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第七章「疑念と納得」

私は理解をした。されど、納得はできなかった。

第七章「疑念と納得」


表情が固まったようにしている保内を見ながら、佐々木は彼の言葉を待った。

八木の協力者の存在。井上から聞いた話の真偽。

その回答を待ちながら、保内の顔を見続けていると、その顔は変わらず苦虫を潰したようなままであったが、何かを思案しているようにも見えた。


それほど待たずして、保内は、口を開いた。

「八木の協力者については、現在調査中です。10年以上の期間、逃亡生活を続けるのは、八木の独力だけでは難しいの確かではありますので、誰かの協力があった可能性も考慮はしております。」

先程までの顔には似つかない、どこか平坦な口調で保内は回答した。

嘘か真か、その表情からは判断はつかなかった。


井上の情報を話すかどうするか、佐々木は少々思案に暮れたが、すぐに保内の顔を見直し礼を述べた。

まだ禄に裏も取れていないこの状況で、何かを探れるとも思えなかったのである。


「また捜査に進捗があり次第、ご連絡はさせて頂きます。」

保内は、どこかほっとした顔で佐々木を署の外に送り届けると、最後にそう述べ、立ち去って行った。

佐々木は、それを見送ると、浅井との待ち合わせ場所に向かった。


待ち合わせ場所の喫茶店に近づくと、浅井がこちらに気が付き、すぐに店から出てきた。

「ずいぶんかかったな。どうだった?」

浅井は、いつもと同じような調子で声をかけてきた。

「まだ、気持ちの整理はつきませんが、少しすっきりしました。ありがとうございます。」

佐々木はそれに応えながら、礼を述べる。

何ともあれ、この場を作ってくれたのは浅井なのである。感謝の意を示すべきではあろう。


浅井は、こちらをじっと見ると、そのまま車に向かいながら、帰るぞ。と声をかけてきた。

佐々木は、それに応じて、車を出して帰路についた。


浅井の家につき、浅井を車から降ろす頃には、日は完全に落ちていた。

浅井と、お休みの挨拶を交わすと、佐々木は帰路に就いた。


ふと車内の時計を見ると、時間は20時を回ったところであった。

目についたコンビニの駐車場に入り、車を止めてしばし思考をする。


佐々木は、今日、八木と出会えたこと自体には、満足をしていた。

八木の現状を知れたこと。

八木は罪を認めていること。

そして、八木という男は、夢の中で自分が恐れるほどの存在ではなかったこと。


これらを確認できたことで、佐々木は、ある種の安心感で心が満たされていくことが実感できた。

自身をここ数時の間脅かし続けていた、八木という男の幻は、今消え去ったのである。


しかし同時に、小さな不安が佐々木の心に残っていた。

取り調べの時に八木が一瞬見せた、弱弱しい表情とは、また別の計算高い表情。

逃亡生活について聞かれた時に見せた、何かを思案しているようなあの表情。

八木という男の本質はどこにあるのか。

それを掴めきれず、確信できないことが、佐々木に一抹の不安を与えていた。


『協力者』という言葉。

そして警察である保内のどこか煮え切らない態度。

佐々木は、今一度深くため息をつきながら今日のことを振り返り、思案をする。


もう一度時計を見る。

時間は20時10分を過ぎたあたりであった。


そして佐々木は意を決したように名刺入れを取り出すと、その中から井上の名刺を取り出し、そこに記載がある電話番号に電話をかけることにした。

20時過ぎ。急な電話をかけるには、やや礼を失した時間かもしれなかったが、3コール目で相手が出た。


「はい。もしもし。」

井上は、少々不機嫌そうな声で電話に出た。

「夜分遅くにすいません。佐々木ですが。」

「あれ?佐々木さんですか。いやあ、お電話をお待ちしていましたよ。」

しかし、佐々木が自身の名前を告げると、急に態度が変わり、一転上機嫌な声で対応をしてきた。


「急ですいませんが、先日お会いした時にお伺いしたことで、詳しく聞きたいことがありまして、今からお会いしたいんですが。」

「はい、大丈夫ですよ。それじゃあ、先日お会いしたスーパーのお近くの、ビッツという喫茶店はご存知ですか?」

その店の住所を聞き、佐々木は30分後ぐらいには迎えると伝えると、井上は店で待っていますと答えて、電話が切れた。


