Mの宿命
「…が…さま! …か……さま?」
「……レイナ。ここではパルマと呼んでって言ったでしょう?」
「申し訳ありませんパルマ様。……勇者は神器を手に入れたのでしょうか?」
「えぇ。ふざけた奴だけど、確かに力の片鱗は見せてもらったわ。神器を集めて経験を積めば、恐らく間に合うハズよ」
「それは重畳でございます。あとはあの者を従者とし、様子を見たいと思います」
「えぇ、そうしてちょうだい。さぁ、そろそろ勇者を迎えに行って」
「かしこまりました」
◆◆◇◇
「はぁっ……はぁ、はぁ……ぐっ、一体なんだってんだ……」
突然胸の心臓辺りから飛び出した刃物。
それは一振りの――
「ナイフ? いや、これは……メス、か?」
ズシリとする重さからも分かるように、刃先からグリップまで金属で構成される無機質で重厚な造り。
長い柄に対して短い刃だが、人体を切ることに特化したソレは、どこか恐怖心を与えてくる。
「いや、解剖実験で使ったことはあるが、武器として使ったことなんて無いぞ!? ていうか武器になるのか? 突いたり、撫で切ったりはできるかもしれないが……」
ん? コイツの使い方が頭に流れてくる……
なになに?
用途によってフォルムチェンジします?
普段は体内に収納され、魔力を使用して再生成されるって?
まぁメンテナンスフリーなのはありがたい。
医療器具モドキな武器なんて鍛冶屋でも扱いに困るだろうしな。
とにもかくにも、貰ってしまったものはしょうがない。
辺りに散らかったアレコレを片付けて枢機卿の元へ戻ろう。
そしてレイナさんに、ナデナデしてもらって癒されよう。
俺はやり切ったんだ。
その前に下着とズボンを取り替えよう。
もう起きたこと全て女神様のせいにすることに決めたアキラは、いそいそと泉から去るのであった。
◆◆◇◇
結局迎えに来ていたレイナに見つかり、いい子いい子して慰めてもらった情けない勇者。
「いやぁ、あんな謎かけみたいな試練があるならヒントぐらい欲しかったですよ! 危うく俺の聖剣が永遠に失われるところでしたよ」
「聖剣は手に入ったのですから良かったのでは? それに石版の通りに祈りを捧げれば、女神様が神器を授けてくれたでしょう?」
「はい? いやいや、レイナさん。石版に書いてあるように武器を泉に投げ入れたら投げ返され、お金を入れたら胸に聖剣を生やされたんですよ? もう少し穏便にですね……」
「え?」
「えっ?」
「ええっと、つまり石版には二礼二拍手一礼をして多少のお金を入れれば、女神様が現れて神器を授けると書いてある、と?」
「はい。そのようになっています。ただ、ここ数日は女神様の神気が無かったのです。まぁ、たまに街で買い食いしてるのを見かけられるのですが、呼べばすぐお戻りになられてたので……」
「割と出没されてる?! 身近な神様だなオイ」
「ふふふ、ちょうど買い食いでもされてたのかもされてたのかもしれませんね。そうだ、アキラ君に紹介したい子がいるのよ。会ってくれる?」
再び枢機卿室に戻されると、そこには小柄な少女がいた。
なによりも特徴的なのは――
「ケモミミきたぁぁぁあああ!」
――ケモミミ。
猫やウサギなどの可愛い系から、犬や狼の凛々しい系など、世界中に熱狂的ファンを持つ。
獣人あるあるとして、動物の特徴的な耳を持つ者と、人間の耳と両方を持つ者がいるのは有名だ。
目の前の少女はどうやら後者のようだ。
愛でてよし、舐めてよし、さわさわするも良し。
だが嫌がる行為は駄目だ。
ケモナー紳士淑女協定の掟である。
「ピョッ!? は、はじめまして勇者様! ボクはリス獣人のリタと言いましゅ! ……痛ぅ」
「(あざとかわいい……)俺の名前はアキラって言うんだ。リタちゃんは神官さんかな?」
「は、はいぃ。神官の見習いをさせてもらってますぅ。あとボクはもう16歳なんです! 立派なレディですからリタちゃんはやめてほしいです!」
クリクリとした目をムキーっとさせ、頬っぺたを膨らませる愛らしい女の子。
癖っ毛のある栗色の毛を撫でたい。
ケモミミをハムハムしたい。
「ははは。じゃあ俺の事もアキラって呼んでね? それでリタさんはどうしてココへ? この聖堂を案内してくれるとか?」
「ううぅぅ。"さん"も要らないです。案内と言えば案内です。ガイドとしてボクもアキラ様の旅にご一緒するです!」
「彼女はね、モンスター災害の孤児なのよ。元々は第二世界の農村出身だったそうなんだけど、その村がモンスターの群れに襲われたみたいなの。
家族と逸れ、必死で逃げている間にこっちの世界に飛ばされてしまったのね」
レイナが言うには、その後行商人に保護され、流れ流れてこの聖都に辿り着いたらしい。
保護するのは教会の役目でもあるので、孤児院に入りつつ、神官見習いとして働いているんだそうだ。
「そうか……」
「同情しなくて大丈夫です。ボクは神官が天職だと思ってるです。まだまだ未熟だけど、頑張ってお供するです!」
「この歳で頑張って仕事してるんだな……えらい! えらいぞー!」
「子供扱いするなですー! 信じてくれないなら、ボクが立派に神官をしてるところを見るがいいですー!!」
「ははは。よーし、じゃあおっちゃんが職場見学しちゃうぞー。早速案内してくれ!」
――10分後――
「このクソ上司がぁぁぁあ!!!休み返上させた挙句、給料カットっておかしいだろうが、このハゲェエエエ!!!」
「クククク、あなた、鏡って知ってるです? 鏡も買えないほど安月給なんですぅ? そりゃあストレスも溜まってハ……おっと失礼したです〜クククク!」
「ちきしょぉおおおおお!!!!」
「え、なにこれ?」
アキラ達が見たのは、懺悔室のような場所で、咽び泣くオッサンを煽り倒すリタであった。




