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いかれた糸目のおねえさんは好きですか?

すみません、こんなのにブクマ、評価、ご感想まで……

ありがとうございます!!

更新が日常の習性になるまで、しばらく続けさせてください。


「……おまえ、王子の俺様の寝室で、テロリストの拷問をはじめる気か」


ものすごく嫌そうな顔をするレオに、ジェシカは仮面じみた貼りつけたような笑顔で応じた。


「あら、殿下だって、反魔法同盟の連中を、虫けらのように焼き殺すじゃありませんか。私たちの生きているのはそういう世界ですわ。暴龍王子のお言葉とも思えない。それに謀略は、古来より寝室でつくられるものですわ」


ちっとレオは舌打ちした。


いっぽう、腕を折られた女性を見て、ジェシカを制止しようと敢然と立ち上がりかけたリーナだったが、彼女に鋭く一瞥されただけで、射すくめられたように身動きとれなくなってしまった。

ヘビににらまれたカエル同然だった。

リーナにどうこうできる相手ではないと、本能的に悟ってしまったのだ。

自分が情けない。

だけど、悲しいまな板の上のコイ。

煮るなり焼くなり好きにしろ……!!


「おい、のろま。このナリ子が。何を涙目でぶつくさ言っている。早くどけ。少しは気を利かせろ」


レオが硬直しているリーナを顎でうながす。


「な、ナリ子……?」


「語尾で、なりなり言ってるから、ナリ子で十分だ。ジェシカを止めようとしたな。口出しなど一万年早い。分をわきまえろ。おまえごときに、国家の秘密情報を聞かせるわけにはいかん。三部屋先の居間で待っていろ」


「は、はいい……!! ……わっ!?」


かくかくと頷き、ぎくしゃくと歩きだそうとしたリーナの足元に、銀の光芒が突き刺さった。

ジェシカの投げたナイフが床に突き立っていた。


「あらあ、レオ様が王子様してるなんて珍しい。……拷問なんて女の子の見るもんじゃない。離れて耳と目をふさいでおけ……って、ところかしら。駄目よお。いくらレオ殿下のお言葉でも、デモンズ家としては納得できない。レオ殿下の魔術整備士をやるのなら、国家の闇ごときに尻ごみしてちゃ話にならないもの。チームは秘密を分かち合わなくちゃ、いざというとき背中はまかせられない。お嬢ちゃん、手伝わなくていいから、そこで見学してなさい」