店の所在地をカーナビに入れて、一息をつくと、佐々木は車のアクセルを思いっきり踏み込んだ。

賽は投げられた、後は突き進むしかない。


井上との待ち合わせの店は、大通りに面した立地で、中はモダンな落ち着いた空間となっていた。

店に入ると、奥の席にいる井上がこちらに手を振り、場所を知らせてくるのが見えた。


席に向かうと井上はコーヒーを飲みながら待っていた。

テーブルの上には、ノートパソコンや手帳が置かれており、仕事をしている様子が伺えた。

佐々木は、井上に向かい合うように座ると、注文を取りに来た店員にコーヒーを頼み、改めて井上の顔を見た。

「いやあ、佐々木さん。まさかこんなに早くお電話を頂けるとは思いませんでしたよ。」

井上は、こちらの顔を見るといつもの軽快な感じで声をかけてくる。

佐々木は、その言葉に曖昧にうなずきながら、注文の品が来るのを待つことにした。


程なくして、店員がコーヒーと伝票を持ってくる。

佐々木は、自分の前に置かれたコーヒーを一口飲むと、口火を切ることにした。


「先日お会いした時にお伺いした、八木の協力者の件で詳しいことを聞きたくて、今日、ご連絡をしたのですが。」

単刀直入に井上に用件を伝える。

井上は、それを受けるといつもの調子で笑いながら、返事をしてきた。

「あぁ、この間の協力者の方の件ですか。えぇ、あの後取材もしましたし、近々記事にする予定ですよ。」

そういいながら、井上はテーブルの上に置かれたノートパソコンを軽く叩く。

さっきまでキーボードを叩きながら、その記事を作っていたのだろうか。

だが、井上が佐々木が求めている情報を持っているのは、確かなように思えた。


「それは、誰なのですか?」

佐々木は、井上の顔をしっかりと見据えながら質問をする。

すると井上は、その視線を受け止めながら、いつもの調子で言葉を返してきた。

「いや、それは言えませんね。個人情報の兼ね合いもありますし、まだどこにも発表していない校正前の記事なので、お見せすることも難しいですよ。」

「そこを何とか聞かせてもらえないですか。」

「いやいや、佐々木さんのお頼みでも、こればっかりは難しいですよ。」

笑いながら、軽い調子でありながらも、井上は頑なに情報提供を拒んできた。


しかし、佐々木は引くわけにはいかなかった。

今日、八木の実態を見て自身の中の思いはだいぶ薄れてきた。

そのような中に一抹の不安を残した状態を継続はしたくはなかった。

全ての要素を解決し、納得する形で一日を終えたかった。


しつこい佐々木の様子に、井上も只ならぬものを感じたのだろうか。それとも相手にするのが面倒になったのだろうか。

井上は、では差しさわりのない範囲だけ。と前置きをしたうえで話を始めた。


「そもそも、八木の協力者ともいうべき存在は、既にお亡くなりになられております。」

井上は、淡々と八木の協力者について話しだす。


「そのため、私の記事も、その方の遺族からの聞き取りや生前の記録等を基に形成されており、不確かな部分がある点は、ご理解の上、お話を聞いてください。」

佐々木は、その言葉に頷いた。


それを確認し、井上は言葉を続けた。


あの事件の後の、八木の逃亡生活の全容は、未だに解明はされていなかった。

しかし、時折、八木が関わっているであろう盗難事件等が確認されており、それで彼の逃走ルート等については絞られていた。

ただ、ある一時、八木の活動が一切不明な時期があった。

八木が起こしたとみられる盗難事件等もなく、八木の痕跡が全く見えない時期。

その時期に、協力者という存在がいたのだろう。

少なくとも、八木が窃盗等の軽犯罪を行わなくても、生活をできる基盤があったとみるべき時期である。


そこまで話、井上は一息をついた。

佐々木は、次の井上の言葉を待つ。

井上は、改めて口を開いた。


「八木を庇っていた存在、それは恐らく警察も知っています。」

佐々木は頷く。今日の保内の反応は、協力者に心当たりのある人間のそれであった。

「それでも、そのことを未だに公表しない理由は、単純です。事前にしっかりと裏取と根回しをしたうえで、万全の状態で発表をしたいのでしょう。」

佐々木は、次の言葉を待った。


「八木を庇った存在。それは、未成年のとある子供です。」

井上は、そうして協力者の具体的な正体を語り始めた。


~第八章へ続く~

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