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これも一種の壁ドンイベントなんでしょうか?

ブクマ、評価、本当に申し訳ないです。

書き癖つけるために、しばらく続けさせてください。

「……あのお、レオ殿下。質問しても宜しいでしょうか」


リーナはおずおずと手をあげた。

慣れない高価な貴族服を着せられているため、手をあげすぎると脇が破けるような気がし、おっかなびっくりだ。破れて弁償でもさせられたら破産必至だ。


違うジュストコートをわざわざ引っ掛けてきたレオは、ちらりとリーナを見た。


「うむ、発言を許す。感謝しろ」


〝……こいつ、何様のつもり!?〟


腕組みをして鷹揚に顎をしゃくるレオにいらっとするが、まあ、偉い人なのだから仕方ないのだと自分を納得させる。なんと言っても王子様なのだ。少し背が低いがそれ以外の外見は完璧だ。さぞ令嬢たちの憧れのまなざしを集めることだろう。性格がここまで腐れていなければ。べー、だ。


リーナは心の中で舌を出した。


「……わたくし、ご覧の通りの平民ですの。二秒で贋物と見破られるほどの。そして平民が貴族の身分を騙るのは大罪。賢い王子様なら、当然ご存じかと思いますけど……」


もちろん嫌味だ。

ここ最近は、魔術整備ギルドからの仕打ちと空腹でへこんでいたが、本来のリーナはかなり勝気だ。

オタクではあるが、下町のちゃきちゃきっ子でもあるのだ。

火事と喧嘩は、王国の華。

売られたケンカは買うほうですか。イエス、あたぼうよ。


「……貴様、ふざけているのか」


レオに恐ろしい目つきで睨まれ、リーナは、しまったと背筋が寒くなった。

レオは伝説級のマジックワンドの所持者だ。おまけに超がつく短気だ。

いくらこよなく愛する魔法の杖でとはいえ、生きたままこんがりローストされるのは、さすがにリーナも御免こうむりたかった。


「……賢いの他に、無敵とか最強をつけんか。殺すぞ、この愚か者が」


リーナは、こいつマジか、と呆れた。

なんなのさ、ふざけているのはどっちだ。


「……賢く無敵で最強のレオ殿下なら、お分かりかと思いますが」


あほみたいだが、おとなしく従ってみる。

処世術は、立ち向かうことより受け流すことが極意だ。


「……ふん、緊張を解きほぐしてやるためのジョークだ。ありがたく思え。おまえも、少しは気遣いというものをおぼえるがいい」


……こいつ、本気で殴ってやりたいんだけど……


とリーナは心の中で王子をリングの隅に追い詰め、袋叩きにした。


最初はジャブだ!! ほら、右パンチ!!  おっと左アッパー!!

ちくしょう、やりやがったな!! 倍にして返すぜ!!

フックだ、ボディだ、ボディだ、チンだ!!

ええい、面倒だ!! この辺でノックアウトだい!!


空想のレフェリーストップがかかったところで、現実のレオが、やれやれと言った。


「……貴族の詐称は死刑ものだ。そんなもの常識だ。だから、バレないように完璧な貴族令嬢を演じられるようになれ、そう言っているだろう。おまえには耳がないのか。その大きな耳は飾りか。せっかくかわいい形をしているのに勿体ない。耳は髪と違っていじって形を変えられるものではないからな。親からもらった宝物だ。大事に使え」


少し大きな耳はリーナのコンプレックスだ。

幼い頃、近所の悪ガキどもに散々からかわれ、それ以来リーナの逆鱗になっている。

怒りの炎が火炎魔法の恐怖を上回り、くってかかろうとしたが、思いもよらない続きに、腰が砕けてしまった。王子様顔で、しかも真顔でストレートに褒められては、怒りのテンションを保てるはずなどなかった。本人が褒めている自覚がないのがなお悪い。


