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目覚めると、そこは王子様のベッドの上でした(はい、タイトル詐欺です。先に言っておきます)

こんな話にブクマと評価がついてる。

ありがとうございます!!

いろいろな練習を兼ねて、ゆるゆるとまいります。

リーナは幸せな夢を見ていた。


ベッドの布団のぬくもりの中、迎える朝。

穴だらけのシーツを敷き詰めたわらにかぶせてあるだけでも、そこは天国だった。


リーナの家は狭い。

仕事場と寝室は隣接していて、普段は扉は開け放ったままだ。

そのほうが幼い頃のリーナが安心して眠れたから、そして母親が仕事しながらも、リーナの様子を確認できたからだ。リーナは母親が魔法の杖を調整する音を子守唄がわりに、そして目覚めの唄として育った。その習わしはリーナが大きくなってからも続いていた。


のそのそ起き出し、目をこすりながら仕事場にやってくるリーナの足音に、母親は振り向き、作業の手を休めずに笑いかけるのだ。


「おはよう、私の可愛いねぼすけさん。魔法の杖の本を夜更かしして読みふけるから、朝起きれないのよ。早く顔を洗って着替えてらっしゃい。そのあと、一緒に朝食にしましょう」


おだやかな母の声とともにはじまる一日。

いつもの日常。


リーナは笑顔で歩き出し、そして足を止めた。

目の前には誰もいない、がらんとした作業場があった。

朝の光の眩しさが哀しい。


そうだ、優しい母はもう亡くなってしまったのだ。

そして自分が寝坊したのは、本を夜遅くまで読んだからではなく、母親を失った寂しさで、泣き続けていたからだと気づき、もっと悲しくなった。

お母さんと何度も呼びながら、リーナは一人涙を流した。


仮眠しているとき以外は、母の寝ている姿はほとんど見たことがなかった。

リーナを寝かしつけないと母は寝ようとしなかった。そういう母だった。


もっと仕事を手伝えばよかった。

自分にできることで、母の負担を減らせるなにかが、もっともっとあったはずなのに。

ごめんなさい、ごめんなさい。


リーナは心の中で謝り続けた。

濡れた頬を誰かが拭ってくれる。

この家にはリーナ一人しかもういないはずなのに。


……もしかして、今までのことは全部夢で、目が覚めると、目の前にはいつものように作業場に立つ母の背中があるのではないか。自分が泣いていたから心配して、様子を見にきてくれたのではないか。そうだ、あんなに元気だった母が、突然病気で死ぬなんて、どう考えてもおかしいもの。


リーナは寝起きのよく回らない頭で、ぼんやりそう考えた。


「……お母さん、私、ひどい夢を見たよ。お母さんが死んじゃって、私が独りぼっちになっちゃうんだ。それで店もたたむことになって、そのうえ、ひどい王子様が屋根から降ってきて、追っかけてきた人たちを魔法で焼き殺すんだよ。なんなのさーって感じ。ふふ、馬鹿みたい。そんなことあるはずないのにね……」


リーナはくすくす笑った。


口にしているうちに、あまりに非現実的なことを口にしている自分がおかしくなって、笑いがこみあげてきた。


「……ひどい王子で悪かったな。不敬罪でぶち殺すぞ。いつまでねぼけている。これは全部現実だ。あれから丸一日たった。俺様をここまで待たせるとはいい度胸だ。とっとと目を覚まして、頭をしゃんとさせろ。ぐずぐずすると焼き殺すぞ。魔法の杖オタク」


冷たい少年の声で、冷や水を浴びせかけられた気がした。


「ここは離宮の俺様の寝室だ。気絶したうえ、王子の俺様に運搬までさせるとは、よくよくお前はお偉いさんなのだな」


はっとなって飛び起きたリーナは、ごちんと額を細い柱にぶつけ、ぎゃあっと叫んだ。

目から火花が散ったかと思った。


「あいかわらかず騒がしいやつ。だが、急いで頭の中に活を入れようとする姿勢は気にいった。褒めてつかわす」


「こ、これは目覚めの儀式とかじゃないですから……」


リーナは頭を押さえて呻いた。


自分が四隅に柱のついた天蓋つきの立派なベッドに寝ていたのだと気づき、驚愕する。

天井や梁の埃が落ちないよう天蓋をつけたベッドはよその家で何度か見たが、このベッドはそういうものとは次元が違っていた。瀟洒な細工といい、色鮮やかな房付きの幕といい、絵本でしか見たことのない代物だった。部屋の調度品も見たことがないくらい豪華なものばかりだ。


