗に入っており、キラキラと宝石の様に光り輝いている。
……こんなのを見てしまったら、日本人として蒲焼きにして美味しく食べないワケにはいかないだろう!
幸運なことに、今はアンさん謹製の代用醤油もある。
……うん。そうと決まれば、なんちゃって蒲焼きウナギパーティーの開催だ!!!!