「……は、はあ……どうも……どうもです……いや、ほんと、なんと申せば……」


リーナは総会の二次会でお酌してまわる新人のように低姿勢になり、しどろもどろになり、ついにはしゅうっと語尾が尻すぼみになった。


〝……その美形で、真剣な表情はずるい〟


リーナは造形の神の不平等に文句を言いたかった。


鼻につく小馬鹿にしてくる態度が消えると、入れ替わりに憂いが表に出てくるのだ。

王家は美形ぞろいで有名で、レオもその例外ではない。

意識してしまったせいか、耳が赤くなるのが止められない。

乙女心が暴走しそうだ。

レオに褒められて舞い上がっているのかと思われるのがおそろしい。


「……おまえ、さっきから何を赤くなっている。気持ち悪い奴だ。ははあ、さては惚れたな」


レオににやりとされ、リーナの心臓はとびあがりそうになった。


「い、いえ、これは……」


弁明しようとあわてふためくリーナを前に、レオはぐいっと距離を詰めた。

リーナは後退して壁際に追い詰められた。


「……あ……」


レオは、リーナの逃げ場を塞ぐように前に立ち、どんっと壁に手をついた。

いわゆる壁ドンだ。


「……隠しても無駄だ。おまえは気持ちが顔に出すぎる。特別に俺様のカイザーを触らせてやる」


狼狽するリーナにささやくと、レオはばっとジュストコートの下裾をはねあげた。


「ひゃあっ!! ……あれ? おおっ!?」


いろいろ勘違いしたリーナの悲鳴が、興奮の雄叫びに変わった。

黄金のガントレット型の魔法の杖が内側にぶら下げられていた。


「やかましい奴め。カイーザードラゴンの輝きを服の下から感知して興奮していたのだろう、さすがだ。変態。だが、おまえが一目惚れするのもわかる。いい杖だろう、こいつは。……そしておまえは腕のほうもたしかだ。お前の調整、気に入った。俺様の杖専属の魔術整備士になれ。そうすれば、こいつは触り放題だ。そのために貴族令嬢になってもらわねばならんのだ」


「……で、伝説級のマジックワンドが、さ、触り放題……」


傍目にはやばい構図だが、二人とも気にしない。

そして互いに、相手のことを変なやつと思っている。

ある意味、似たもの同士である。


……カイザードラゴンというのは、正式名称ではない。

本当は、王家所蔵魔法杖龍系第三号という。

レオが厨二センスで、痛い名前を勝手につけているだけだ。

リーナは心の中で、ドラたろーと名前を上書きした。


「もちろん、それなりの給金も出す。だが、平民のおまえは今日から捨ててもらうことになる。反魔法同盟と俺様との戦いに巻き込まれ、死亡したことにするからな。おい、どうする気だ。はいかイエスで返事をきかせろ。俺様には時間がない。余計な手間を取らせるな」


またレオのいらいら病がはじまった。


だが、この時点でリーナの心はほぼ決まっていた。

この話を蹴れば、魔術整備士としての未来は閉ざされる。

どのみち魔術整備士ギルドからつまはじきされているあの街で、商売することはできない。今まで誰一人として魔術師の客は訪ねてこなかった。いくらはずれにあるとはいっても、母の高名を考えると不自然すぎる。ギルドが故意に悪口を流し、妨害しているのだろう。

そう思うと、母の名前まで汚されたようで、泣きたくなった。


もう、あの場に未練はない。ただ一つの心残りは……


「……私、死んじゃった扱いになったら、お店はやっぱり人手に渡るんですよね。一度だけでいいんで、お別れしに行ってかまいませんか。母の思い出が詰まった大切な……」


母の笑顔が脳裏によみがえる。


「……ほんとに大切な……」


不覚にも涙が出てきた。


レオはぽんっと慰めるようにリーナの頭に手をのせた。


「……殿下……い、痛いっ……!?」


違った。アイアンクローで頭を締め付けられ、リーナは悲鳴をあげた。

このままでは大切な脳みそが破壊される。


「……俺様の問いに返事もせず、要求を先にするとはいい度胸だ。心配しなくても、おまえの店なら分解して移築することが決まっている。職人にとって慣れ親しんだ仕事場は、モチベーションを保つにも必要不可欠だからな。だが、土地はあきらめろ。さすがに土地ごとは引っ越しできん。返事は?」