糸目からかすかにのぞく眼光が殺意を帯びていた。

逆らったら、なにをされるかわからない。


「……ひえっ……」


リーナは今度こそ本当に腰を抜かした。

座り込んだお尻の下で、綺麗に整えられたスカートのひだが圧し潰されたがそれどころではない。


レオが自分よりジェシカのほうが性質が悪い、と言ったのは真実だと思い知らされた。


ジェシカは右手一本でテロリストを制圧し、床に這いつくばらせている。

相手も女とはいえ、信じられない手際のよさだ。

王立魔法寄宿学校の生徒会長という肩書からはとても信じられない。

朝食のベーコンを切るほどに、荒事に慣れきっている。目をつぶってでもこなしそうだ。


ジェシカは左手にぶら下げていた大きな布に包まれたものを、どんっとにせメイドの鼻先に下ろした。

金属音が冷たく響いた。

ぎくっとしたテロリストに見せつけるように、ゆっくりと布を取り払うと、大きな鳥かごが現れた。

ひいっとテロリストの女がひきつった悲鳴をあげた。


「……デモンズ家の……鳥かご……!!」


かごの中には鳥はおらず、凶悪な形状の金具の数々が、底面の穴に突き刺すようにして並んでいた。


「あら、博識ね。うちの拷問道具を知ってるなんて。……あなた、メイドのふりしてるだけで、もしかしてえ……元知識階級?」


ぐるんっとジェシカがのぞきこむ。

白くこわばった顔で沈黙した女を、ジェシカはティータイムで談笑しているような調子でからかったが、それ以上追求はしなかった。


ひいふうみいと鳥かごの中の金具を、テロリストの顔の左右に丁寧に並べていく。

数が増えるにつれ、女の顔が死相を帯びてくる。

おもてなしのカトラリーをセットしているように見えるが、並べているのはフォークやナイフやスプーンではなく、やっとこや金鋏や、先端がかぎ状の刃物だ。


にせメイドは必死にもがくが、ジェシカの拘束は鉄縄に近い。

びくともしない。抵抗をゆりかごの揺れのように満喫している。


「……この道具で鼻と耳と胸をちぎるでしょ。これで歯を折るでしょ、これで爪をはぐでしょ。これで顔の皮をはぐでしょ。忘れ物はないかなあ。ああ、あと……」


楽しそうに指さし確認をはじめた。


聞いているだけでリーナは吐き気がしてきた。


ジェシカは金属の筒でぺたぺたテロリストの頬を叩いた。先端は包み紙でおおわれている。


「あと、これが本日のメイン。中には凶悪な寄生虫がいっぱい入ってるのお。バネが筒の中にしこまれててね。人間の体内に押し込んで、根本をひねると、先端の包み紙が破れて、虫が排出され、肉に食らいついてもぐりこむの。一度入ったら二度ととれないわ。消化器官から挿入したデーターはデモンズ家にもあるんだけどねー。他のところに挿入したデーターもほしいって頼まれてるの。……賢いあなたなら、「意味」わかるよね。ああー、気が進まないなー。同じ女としては」


「……やめて!! やめて!! やめて……!!」


狂ったように女が暴れ出す。本気で泣き叫んでいた。

リーナも蒼白になり、反射的に自分の下腹部を押さえてしまった。


「あら、でも、なにも語る気はないんでしょ。デモンズ家としては、実験データーが取れる方が、かえって嬉しいくらいなんだけどなあ」


ジェシカは女の後ろ襟首に冷たい金属棒をさしこんで遊んでいた。

猫がネズミをなぶるようだった。

女は弓なりの背中になって泣き喚いている。


「悪趣味な……」


レオが眉をしかめる。

リーナは、うっ、とえずきそうになった。


酸っぱいものがせりあがってくる。もう限界だった。

下町育ちで多少威勢がいいとはいえ、リーナの感性は常人だ。

いきなりこの場で解体ショーをはじめようとしているジェシカのセンスには、とてもついていけない。

毒物をのみこんだように身体が拒否反応を示していた。


嘔吐寸前で、レオがリーナの前に立ち塞がるようにし、ジュストコートを広げた。

視界が遮られる。


「……あ……」とリーナは目を見張った。「……嫌なら見なくていい」とレオが小声でささやいたような気がしたのだ。


だが、違った。


「……ふんっ、ジェシカ。おまえの言う通り、寝室と謀略は切っても切り離せない。だがな、敵の血ならともかく、俺様の寝室をナリ子のゲロごときで汚すのは、絶対に許さない。王子として命ずる。もっとスマートな方法でやれ。……どうせ用意してあるんだろう」


