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DEPARTURES  作者: 冷麺
SEASON.Ⅰ『PROJECT D.I.C.E』―漸ノ篇
3/6

Episode.03:来訪者

 放たれた銃弾は、空気を裂き棺山の心臓を貫こうとする。弾丸はそのまま彼女の心臓を貫いて背後の壁に埋もれた。心臓を貫かれた彼女は、ごはッという声と共に、口から血を吐き出す。


「やだなあもう、マジじゃん、ちょっとは手加減しようよ」

「うるせえ」


 引きつった笑みを浮かべながら、彼女は前に立つ赤いコートに身を包んだエージェント13に言う。そんな彼女をものともせず、彼は再び銃弾を放った。四発の銃弾はそれぞれ彼女の顔面に一発、胸に二発、腹に一発撃ち込まれる。

 銃弾を撃ち込まれた棺山は、そのままその場に倒れ込むと、傷口から真っ赤な鮮血が溢れ出て、その場に血の海が生まれる。それを見て彼女の死を確信したエージェント13は、そのことを報告しようとスマートフォンを取り出す。その時、自分の背後に強烈な殺意を感じ再び彼女の方へ向いた。


「お前……なんで……」

「なんで? なんでかあ……そりゃ、見たら分かるでしょ。私は吸血鬼。タキさんのそんな銃弾で何発撃たれようが、私は死なないの。残念だったねェ」


 狂気的な笑みを浮かべて、彼女はぎこちなく立ち上がると、エージェント13によって撃たれた傷口は蒼い粒子を放出しながら修復されていく。

 【急速再生】――。吸血鬼のみが使用するパッシブスキルの様なものである。人間の血を摂取した際に産まれるエネルギーによって、傷口の再生を加速させることによってどんな傷も再生してしまうのである。


「『孤独(ダーティ)(ドーグ)』」


 彼がそう呟いて銃を持っていない片方の手で指を鳴らすと、壁にめり込んだ一発の銃弾と、他の床にめり込んだ銃弾から雷が発生し、棺山の頭上を円形に雷が走る。


「銃弾で死なないなら、こっちの雷で死ぬまで痺れさせてやるよ」


 彼の右目が黄金に輝きだす。

 雷はそのまま棺山に向かって空を走る。そして雷は彼女の身体に感電し、そのまま体を電流によって黒焦げにされる。が、その傷すらも瞬時に再生される。


「ああ痺れるゥ~。じゃあ次はこっちね」


 彼女は懐に持っていた小さな箱からタバコを一本取り出すと、それに火を点けてふう、と煙を吐き出す。そしてタバコを口に咥えたまま魔術の行使を始めた。


「炎魔法――『(レッド)(ドラゴン)』」


 タバコの煙はやがて真っ赤な炎へと成長し、まるで竜の様なうねる動きをしながら、エージェント13に向かって突き進む。彼はその場にあったトタンの板でそれを防ぐ。しかし、その炎の温度は当然高いもので、徐々にその板が溶かされていた。


「あっちいなクソボケが」

「だって炎だし。仕方なくない?」


 棺山がそう言った瞬間、彼は彼女の咥えてるタバコ目掛けて銃弾を放った。間一髪でそれに気付き彼女はそれを避ける。


「あっぶな!」


 珍しく驚愕した表情で言う彼女。同時に彼女の炎の魔術も一旦解除される。彼は一度舌打ちすると態勢を整えると再び電流を操り、棺山を狙う。が、彼女もまたタバコの煙をふかして、『赤い龍』を再び行使する。電流はその炎によって相殺され、より強大になった炎が彼を襲う。

 エージェント13は、銃弾を自分の手前に何発か撃ち込むと、そこから雷の壁を生成し、炎を受け止める。彼自身の最大出力でその壁を生成したので、ギリギリではあるが彼女の炎を受け止めていた。


(ちゃっちゃとあいつの口にあるタバコをぶっこわしてやりたいが……。中々手が届かねえ。クソが。何発撃たれようがあいつは死なねえし……。ボケが。よりにもよってなんで吸血鬼なんだよ、上ももうちょい俺に対策準備する時間くらい寄越せや。クソボケが)


 炎を雷の壁で受け止めながら彼は思考を巡らせる。

 彼がここまで棺山の口にあるタバコを狙うのには理由がある。

 魔術師とは、地球に溢れる魔力を使用し、魔術を行使する。その際、家に流れる電流をコンセントで媒介して携帯電話を充電するかのように、魔力を魔術へと媒介するための器具の様な物が必要なのだ。