「……は、はい!! よろしくお願いします……ぶふぉっ!?」


思いもかけなかった優しさにふれ、感動したところで、顔面にガントレットと最低限の魔道具を押しつけられた。


「ならば、さっそく昨日おまえがした応急処置が安定しているか確認しろ。それぐらいなら、この場でも十分にできるだろう。早くしろ。俺様は敵が多い。一瞬の遅滞が命取りになる。おまえも今後はそのつもりで行動しろ」


レオは見かけほど悪人ではないのかもしれないと、ほだされかけたリーナだったが、二度と錯覚はしまいと決意した。

こんな始終苛立っている人間に、そんな思いやりの心があるはずがない。

不良がたまにいいことをすると、善人に見えちゃう現象と一緒だ。


今だってもう我慢できなくなったのか、私の背後から、乱暴に首に手をまわして懲罰を加えようと……あれ? レオ殿下は、私の真正面に立っている……?


ぐんっと急速にレオのそばから引き離され、首が折れそうになってリーナは苦悶した。


「……ははっ!! 魔法の杖を手放したおまえなど怖くもなんともない!! この機会を待っていた!! 我ら反魔法同盟の最大の邪魔者、レオ王子!! 今、ここで天誅をくだす!!」


リーナを人質に取るようにして叫んだのは、先ほどリーナの着つけを担当したメイドの一人だった。背後から密着し、片手でリーナの首をホールドし、片手には小さな魔法の杖を振りかざしている。


「……反魔法同盟のテロリストめ。離宮にまでもぐりこんでいたか。ふん、だからどうした。いきがって魔法の杖など振り回しても、おまえからは魔力をほとんど感じない。魔術師適性がないものに魔法は使えん。なにをしても無駄だ」


「……それがあるのよ!! 魔力が少なくても使える魔法が!! 自爆魔法なら、魔法陣を起動させる魔力があるだけでいい。あとは魔法の杖が勝手に暴走して、爆発してくれる!! 私たちの覚悟を甘くみないで」


メイドはせせら笑うと、手にした魔法の杖を突き出した。


「魔法のない理想の未来のために!! 反魔法同盟に栄光あれ!!」


……だが、魔法の杖はうんともすんともいわなかった。

魔法陣は起動しない。

愕然としているテロリストに、レオは小馬鹿した笑いを投げかけた。


「……なにをしても無駄と言ったろう。愚か者が。おまえが人質気分で抱えているのは、俺様が直々にスカウトした魔術整備士だぞ。わずか三十秒でカイザードラゴンを調整するほどのな。……ふん、初仕事にしては上出来だ。さすが俺様が必要とするだけのことはある。褒めてやる」


レオの言葉の後半は、リーナに対してのものだった。


「……あの、ごめんなさい。隙間から、ツールの先端をねじこんで、魔力伝達ラインを切断させてもらいました。その魔法の杖はもう使えません」


リーナは申し訳なさそうに、テロリストに、手にした魔道ツールを見せた。

リーナは手探りの勘で、初見の魔法の杖を一発で沈黙させた。

人間技ではなかった。


「バカな……カバーもはずさずに!? ……ちっ!!」


テロリストが懐から新たな得物を出すよりも、レオの動きのほうが早かった。


「こいつは、もう俺様のものだ。俺様専属の魔術整備士だ。俺様のものに許可なく手を出した奴は、女といえど容赦はしない。聞きたいことが山ほどある。が、まずは……這いつくばって詫びろ」


手加減なしの前蹴りを顔面に受け、テロリストはリーナからはじきとばされ、もんどりうつようにして床に転がっていった。白目をむいて気絶していた。


そして、巻き添えになって転倒したリーナは、後頭部をおさえて七転八倒しながら、絶対にレオに心を許してはいけないと、今あらためて聖なる誓いをたてるのだった。



お読みいただきありがとうございます!!

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