チート無双
勇者の危機に飛び出したのは――
「くぅーーー!!!」
――犬だった。
アンさんは果敢にも飛び出し、グルメスライムを一飲みにしてしまった。
「ひぇっ? あ、ありがとうアンさん? 大丈夫? お、お腹壊しちゃうよ?」
「『ペッ!』しなさい! 食べ物じゃないのよ!」
「アンさん、さいきょーですぅ!」
溶解液なんて無かったかのように、美味しそうにモッシャモシャしているアンさん。
アンさんのおかげでフラン村は守られたのだ!
スゴイぞアンさん! やったぞアンさん!
「でも今度から拾い食いはダメだからな?」
「くぅ? くぅーーーん!!!」
◆◆◇◇
「皆様がた、この度は誠に助かりましたじゃ。これでこの村も平和を取り戻し、村の者も一安心ですじゃ。またこの付近を訪れることがありましたら、是非この村にも立ち寄ってくだされ」
「いえいえ、無事に討伐が出来てこちらも良かったです。……というより、村長? 口調、変わってますよ?」
「ふおっ?! そ、そそ、そんなことないクルゥ! 今までのもワザとじゃないクエッ!」
「村長……やっぱりご当地アピールする為に、村人全員で口調合わせるのなんて無理ですよ。村の子供達なんて完全にスルーしてるじゃないですか。隣村のシカモンなんかに張り合ってどうするんです」
「いやじゃいやじゃ! ワシの村もキャラクター作ってグッズで大儲けしたいんじゃぁあ! クロウの裏切りものぉ!」
「あ、皆さん本当にありがとうございました。これ、お土産の香辛鳥の卵と肉です。村長の事はともかく、いつでも遊びに来てくださいね!」
そうして、笑顔のフラン村の人達に見送られつつ、アキラ達は聖都へ帰るのであった。
「いやぁ初依頼だったけど、万事上手くいったな!」
「ほとんど行き当たりばったりじゃないのよ。倒したのはアンさんだったし」
「アキラ様は石投げただけだったです」
「くぅー!」
「いいの! 怪我なく終わったんだから! お前らこそ何もやってないじゃないか!」
「さぁって! 仕事も終わったし、美味しいもの食べにいくわよ!」
「わーい、他人のお金で食べるご飯は最高ですぅ!」
「わーぉ、清々しいほどの変わり身! でも今日の夕飯は、村で貰った香辛鳥で料理するぞ〜」
「ホント!? アンタって意外に料理上手だから期待してるわよ!」
「アキラ様が料理するですか? 変なモノ入れないです?」
「俺も喰うんだから大丈夫だよ! じゃあ俺は必要な食材を調達して、宿で下ごしらえしてくるわ」
異世界に来て地球の料理が恋しくなった時、障害となるあるあるは、恐らく調味料の類であろう。
そして今回、アキラが香辛鳥を使って料理を作るに当たって必要としたのは――醤油である。
大豆を発酵醸造した液体調味料で、幅広い料理に使用されているのはご存知だと思う。
アキラはこの世界に来て一ヶ月と少し。
街の食料品店や市場を探したが、見つける事は叶わなかった。
しかし、今回はどうしても使いたい。
なので作ることにした。
もちろん日本と同じように作ろうとすれば、設備やら麹やら手間暇がかかり過ぎて、とてもじゃないが作れない。
「そこで今回は助っ人をお呼びしました! どうぞ!」
「くぅーーー!!!」
恐らくこの小説で一番活躍しているであろう、アンさんである。
「いやぁ、グルメスライムの能力とアンさんの能力を合わせてそんな事が出来るとは! 素晴らしいです先生!」
「くぅくくぅー!」
醤油を構成しているのは、大豆・小麦・魚介などを分解して出来る旨味成分のアミノ酸、塩分などである。
他の異世界ではよく小麦を使わなかったりするが、それは江戸時代あたりで良く作られた溜まり醤油に類似したものだ。それも最高に美味い。
ちなみに第二次世界大戦頃の日本では、物資の不足によって醤油が不足し、代用醤油が作られた。
それに倣って今回は、市場で見つけた大豆、小麦、干し小魚、塩、砂糖を用意した。
砂糖はカラメルにして、赤茶色の色素として使うらしい。
それらの材料を全部まとめてアンさんに食べてもらう。
そしてあっという間に、体内で分解。続いて発酵、熟成を短時間で行い、口からピューっと代用醤油が噴出され、完成してしまった。
「いやー! アンさん様々ですわ! お陰で美味しいご飯が食べられそうだよ!」
これで調味料は取り敢えず完全だ。
香辛鳥のもも肉を生姜、ニンニク、酒、醤油に漬け込んで下味を付ける。
そして漬け込んでいるその間に、タルタルソースを作る。
香辛鳥の卵を茹でたら潰して細かくし、作っておいたマヨネーズ、レモン、刻んだ玉ねぎを投入。
次に甘酢ダレに取り掛かる。
代用醤油に酢、砂糖、生姜を少しいれて混ぜておく。
鳥もも肉に下味がついたら、衣をつけて揚げ焼く。
普通に揚げると大量に使うし、処理に困る。
一人暮らしに揚げ料理はハードルが高いんだ。
揚げてまだ熱々の内に、甘酢ダレを掛けて染み込ませる。
冷めてからでは甘酢タレが染み染みにならないからね。
そして最後に白い魅惑のタルタルソースを掛ければ完成だ。
「揚げたり茹でたりと随分手間掛けたわねー」
「でもこの甘酸っぱい匂いで、ヨダレが溢れてくるですぅ!
「よーし、少し早い時間だけど仕事も終わったし、熱いうちに食べよう! そしてコレだ!」
アキラが宿の調理場から持ってきたのは、キンキンに冷えたビール。
最強の組み合わせだ。
「んーーっ! 甘辛くてジューシーな鳥肉に、タルタルソースの酸味とまろやかさが合わさって、もうさいっこう!」
「冷えたエールが口の中を流すから、いくらでも食えるよな〜」
「ぱくぱくモグモグ、ぱくもぐぱくもぐ。グビッ! もぐもぐもぐ」
日本のような化学調味料が無くても、香辛鳥は臭みもなく複雑な味わいをみせている。
肉の繊維の隙間から脂が洪水のように溢れ出し、甘酢と合流しクドさを中和する。そしてタルタルが旨味だけを押し上げ、舌を優しくコーティング。
そこへエールが、拘束された舌を助けるかのように胃の中へ流し落としていく。
これは異世界人だとしても、抗えない味の暴力だ。
この世界の二人にも好評だったので、調理場を借りたお礼に宿の女将達にお裾分けをしたところ、是非作り方を教えて欲しいと頼まれてしまった。
簡単な代理醤油の作り方から一通り試作をしていると、宿の客から味見をさせてくれと更に懇願され。
あれよあれよという間に広まり、本日のメイン料理になってしまった。
――数週間後、この宿はフラン村と業務提携を結ぶまで繁盛し、どこかの王族がお忍びで食べにくるほどになるのだが……それはまた別のお話。
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