 稀に自身の身体を魔力媒体としている魔術師も居るが、大抵の魔術師は媒体にする器具を持っているのだ。それが、『魔具(デコイ)』と呼ばれるものである。『魔具』は、自身の思い入れのある物体……例えば、神父であれば十字架、警察官であれば警棒など、その姿かたちは左右されない。自身にとって扱いやすい物であれば、なんでも『魔具』となる。

 棺山の場合――あの口に咥えられているタバコがそれに該当する。それさえ破壊すれば、代わりのタバコがあるとはいえ、彼女の魔術行使を一時的には止めれるのだ。


「ねえねえタキさん、私そろそろ時間だから出かけて良い?」


 突如、彼の耳元で彼女の声が入ってきた。それに驚き、彼は振り返る。が、しかし、そこに彼女は居ない。その隙を、彼女は逃さなかった。

 

「炎魔法――『(レッド)死槍(デッドランス)』」


 ロンギヌスの槍の如く、鋭く長い炎で出来た槍が、彼の腹部を貫いた。同時に、彼の口から鮮血が溢れる。そして、その場に膝を着くように座り込む。


「はい、さっきのお返し。でもほら、大丈夫大丈夫、タキさん、それくらいじゃあ『死ねない』でしょ?」


 彼女はタバコをぽいと捨てると足で踏みつぶして火を消した。彼はもう一度血を吐くと、苦痛交じりの表情で彼女を睨みつける。


「お前……一体何やりやがった……」

「ええ? 教えてほしい? どうしよっかなあ――」


 彼女がニコリと笑うと、刹那――。エージェント13の耳に入る全ての『音』……風が気を揺らす音、工場の柱が軋む音、自分の心臓の鼓動、棺山の喋る声――そう言った音が瞬時に消え去ったのだ。


「…………⁉」


 彼は一瞬動揺するも、瞬時に理解した。魔術の陰に隠れて、吸血鬼としての能力――【血能(アビリティ)】も持っている。そして、その能力こそ、『音を操る能力』であると、彼は判断した。故に、先ほどの耳元で囁いてるように聞こえたのは、自身の声を操ってあたかも近くで囁いている様に偽装したのだ。


「成程……『音を操る能力』……か」

「大正解~! 『拡張音静(バーストマイク)』。それが私の能力の名前。じゃあ、私行くから。ま~た~ね~」


 手をふりふりさせながら、彼女は去ろうとする。すると彼はわずかな力で雷を彼女に向けて飛ばす。が、棺山はそれをいとも容易く避けた。そして、再び彼の方を見る。


「おい……お前、何をやるつもりだ……」

「ん~? 何をやるつもりか、か……そうだなあ……昔のよしみでちょっとだけ教えてあげちゃおうかな。私達がやろうとしてるのは、『クリフォト』の最終目的に繋がる大いなる計画――その名も、『プロジェクト・ダイス』」

「――『プロジェクト・ダイス』……?」


 初めて聞くその名前に、彼は疑問符を脳内に浮かべる。

 『クリフォト』の最終目的――それは、管理化された魔術を再び解放し、世界に魔術を取り戻す。そして、魔術師以外の人間を滅ぼすといった、壮大なる目的。

 そして彼女の放ったカギとなる言葉、『プロジェクト・ダイス』。それは、クリフォトの最終目的へ繋がるものだという。


「どういった計画なのか……それはどうせユグドラシルも調べ出す事だろうから、あえて言わないでおくね? 謎解きゲームで、答えを先に知っちゃうのはチートだしさ。ああ、それともう一つ――」


 再び彼の耳元に声が聴こえるようになる。


「『ユグドラシル』には裏切り者が居る――」

「……なに?」


 エージェント13は驚愕の表情を浮かべる。その顔を見ていた棺山は再びにっこり笑うと、黒いヤミを身に纏わせ、瞬時にその場から消えた。同時に、彼の心臓の鼓動はゆっくりとなり、今にも事切れそうになっていた。


「ユグドラシルに……裏切り者、だと……?」


 そう呟いた途端、彼の心臓は鼓動を止めた。同時に、彼はその場に仰向けに倒れ込む。がちゃんと銃が地面にぶつかる音が、工場内に響く。数秒後、工場の屋根を貫いて雷が彼の身体に落ちる。バチバチと大きな音を鳴らして彼の身体に電流が纏わる。すると、事切れたはずのエージェント13は再び目を覚まし、立ち上がった。棺山に貫かれたはずの腹部も、既に修復されていた。