唖然とするリーナをじろりと見下ろした。


「おい、吐いたら殺すぞ。今すぐその汚らしいものを、一滴残らず、喉の奥にのみこめ」


といまいましげに吐き捨てられ、リーナは、かっとなった。


いくら王子といえど、言っていいことと悪いことがあるのだ。

あんたなんか王子じゃない、玉子だ。この玉子、目玉焼きにしてやろうか。


勝気な部分がむくむくと胸の奥からわき、折れかけていた心が、ぴょんっと持ち直した。

ごくんっとわざとらしく喉を鳴らす。


「汚らしいしもじもの者で申し訳ございません。ほら、このとおり、残らず戻してさしあげました。どうぞご確認ください」


べーっと舌を出すようにし、口を開ける。


「……下品な。見せなくていい。ぶっ殺すぞ」


やり返されたレオは、不快そうにぷいっと目をそらし、リーナは心の中で、いえーいっと快哉を叫んだ。


テロリストに馬乗りになって様子をうかがっていたジェシカは、はあっと嘆息した。


「……人がまじめに仕事をしているときに、幼稚なラブコメを見せつけられ、萎えましたわ。わかりました、仕方ありません。今回は仰せのままに、別の方法をとりますわ」


スカートの脇の切れ目に手を入れ、ごそごそしだす。

内側にぶらさげているポケットの中身をさぐっているのだろう。


レオが眉をしかめる。


「誰がラブコメだ。殺すぞ」


レオの言葉にリーナもうなずいた。

大嫌いなレオだが、今回ばかりは同一見解だ。

今のどこにラブコメ要素があったというのだろう。

こんな乱暴かつ理不尽な王子とのラブコメなど死んでもごめんだ。


「……よかったわねえ、あなた。お優しい人たちのおかげで命拾いして。じゃあ、アプローチをかえましょう。これ、なあんだ? 見覚えあるよねー」


ジェシカはとんっとテロリストの鼻先に、小さな木彫りの犬を置いた。

素人細工の域を出ないが、ディフォルメされた表情があり、才能の片りんは感じられる。

拷問をまぬがれそうだとわかり、明らかに安堵していた女テロリストの顔色が、その彫刻を目にした途端、さっきより悪くなった。


「……ど、どうして、それを……」


がたがた震え出す。


「……見覚えあるよねえ。あなたの弟さん、じつは私とお友達なの。私、子供たちが大勢集まる、教会の日曜学校によく手伝いに行くのよお。社会貢献の一環ねえ。そこで仲良くなって、もらったの。もちろん住んでるとこも教えてもらったわあ。こう見えて私、子供たちに大人気なの。私も子供が大好き。ああ、だけど、あなたが私とお話する気がないなら、かわりに弟さんと『会話』しなきゃねえ。胸が痛むわあ」


床にずらりと並べた拷問用具を指でおし、かつんかつんと鳴らす。

テロリストの首ががくんっと落ちた。心が折れたのだ。


「……なんでも話します……だから、弟には手を出さないで……お願い……」


ぼろぼろ涙を流して懇願する。


「協力してくれる気になって嬉しいわあ。あなたたち姉弟の安全は、これからデモンズ家の名において保証します。痛い思いをさせてごめんなさいねえ。立てる? すぐ手当てしてあげるから」


するりっとジェシカはテロリストの背中から降り、優しく手をかけ、彼女を引き起こした。


「もう、つらい思いをする必要はないのよお、今までよくがんばったわねえ」


ジェシカの糸目が開いた。

瞳が別人のようにぱっちりとする。


まるで整形レベルの変化に、リーナは愕然とした。

ついレオの袖を引っ張ってしまう。


「レ、レオ殿下。ジェシカ様の顔、今、変わりませんでした!?」


「あっちは表用の顔だ。デモンズの連中は、全員、裏表の顔を使い分ける」


わんわん泣き出す女テロリストの背中を、よしよしと撫でているジェシカは、聖女のようにしか見えない。よく聞くと、これからの姉弟がどれだけ恵まれた生活ができるか、またテロ活動を未然にふせぐことでどれだけの人が救われるのか、耳元でささやいていた。おそるべき飴と鞭の使い分けだ。


「……あれがデモンズ家のやりかただ。よく覚えておけ」


「は、はあ……」


「これから、あのジェシカが、おまえの貴族令嬢としての教育係になるのだからな。あいつが糸目になったら、絶対に逆らうな。マジで秒で抹殺されるぞ」


「はあ……はああっ!? 教育係!? 私の!?」


金輪際ジェシカにだけは関わるのはやめようと固く決意するリーナだが、その決意はさっそくうち砕かれた。


お母さん、私なんだかとんでもないことに巻き込まれたみたい。

まるで目隠しされて、空を飛ばされてるみたいなんだけど……。

夢ならどうか覚めてほしい。絶対にろくなことにならないよ。


レオと知り合ってからの現実は、これから常に彼女の想定を飛び越えていくことになるのだが、リーナはまだそのことに気づいていなかった。



お読みいただき、ありがとうございます!!

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[一言] ((((;゜Д゜))) ジェ、ジェシカ様を怒らせてはいけない!!
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