「す、すみません!! こんな高級ベッド!! 今、出ますから!!」


「……出るのはかまわんが、自分の格好をよく見てみろ」


あわててベッドから滑り降りようとしたリーナに、第三王子レオは呆れたように言い放った。


今は黒衣ではなく、部屋にあわせた貴族服を着ていた。

長めのベストとキュロットの組み合わせに、燕尾服の後ろ裾をもっと伸ばし、ひだをつけたようなジュストコートの服装だ。たっぷりとした袖口は飾りの役割も兼ねて大きく折られている。青が基調だが、プラチナブロンドの髪とプラチナ色の瞳によく似合った。そうしていると正真正銘の高貴な王子に見えた。高笑いして刺客たちを焼き殺した人間と同一人物とはとても思えない。


……格好とな?


レオの言葉に目をおとしたリーナは、自分が粗末なシュミーズ一枚しかまとっていないのに気づき、羞恥の悲鳴をあげた。きちんとした身なりりレオの前にさらすには恥ずかしすぎる姿だ。だが、シーツで身を隠そうにも、高級すぎる真っ白なリネン生地を引き寄せると、しわくちゃになってしまうのではないかと怖くなり、膝を抱え込むように背を丸め、身を隠すことしかできない。


「……ふん、お礼のつもりなのかもしれんが、無用だ。おまえの貧相な身体になぞ興味はない。必要なのはおまえの魔法整備士としての腕だ。それとシュミーズだけを着てそんなポーズをするな。そういうのを頭隠して尻隠さずというんだ。シーツが嫌ならこれで隠せ。見苦しいモノを見せるな。おまえは、まず礼儀作法を学ぶ必要がある」


ジュストコートを脱ぐとリーナに放り投げ、レオはあきれ顔をした。


貧祖な身体とは失礼な、このスレンダーボディに!!

と食ってかかりたいところだが、今回は分が悪い。

リーナきばっとはねおき、女の子座りをして、シュミーズの下裾を限界いっぱいまで引き下げた。


一番肌に近いシュミーズの下には、当然なにも履いていない。リーナのシュミーズは膝丈ほどしかない。体育座りに近い形を取ればどうなるか一目瞭然だ。レオに指摘され、リーナはまっかになった。


「……ごめんなさい」


「少しは娘らしい自覚をもつべきだな」


「努力します……」


ジュストコートを引き寄せ、コートの背中側をレオに向け、ぐるりと自分を囲むようにしてリーナは身を隠した。曲面の盾のような形になった。

ジュストコートには広げた下裾の形を保つため、骨が入っているようだ。崩れず半ば形を保ったままなので、後襟からリーナの頭のあほ毛だけが、ぴょこんと飛び出し、ススキの穂のように揺れていた。


ひょっとして暴龍王子の通り名と違い、レオは女性に優しいのではないか。


なにより、どこからも必要とされなかったリーナに、必要だと言ってくれた。

一緒にこいと言ってくれた。

それこそ、ずっとほしかった言葉だった。


泣いていたはずの自分の顔が濡れていないのに気づき、リーナの頬が熱くなる。

さっき誰かが涙を拭ってくれたけど、もしかして……

魔法の杖オタクとはいえ、リーナも乙女であり、ロマンチックな夢をみるのは嫌いではなかった。


「……おい、俺様とそのあほ毛を会話させる気か? とっとと顔ぐらい出せ、この無礼者が。殺すぞ。それとなんでもかんでも謝るな。馬鹿にされているようでむかつく。ぶっ殺すぞ」


ロマンチックは十秒で砕け散った。

レオは腕組みをし、いらだたしげに、片足の爪先で床を蹴り続けている。

起立したジュストコートの囲いから、リーナはあわてて顔を出した。


……お母さん、私、自分のことを俺様っていう人、はじめて見たよ。

しかも、王子様なんだよ。好きなお言葉は、殺す、だって。

あははあっ、この国の行く末が不安でしかたないよ。


リーナは心の中で、母に語りかけた。


殺すという野蛮な言葉を連発するこの厄介な王子様に連行されたことが、凶になるか大吉になるか、まるで予想がつかなかった。



読んでいただき、ありがとうございました!!

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