87.その届け物。危険につき・・・・。-ソフィーからの贈り物-
ソフィーからの指示を受けて、白髪頭に赤眼のメイド少女ミラは、王都中心街にあるソフィ―個人所有の『プロネシス商会本店』にある一室に、同年代の少女たちを集めていた。
いずれも劣らぬ美少女ばかりだが、その全員が『アーデルハイド親衛隊』に所属しており、噂好きとは裏腹に、口の堅さも審査基準になっている『黒百合部隊』と呼ばれる情報集めに特化したソフィー直属の者たちだ。
「それでは、皆さんはこれまで通り、噂話や情報収集に努めてください。
有用な情報には、これまで通り相応の対価を支払います。
また、今回は王族も関わっているようなので、王族関係の情報で真偽が確認できたものには、特別報酬を上乗せするとお嬢様からのご指示です。」
慣れた様に、ミラが説明すると少女たちは異口同音に応えた。
「「「「「了解しました!」」」」」
ミラが満足気に頷くと、少女たちは足早にそれぞれの学園寮や家へと帰って行った。
◇
その翌日。
休講も目立つようになった王立学園の大広間には、男女合わせて600名ほどの学生たちが集まって席に着いていた。
ステージ中央に設けられた講壇には、ソフィーの姿があった。
「皆さん。本日はよく集まってくださいました。
私から皆さんにお伝えしたいのは、これから試練の時が訪れるでしょうということです。
試練とは、先には私の前任者であるレベッカ会長が、アーデルハイドお兄様との婚約を公表することで、一時的とはいえ、婚約者という立場に立とうとしました。
しかし、これは私の介入によって、打ち砕くことができましたわ。
しかし、今回は、私でも跳ね返すには厳しい相手が仕掛けて来るでしょう。
皆さんには、選択の自由があります。
これまで通り、私を会長と認めて親衛隊に留まるか。
新たな婚約者と名乗る令嬢に従い、アーデルハイドお兄様の側室や愛人になる可能性を拓くという選択肢があるのです。
私は強制しません。
これまで通りのルールも変えようとは思いません。
でも、これだけは覚えておいて欲しいのです。
私に従う者には、まあ、お兄様への告白くらいは認めましょう。
その代り、これまで通り、告白して受け入れられなければ、諦めてもらいます。
恐らく、新たな婚約者候補の令嬢も私と同じ条件を挙げるかもしれません。
それならば、私の敵対者となる令嬢に味方する者には、告白の機会さえ与えないと宣言しておきます。
これが、今回皆さんを集めた理由であり、私からの宣言です。
期限は、お兄様の婚約者からの婚約発表後から2日以内とします。
この期限内に、意思表示をしない者は全て敵対者と見なします。
では、これで今日の集会を解散とします。
お集りいただいて、ありがとうございました。
では、ご機嫌よう。」
それ以上の説明も特に無く、一方的に宣言して集会は閉じられてしまった。
集会の場に参加していた親衛隊員たちは、ザワザワと互いに所感や戸惑いを交換し合っていた。
そんな中に、ティファニーとイヴォンヌの姿も見受けられた。
「なにーあれ?」
相変わらず気だるげに語尾を伸ばしながら隣のティファニーへ問いかけるイヴォンヌ。
「んー 要約すると『新しい婚約者が表れるでしょうけど、そっちに付くなら告白権利も取り上げるけど、会長に味方するなら、告白くらいは認めてやる』ってことじゃない?」
「それってー 会長が自分で不利だって認めてる様なものじゃないー?」
「そう見えるわね。」
常ならば、決して弱みと見られるようなことを発言したりしない親衛隊会長のソフィーが、「厳しい相手」と表現した上に、その敵対者に味方するならば、アーデルハイドの側室や愛人としての可能性も拓けるかもしれないと言うのだ。
まるで、自分たち親衛隊員を試すかのような一方的な宣言に、その場に居た者たちはしばらくの間、尽きない議論を繰り返したのだった。
◇
ソフィーが『アーデルハイド親衛隊』を招集してから、数時間後の王都伯爵邸にて。
午後の授業が休講となっているため、昼食後には屋敷へ戻っていた僕は、帰宅した時にソフィーが不在だったことに気が付いていた。
「ポール。ソフィーはどこかへ出かけているのかい?」
「ハイ。学園へ『親衛隊』の集会を開くと仰ってお出かけされておられます。」
うわ。
僕の親衛隊の集会を開くために、ソフィーは出かけているのか。
まあ、あの組織が存続しているお陰で、僕への突然の告白や求婚がほとんど制限されているのだから、やめろとも言えない。仕方が無いかな。
その時僕はまだ、これから何が起きるのかを知らなかった。
◇
ソフィーが王立学園大広間にて『アーデルハイド親衛隊』を集めて、どちらかを選べと宣言している同時刻に、王都にあるリンデンブルグ侯爵邸に届け物があった。
「ちわっす!
