ヌメヌメ、襲来
港の側に集まると、遠く海の彼方から、うねりをあげて波が襲ってくるのが見えた。
否、津波の如くモンスターの群れが大量に向かってきているのだ。
「来たぞー!! モンスターがウジャウジャ来やがったぁぁあ!!」
「奴ら、泳ぐだけじゃねぇ! 空を飛んでやがる!」
「アレはピギールじゃな。……ふむ。どうやら此度呼ばれたのは八十年振りかの」
「あ、あなたは!?」
アキラ達の背後に突然現れた人物。
180cmを越える長躯に、足首ほどまであるスカイブルーの長髪。
身体はスレンダーで、肘や足首に特徴的な薄いヒレがついている。
局部は自前なのか、鱗でできた部分鎧のようなもので覆われており、不思議な上品さでイヤらしさは感じられない。
「我はマーレ族の族長、レジーナ=クーラブじゃ。そこの騒いでおる過去の勇者、じゃな」
彫刻のような整った顔と切れ長の目で、慌てふためく街人を見つめるレジーナ。
「へ? 勇者カニ男? おと、こ??」
「ナニを指差しておる。不敬じゃぞ?」
「だ、だって。な、無いよな?」
「我らマーレ族は繁殖時にのみ性別が現れる。前回の騒ぎの時は、たまたま男だったのじゃろ。それより其方。その身体に神器を宿しておるな? 女神が召喚した本物の勇者であろ?」
アキラよりも上から、中性的なボイスで耳元に囁くレジーナ。
なんだろう、すっごくゾクゾクする。
今のレジーナの性別はどっちなのだろう?
「あ、あの……レジーナさんは街の人に呼ばれて?」
「いや、我は同族がピギールの大群を見つけての。街へ押し寄せそうじゃったので、警告にきたのじゃが……少し遅かったようじゃの」
「その、ピギールというモンスターはどういったモンスターなんです?」
「ん? 其方は女神教の神官か。陸の者は知らぬじゃろうが、ピギールは海神リーヴィアの肉片より生まれたとされるモンスターで、普段は深海で大人しくしておるのじゃ。しかし突如何かに惹かれたかのように陸へ向かったのでな、こうして我が参ったわけじゃ」
「じゃあ街の人も普段は見掛けないモンスター!? しかもあんな大量に……」
「あのモンスターは太く大きく、ヌルヌルウネウネしておっての。マーレ族の必殺槍でも中々刺さらん。魔法も粘膜を剥がすまでは中々いかぬのじゃ。前回のサクサクシャークは相性抜群だったのじゃが……」
悔しそうにフォークのような三叉槍を握りしめるレジーナ。
モンスターを食べられないから悔しがってるんじゃないよね?
サクサクシャークもすっごく気になるけど今はピギールとかいうモンスターに集中しなければ。
と、話をしているうちに敵の第一陣がやってきたようだ。
「「「ぴぎぃ! ひっぎぃいぃいいい!!!」」」
豚のような鼻を持ち、太く長くて黒光りしているモンスターがぬめぬめわっしゃー!と飛んできた。
「え。豚とウナギのキメラか何かか!?」
「なんかすっごく戦いたくないんだけど……」
「たまにあぁいう信徒さんいらっしゃるです。気持ち悪いですぅ……」
「くっ! 我の仲間も彼奴らに幾度となく犠牲となっておる! 今度こそは仇を討ってやるのじゃ!!」
カニ男改め、麗しの海の勇者レジーナが槍を回転させながら果敢にもピギールに立ち向かう。
「ひぎぃぃい! ぴぎぃひぎぃいい!」
「ぴぎぃ! ひぎぃぃっ!」
「くっ! まとわりつくなぁあ! やめっ! ちょっ、入ってこないで! あっ!」
そしてウナギの波に飲まれて消えた。
「ちょっ! レジーナさぁぁあん!!」
少し経つと、ぺいっ!と弧を描いてドサッと何かが落ちてくる。
「ふ、ふえぇっ、ヌメヌメこわいよぉぉ」
「や、やばいぞ! 勇者クラーブ様でも敵わないなんて!」
「に、逃げろぉおお!!」
ピギールの粘膜に手も足も出ない街の兵達も、僅かばかりを残して逃げだしてしまう。
「大丈夫ですか、レジーナさん!」
「うっぐ、ひっぐ。わたち穢されちゃったぁ……うえぇ」
「ダメね、幼児退行してしまったわ」
「あのヌメヌメはキョーイです! どうにかしないとボク達もアレにヤられてしまうですよ!!」
「うっ……取り敢えずやってみるしかないな! やっぱ水棲生物には雷魔法だろう! クード・フードル!!」
左手に集めた魔力球からピギール達へ、蜘蛛の巣のように雷が迸る!
「やったか!?」
「あんな呪文、初めて聞いたです?」
「地球のフランスって所の意味で一目惚れらしいわよ、気障よね。ていうか呪文ってほぼ無意味だし?」
「うるさいよ、君達! いっつもいっつも観てるだけの癖に文句言わないでよ!!」
「そんな事より光が収まったわよ! 倒したの!?」
「けっこーな魔力込めたし、大半は倒し……てないですね」
「はっ! ココは!? ピギールはどうした!」
「あ、レジーナさんおかえりなさい。今俺が雷魔法撃ったんですが、全く効かなかったんですよ……」
「そ、そんな。これでは余はまた陵辱されてしまうのじゃ! イヤじゃイヤじゃぁ! またアレをぶっかけられるのはイヤじゃぁ!!」
自分のじゃない体液まみれにされて、クールさのカケラも無くなってしまったレジーナ。
さすがに哀れに思ったリタがタオルで身体を拭いてあげている。
「とにかく、あの粘液をどうにかしないと……粘膜……魚……も、もしかして!」
何かを思い付いたアキラ。
その場を離れ、どこかへ走っていってしまった。
どうなるアキラ!
女性陣を置いてけぼりにするとモンスターより驚異だぞ!!




