92.エリカ乱入!
突然、後ろから表れて護衛隊の無力化宣言をされてしまったけど、一体どうやったというのだろうか。
「ミラ、一体どうやって、護衛隊を無力化したんだい?
まさか・・・・!?」
「いいえ。
一人も殺してはおりません。」
少しだけ安心した。
「では、どうやって?」
ポールが眼光鋭くミラを睨みつける。
「簡単です。
睡眠薬を井戸と手渡した飲料に流し込みました。
私から、ソフィーお嬢様の命令だと告げると、誰一人疑わずに飲み干しました。
眠りに付くまで確認してから参上しましたから、間違いありません。」
どーしてそーゆー余計な仕事にはキッチリと最後まで確認してくれちゃうかな、このメイドはっ!!
僕は頭が痛いやら泣きたいやらで、イラっときたけど、今は我慢だ。
何せ、前門のソフィーに後門のミラという状況だ。
「若。すみませんが、私がお嬢様の足止めを致しますから、若にはミラの相手をしていただいても?」
ポールがそう告げ来た。
確かに、非力な僕がソフィーと闘っても、すぐにでも無力化されちゃって、いつぞやみたいに拉致監禁コースなんて、絶対に嫌だ。
ミラはソフィーと同じ年だけど、ソフィーよりは戦いやすいかもしれない。
正直、ミラの戦闘力って知らないんだよね。
でも、ソフィーよりはマシなら、僕にだって玄関扉を開けて、脱出するチャンスくらいはあるかもしれない。
良し、ワンチャン賭けてみるか。
「分かった!
ポールも死ぬなよっ!!」
「御意!」
ポールが素早くソフィーの戦棍を躱しながら、懐へ飛び込む。
「長物の武具は、懐へ入り込まれては殺傷力が落ちます!
お嬢様! 今すぐ武器を捨てて大人しく投降してくださいっ!!」
ポールが声高らかに告げる。
「あーら・・・・、懐に入ったくらいでぇ・・・・なぁにぃをぉぉぉぉぉ?」
ソフィー。
声が低いぞ。
怖いぞ。
「なっ!?」
まさかのポールごと戦棍の柄の長い部分でギリギリと締め付けて、押しつぶすかのような動きを始めるソフィー。
しかし、ポールも黙って殺られる男では無い。
「ハっ!」
筋肉を瞬間的に増大させたかと思うと、僅かに出来た隙間から飛び出して抜けてしまう。
うん。
あまりにも非現実的すぎるけど、目の前で見ていた僕でさえ信じがたいけど、本当にそうしたんだからしょうがない。
そっか、ソフィーとポールの戦闘って、非現実的すぎる闘いだったのかー
屋敷中の者たちから「ポールさんさえ居れば、ソフィーお嬢様と互角に戦えるはず」って噂は、この事だったのかー
直接見た今でさえ、非現実的すぎて信じられないけど、ここまでとは知らなかった。
「お嬢様!
参りますぞっ!!」
「いいわよー・・・・いつでぇもぉ・・・・ 掛って来なさいっ!!」
ソフィーの片眼が一段と強く赤みを増して輝いて見える。
なんか真っ赤な炎とかみたいで怖いなぁ。
「さて、アーデルハイド様。
投降なさるなら今の内です。
お嬢様もきっと寛大な処置を持って・・・・。
コホン。
きっと、それなりに?
多分・・・・それなりだと良いですけど・・・・。」
「ミラっ! 自分で信じてもいない事を僕に言おうとするなよっ!!」
どんどん酷くなっているぞ。
一体投降したらどれだけ惨い目に合わなきゃいけないんだよ。
僕が!?
「ええ、とりあえず、どんな目に合っても構いませんから、投降してください。
そうすれば、少しはお嬢様のお気も慰められるかもしれません。
可能性ですけどね。」
「お前なぁ・・・・。」
そんな理由も不明な状態での投降だなんて、絶対にお断りだ。
こうなったら、一分一秒でも良いから、ソフィーとミラの二人に捕まらないようにしなければ。
僕の身に何が起こるか分からないという、底知れない不安しか見当たらないじゃないか!?