ソフィー・ツバイシュタイン伯爵令嬢様より、こちらのエリカ・リンデンブルグ侯爵令嬢様へお届け物でさぁっ!!
ちなみに俺っちは、タイラーって一匹狼の平民運送業者でぇぃ!」
以前、ソフィーの下へ巨大金タライに大量のタラフライを届けに来た運送業者でタイラーと名乗った男が、荷馬車から門扉へと近づき、両側に立っている兵士たちへ大きな包みを差し出して見せた。
「うむ。では中を改めさせてもらうぞ?」
「おう。好きにしな。」
なにやら大きな籠のような物が包み紙によって覆われているように見える。
ガサゴソと包み紙が破れないように、兵士たちが丁寧にめくり上げて中身を確認しようとすると。
「キャァァァァァァァァァァッ!!
エッチィーーーーーーッ!!」
金切り声が籠の中から響き渡る。
「「「「ほぇっ!?」」」」
兵士たちは想定外の事態に頭が付いて行けないのか、目を白黒させたり、キョドる者たちが続出してしまう。
「ちょっまっ!? 運送業者タイラー殿!
これは一体中身はなんだっ!?」
「何故籠から悲鳴が上がるのだっ!?」
「まさか・・・・ 幼女を籠に閉じ込めているのではあるまいな!?」
「貴様っ!
犯罪者かっ!?」
四人の兵士たちは、抜刀しそうな勢いでタイラーへ詰め寄る。
「あー まあ、驚くのも無理は無いよなー
俺っちも、荷車が揺れるたんびに、罵声やら悲鳴が上がった時は、マジビビったわー」
そう告げると、「ホレ」っと器用に包み紙だけをスポっと外して、籠の全容を晒して見せた。
「「「「鳥っ!?」」」」
そう、中身は鳥であった。
しかも、大きな籠の真ん中にある止まり木にしっかりと爪を食い込ませて、不遜な態度で兵士たちを滑付ける様に睨んでいるのは、大きなオウムであった。
「マヌケー!
アホー!!
人殺シ――――!!」
ポカーンと眺める兵士たちへ、罵詈雑言を次々と浴びせる。
「なんとも・・・・ 口の悪い鳥だな。」
「オウムって珍しくて賢い鳥らしいですぜ?」
兵士の真っ当な感想に、タイラーもしたり顔で頷き返しながら、鳥の種類を告げる。
「・・・・こんな鳥をエリカお嬢様へ渡すのかぁ?」
「俺・・・・行きたくないなぁ。」
「俺もだ。」
「奇遇だな。
実は俺もなんだ・・・・。」
四人の兵士たちは、お互いの顔を見つめ合いながら、誰が貧乏くじを引かなければならないかと、不毛な議論を始めていた。
「オイオイ。
俺っちは、荷物さえ引き取ってくれりゃぁそれで仕事は終わりなんだぜ?
誰かしっかりと受け取ってくれねぇーと、コッチが困るってもんだろうが?
ああん?」
すると、兵士たちは徐にタイラーの顔を見つめると、両手をガッシリと握った。
「頼む。このまま屋敷の玄関まで行ってくれ。」
「俺たちからも一人だけ、同行する。」
「そいつが、屋敷に居る執事かメイドに引き渡すから、それまでは一緒に行ってくれ。」
「だな。」
人が仕事を終わらせられなくて困っていると言ったのに、更なるやっかい事へ付き合わされると聞いて、タイラーは引きつった笑みを浮かべた。
「それなら、さっさと誰が同伴するのか決めてくれや。」
リンデンブルグ侯爵邸前にある兵士たちの詰め所前で、四人の兵士たちがじゃんけん大会を始めたのは大人気ないと言う外ないだろう。
「「「やったーっ!!」」」
三人の兵士たちが歓声を上げ、一人が項垂れた。
「クソ。俺が一緒に行かなければならないのか・・・。」
最初にタイラーに同行してくれと言いだした兵士だった。
それから、タイラーと共に屋敷の玄関前まで共に行き、包み紙で覆い直した大きな籠の中身が『口の悪いオウムである』と告げて、タイラーは受領のサインを執事にしてもらい、ようやく解放されるまでに少しばかり余計に時間が掛かったという。




