港街へ
「ちょっとぉ! アキラ君の世界の料理作ったんなら私も呼んでよ!」
「あ、レイナさん。おはようございます〜」
「うん、おはよう。……じゃなくて! なんでリタちゃんが君のベッドにいるのよ!」
「んん? あぁ……昨日の打ち上げでこの子、いつの間にかエール飲んじゃってたみたいで。それで酔っ払って……俺の部屋来て……寝ちゃったんですよ」
「もう! アキラ君の変態! 馬鹿! 脇の下が雨に濡れた段ボール!!」
わぁぁん、と棒読みで叫びながら部屋の扉を開けたまま去っていくレイナ。
えっ? 脇の下が臭うってこと? ていうか異世界に段ボールあるんだ……
「なによ朝っぱらから……って。あぁ、そういうわけね」
「……なぁ、ロロル。彼女、アレでも王の妹なんだよな……」
「それに世界的な宗教の枢機卿ね。面白くて良い人じゃないの。それより、今日は次の街に行くんでしょ? きっと彼女もお別れを言いに来てくれただけよ」
眠そうにトロンとした目をしながら、優しく微笑むロロル。
こういう時は可愛いんだけどなぁ……
そんな事を考えながら宿の食事場に向かったアキラは、朝食を食べながらミーティングを始めた。
「取り敢えずの議題は……あの隅っこの席で朝からエールを飲みながら、山盛りの唐揚げを喰らっている女性は誰かって話かな……」
「はむっ! はむはむはむ! はむぅ!」
「あはは、アンタの作った唐揚げ、美味しかったものね。前に作ってもらったハンバーグも美味しかったわよ」
「はむっ!? はむはむ! はむはむぅ!」
「なんかハムスター言語みたいになってるな。ていうか盗み聞きしてないで、コチラに来たらどうですかレイラさん」
「もう! こんな美味しいモノ作れるなら、教会の仕事投げ捨てでも旅について行きたかったわよ!」
「ふふふ、良い旦那様になりそうでしょう? まぁ旅から戻ったらご馳走しますよ。何かリクエストあります?」
「あら、プロポーズかしら? そうねー。肉料理も良いけど、私は魚料理も好きなの。次の街のトリメアは港街だし、珍しい魚料理を思い付いたら私に作ってくださる?」
「そうですね、なにか良いネタがあったら考えておきますよ。 ついでにトリメアで何かオススメの食材とかあります?」
「そうねぇ、食べ物じゃないんだけど、マーレ族っていう亜人種が居るわ。水中でも陸でも生活ができる種族で有名よ」
「に、人魚キター! やったぁぁ! 俄然楽しみになってきた! よし、行こう! いざ、麗しのマーレ族に会いに!!」
ガタッと立ち上がり、拳を天に打ち上げるアキラ。
「ちょっと、レイナ……」
「えぇ、まぁ。やる気になってくれるなら良いかと」
「はぁ……海を渡って、太陽の国≪ヘリオス≫にある次の神器を手に入れるのが目的なんだからね? ……って聞こえていないし」
「ふははは! 愛は人種を越えることを証明してみせようではないかぁ! えへえへえへへへ」
「「この勇者もうダメかもしれないわ」」
◆◆◇◇
「ヒドイです! なんてボクの事起こしてくれなかったんですか! 朝カラアゲ食べ損ねたです!」
「リタさん昨晩一人で五人前も食べたじゃないですか……」
「昨日は昨日です! そんな古いこと言ってると、また加齢臭が漂ってくるですよ!」
「君らちょいちょい俺の体臭のこと言うよね!? 俺そんな臭うの? まだ二十代だよ? 傷つくよ!?」
ガヤガヤと魔導機の前後で言い争う二人。
今日も快晴で絶好の旅日和だ。
「いやー、こう天気が良いのは俺の普段の行いが良いからだな! 港街に着いたら海水浴でもしたいぜ」
「それを言うなら、私の行いが良いからよ。昨日もてるてる坊主を吊るしたからね!」
「ボクのお祈りが女神様に通じたです!」
「女神様も俺のこと見てくれてるのかなー。そういえば、この世界で知られてる女神様ってどんな神様なんだ?」
「美人よ!」
「美人ですぅ!」
「そ、そっかぁ。美人なのはダイジダヨネ。ハハハ……」
そんな調子で街道を進むアキラ達。
途中飛び出してくる雑魚達はロロルのMDで街道の肥料となった。
そして快調に進むこと約二日。
「うーーっはぁぁあ!! うーーみーーだーーー!」
「あいっかわらず広いわねー! 真っ青で綺麗だわ!!」
「うにゅ? もう昼ごはんです?」
小高い丘を抜けると、そこには一面の海。
地平線の先まで見渡す限りにブルーな絨毯が広がっている。
「ちょっとだけ心配してたけど、この世界も青い海で良かったよ。真っ赤な血の海だったらどうしようかと」
「教典では青い血の海と言われてるですよ? 創世の時代に海神が魔神と戦ったときに流れた血が、そのまま海になったってお話ですぅ」
「うはぁ。でもまぁ想像のお話だしな、気にしない気にしない」
「それでその戦いで落とした片腕が肉片となり、海の生物になったと「やめて! これから海の幸楽しもうとしてるんだから! 生々しい話やめよう!?」
「アンタ達、盛り上がるのは良いんだけど、もうトリメアの街に着いたわよ?」
「ん? おぉ、着いたか! この街もいい具合に賑わってるな〜」
「船で隣国との交易があるからね。物も人も結構行き来があるわよ〜」
「おっきな船も小さな船も沢山あるです!」
「ヨットみたいな帆船がアリの群れのようにあるな! カラフルな帆が多いから見てるだけで面白いな〜」
「ハハハ。漁なんかは今見えてるベレーロっつう帆船でやってるからな。色とりどりで綺麗だろ? おっと、トリメアの街へようこそ! この街は初めてかい?」
「ロロル! ロロルさんや! 門番さん! 初めての門番さんやで!!」
「や、やめてよ恥ずかしい!! そうよ、この街には初めて入るわ」
「ん? 王都から来たのか? 王都や聖都は結界で守られてるからな〜。この港街は半分海に囲まれてるし、隣国から商人や冒険者がやって来る。結界では覆いきれないし、コストが合わないからね。だから俺たち門番が人の目でチェックしてるってワケだ」
「へぇ〜。そういや王都にゃ外壁も門も無かったわ。町に門も壁もない日本に住んでたから違和感無かったけど」
「ニホン? 異国の人かい? まぁどこの出身でも、街で問題を起こさなきゃ大歓迎だ。マーレ族とか他の種族が居るから仲良くな!」
問題かぁ……絶対起こるんだろうなぁという考えを頭からふるい落とすようにして、一行は潮の香る港街≪トリメア≫へ入って行った。