「これで通算664回目の死亡――。本当に慣れねえな、死ぬってのは――」




 Episode.03 来訪者




 一方、時間は少し巻き戻り東京都のほぼ中央に位置するユグドラシルの日本支部ビル――。

 突如『鎌鼬』と呼ばれるイタチを従え現れた軍服の少女・帝坂臨(みかどさかのぞみ)を、七旗たちはとりあえずそのユグドラシルの日本支部の拠点であるビルにまで連れてきて尋問をしていた。


「だからァ、言ってるじゃないですか。ワタシは『妖狩り』で、この子は『鎌鼬』。ワタシは『十三隊』という組織に所属する、副隊長ですって。お願いだから早く出してくれません? ワタシ、戻らないといけないんです。帝都に」

「分かった、分かったから! 今その裏どりして本当かどうか調べてるんだから! それが済んだら帰り方探すから!」


 淡々と己の事情を喋る帝坂に七旗は疲労困憊していた。

 突如現れた過去の住人の死体、そこから発生した骨の蜘蛛の形をしたバケモノ、そしてそれを瞬時に切り裂いたイタチのバケモノ、そして時代に似合わない服装をした少女(刀持ち)。たった数時間の間にこれ程色々起これば、エリート捜査官とよばれる彼も疲れるのは確かだ。


「別に嘘は言って無さそうな感じやけどなあ? ええ加減解放したったらええんちゃうの」


 壁にもたれかかりながら刑聖(けいせい)はどうでもよさげな感じで呟く。が、七旗はそれを振り切って彼に言い返す。


「あのなあ、もしこのまま何もせずに野放しにして何かこいつがやらかしてみろ、責任問われるのはあの場に居た俺含めた捜査官全員だぞ? 無論お前も含まれるからな、刑聖!」

「普段から職権乱用しとる奴が今更何言うてんねん」


 呆れた顔で彼は七旗に言う。


「ハァ、ワタシは人斬りなんてしませんヨ。それは軍人さんのお仕事でせう? ワタシのお仕事は妖を狩る事、さっきの『がしゃどくろ』みたいに」

「『がしゃどくろ』?」と、刑聖が訊ねる。

「ヱ〃、ヱ〃、『がしゃどくろ』――。野垂れ死んだヒトから生まれ出る骨の妖、あれはその亜種と言える『蜘蛛どくろ』。ホゥラ、見た目、蜘蛛みたいだったでせう?」

「聞いた事ねえよ、『蜘蛛どくろ』なんて」


 はあ、とため息を吐いて彼は言う。

 

「で、あいつの言ってる事は裏取れそうか?」


 尋問室にお茶を置いて、彼と刑聖は一時的に退室し、ユグドラシルのこれまで収集したデータを検索する飴田(あめだ)(エージェント774のこと)と御影に訊ねる。しかし、二人とも出ごたえが無い様だった。

 刑聖は「上から呼ばれた」と断りを入れてその部屋から出て行った。


「第二次魔術大戦以前の大和帝国の記録は殆どアメリカが持ってっちゃってるんですよ。しかもそれ未だに秘匿されててユグドラシルのデータベースにも載って無くて。一応、都市伝説レベルには関わりがありそうな話はあるんですけどね」


 パソコンの前で大きく伸びをして飴田が言う。


「まあなんでもいい。で、それはどんなんだ?」

「『731部隊』、その前身ともいえる『帝国秘匿兵器開発部』と呼ばれる存在です。第一次魔術大戦勃発前、来る侵略戦争に備えた当時の大和帝国が秘密裏に設立したとされていて、とある新種の細菌や細胞、病原菌を配合したモノを生物に組み込むことで生物兵器を生み出した、とか――」


 御影がそう言うと、彼は大きく頷いた。


「なるほどねえ、まあ、それが本当に真実なら……あいつの言ってる事もまあ分かる気がする。が――。その十三隊とやらあのイタチについてはまだ不確かだ」

「もういいじゃないですかあ、どう見たってあれ『妖狩り』ですよ『妖狩り』」

「データベースにも記録されていない存在、十三隊、そして妖狩り……。そうだな、ダメ元であいつに聞いてみるしかないな……」


 考え込みながら彼は呟く。


「あいつ?」と、飴田が訊ねる。

「一応いるんだよ。知り合いに、『自称』妖怪ってやつが」

「――それ、ただのイタい奴では?」

「かもしれないが……。一応、異能っぽいのは持ってるからなあ。まあ、ダメ元だ。ちょっくら行ってくるわ」


 そう言って彼は手を振りながら部屋を出て行こうとする。


「その、『自称』妖怪って誰の事ですか?」

「そいつの名は――……貌無(かをなし)(あくた)




 To be continued...

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