「そんな不確かな情報よりも、何故ソフィーがこんなに怒り狂っているのか、その原因を知っているなら教えてくれよっ!!」
イライラして、つい声を荒げてしまった。
「良いですよ。」
「へ?」
いつもと変わらず、無表情に近い顔で、なんでも無い事の様な返事に、僕の方が呆気に取られてしまった。
「そもそもは、エリカ様からの手紙が原因で、ソフィーお嬢様はお怒りになってしまわれたのです。」
「エリカからの手紙だとっ!?」
僕の預かり知らない所で、一体何が起こっていたというのだろうか?
全く見当も付かないエリカの名前に、僕は一瞬だけど茫然としてしまった。
「あら。私の名前を軽々しく出さないで欲しいわね。」
エリカだとっ!?
突然背後から声を変えられたミラが、驚愕に目を見開いていると。
「フン。メイド如きが私の道を邪魔するなんて許されないわ!」
ブンっと軽く拳を振ったとしか見えなかった。
ところが、ミラがポーンと吹っ飛ばされてしまったから、今度は僕が目も口もポカーンと開けて驚いてしまう。
「え、エリカ?」
「ええそうよ。アーデルが危ないと聞いて、急いで駆けつけたのよ。
その様子では、どうやら間に合ったみたいね?」
エリカの後ろには、リンデンブルグ侯爵家の手の者たちが大勢犇めいていた。
「護衛兵たちの詰め所にも立ち寄ったけど、全員眠らされているみたいで、誰も呼びかけに応じてくれなかったから、仕方なく勝手に入らせてもらったわ。」
煩わし気に肩甲骨迄伸ばしている赤紫色の髪の毛をクルクルと手で弄びながら、僕の方へと向かって歩いて来るエリカ。
「え・・・エ・・・リ・・・カ・・・・お・・・姉ぇ・・・・ちゃ・・・ん・・・・っ!!」
その姿を認めた途端に、ソフィーが怒りを爆発させた。
狂戦姫モードでただでさえ戦闘力が上がっているというはずなのに、エリカの姿を見た途端に、先程までの怒りを更に突き抜けて、火に油が注がれたみたいに怒り狂いながらポールを素早く躱して、突っ込んでくる。
このままでは、エリカの命が危ない!
咄嗟に僕が前へ出て、エリカを庇おうとする姿勢になってしまった。
「どいて!! アーデルお兄様っ!!
ソイツを殺せないっ!!」
やっぱり殺すつもりだったんだ。
危ない所だった。
「待てっ! ソフィー!!
落ち着いてくれっ!!
僕には全く意味が分からないんだ!!
せめて、せめて状況を説明してくれよっ!!」
必死で説得してみる僕。
ソフィーはフーっフーっ!と激しく呼吸を乱しながら、目まで血走ってエリカを睨みつけている。
「フン。所詮はアンタにはアーデルハイドなんて勿体なかったのよ。
だから、私が貰ってあげるわ。
安心なさい。アンタの嫁ぎ先だって、私が決めてあげるから。」
どういうことだ。
聞けば聞くほど、さっぱり状況が分からないだなんて。
「殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺スーっ!」
ソフィーが叫び声を上げながら、僕の静止を振り切って、エリカ目掛けて矛の部分を突き刺そうと突撃する。
今度こそエリカがソフィーの手で殺されてしまうだろう。
そう思って、後ろからソフィーの服の端でも良いから掴んで止めようと思ったけど、こんな時って、スルリと逃げて掴めないんだよね。
僕はエリカの方を見た。
「フン。直情的過ぎるわね。」
そして、次の瞬間に、ミラの時と同様に、ソフィーが吹っ飛ばされる瞬間を見てしまった。
「え?」
そして、当のエリカはなんでも無い様に、僕へ一言だけ。
「さ。アーデル。
ここは危険だわ。
貴方を保護するから、私の屋敷へ来て頂戴。
あ、断っても無駄だから、拒否権は無いわ。」
「ハイ?」
今度こそ、頭が真っ白になりそうだった。
ソフィーまさかの敗退です。
理由は次回!




