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妹がヤンデレ過ぎて怖い件について  作者: 所天駄
第一章 妹と僕 ― アーデルハイド親衛隊は妹の旗下へ従属するか? ―
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9.親衛隊No.10 シャーロット辺境伯令嬢の想い(前編)


一方のアーデルソフィーはと言えば、そんな陰謀が張り巡らされているなどとは露知らず相変わらずな日々を過ごしていた。


「ソフィー! 

お前のせいで被害者なハズの僕までポールに叱られてしまったじゃないかっ!!」


「あら? お兄様があのような不躾な手紙などを不用意に受け取るからいけないのですわぁ。

私に焼きもちを妬かせたいのでしたならば別ですけど?」


「おぅふっ!」


またしても、愛らしく小首を傾げながら上目使いで覗き込んでくるソフィー。


仕草は可愛いのだが、何故こうも心を抉る一言を添えるのだろうか?


「別に僕だって、あんな手紙を急に渡されるなんて、予測不可能だし、ましてや、好きでも無い女の子からもらう手紙なんて・・・。」


もしも、この場に筆者シャーロットが居て、アーデルハイドのこんな心無い言葉セリフを聞かされていたならば、四つん這いになってドン底を味わっていたであろう内容の会話が交わされていた。


「まぁ、お兄様が私以外の女の子に興味なんて、向ける訳が無いのは分かっておりますけど・・・?」


今度はサラサラした淡い桜色した長髪を風に棚引かせたかと思うと、スゥーっと流し目を送って寄越した。


本当にソフィーは美しいな・・・。


その一挙手一投足の惚れ惚れする動きについ見惚れてしまう。


「・・・その自惚れがどこから出て来るのか、教えて欲しいものだけどな・・・。」


素直に認めるのが怖くて、つい力無く、無駄に抗いたくなる。


「うふふ。そんなの・・・ 

私がお兄様を大好きだからに決まっておりますわ」


悪びれもせず、不意に近づいて来たソフィーの桜色した唇が、僕の頬へ軽く触れる。


「・・・。」


マズイ。


胸の鼓動よ、どうしてこんな時ばかり言うことを聞いてくれないのか。

ソフィーに聞こえてしまったら・・・。


「あら? お兄様ってば、顔が少し上気してませんこと?」


「う、煩いっ!

ぼ、僕は課題を片付けるから、邪魔しないでくれっ!」


ちょっとイライラしてしまい、つい言葉を荒げてしまった。

僕は兄であり、ソフィーは妹だ。


逃げるように自室へ戻り、備え付けの机に向かい、椅子へ深く腰を下ろした。


それから、半ば上の空で今日の授業で出された課題を片付けながら、先程のモヤモヤした気持ちも整理しようとしてみた。


冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ。


ふぅ。


胸の高まりが収まる頃には、1教科分の課題が終わっていた。


すると、まるでどこかで見張っていたかのようなタイミングの良さで扉がノックされたので、僕はちょっとビクっと飛び上がってしまった。


「お兄様。お夕食前の軽ーいお茶のご用意ができましてよぉー?」


またしても、メイドから奪ったのかワゴンごと押して扉をくぐって来た。


色取り取りなカップに、お菓子が詰められたバスケットとお茶受皿ティーソーサーが並べられている。ワゴンの下の段にはポットなどの茶道具が収められていた。


「ソフィーか。

ありがとう。

でも、今日はもう遅いから、お茶は遠慮しておこうかな・・・。」


今日は、4コマ授業が丸々あったので、夕食前の時間が短かった。夕食は19時からだ。

今が18時を大分過ぎた時間だから、直ぐに夕食となってしまう。


「あら?

お兄様、何かお悩みでもありまして?

またアドルフ様に言われましたの?

それとも・・・?」


「いや、本当になんでも無いんだ。

ただ、ちょっと今は胸がいっぱ・・・ゲフン。

お腹は空いていないから、そうだな、せっかくだから菓子は無しにしてお茶だけ貰おうかな?」


先程の頬に軽く触れただけの唇の感触を再び思い出してしまい、胸の高まりがぶり返しそうになる。


「そうですの・・・。

分かりましたわ。


でしたら、取って置きの茶葉がありますの!

南方の丘陵地帯産の先詰み茶葉だけを集めた最高級品ですのよ。

荷馬車で揺られて運ばれているうちにとても香りが高くて、美味しい紅茶になりますの。」


そう言うと、ソフィーは小さな金色の缶に詰められた小量しか入っていなさそうな茶葉を勧めて来た。


「そうなんだ、それじゃぁそのお茶を貰おうかな。」


「さぁ、お兄様はそちらの椅子にお掛けになって、私が入れて差し上げますわ。」


とても嬉しそうに、鼻歌を歌いながら大きなポットのお湯を茶葉の入ったティーポットへ注ぎ、中で茶葉が躍る様を眺めるソフィーに、あどけなさを感じながら僕は礼を告げた。


「ああ、ありがとう。

ソフィー。」


「フフフ、どういたしまして。

アーデルお兄様。」


そんなこんなで一週間が過ぎましたとさ。

さて、決戦は火曜日!





前日夕方には、学園内に設けられた礼拝堂へ赴き、シャーロット嬢以下配下の親衛隊員全員で一神教のご神体の前で、常日頃ではあり得ないほどの熱心さで必勝祈願を捧げまくった。


果たして、清らかさを求める宗教に煩悩全開で『デート成功』を祈るのはどうかと思うが、彼女たちの心には、唯一神なんぞよりも、永遠のアイドルの方が肥大化してしまい、最早どこまでが許されて、どこからが背徳行為であるのかさえ眼中に無かった。


「さぁ、いよいよ今日が決戦の日ですわよ。

皆様方、配置は完璧に頭に叩き込んでありますわよね?」


「「「完璧ですわ! シャーロット様っ!!」」」


前回はシャーロットとユーリ併せて総勢12名で固めた布陣を、更に鉄壁なものとするべく、周囲には倍以上の48名もの親衛隊員が集っていた。


いずれも、シャーロット嬢と前後する年齢のタイプの異なる美少女揃いではあるが、全員の志は一つだった。


『アーデルハイド様とのデート』親衛隊結束の要であり、至上命題でもある。


本音を言えば、この場に集う全ての少女たちが、自分こそが一番最初になりたい!!


だがしかし、これまで願いを成就させた勇者がいないのだ。


そこで、彼女たちは考えた。


『アリの一穴さえ空けてしまえば良いじゃない』


と。


かくして、史上最大の作戦は始められた。


普段であれば、足を引っ張り合い、邪魔でもなんでもして、自分こそが先駆者であろうとしてきた彼女たちであったが、既成事実さえ作り上げれば、次は自分にもワンチャンスは巡るかもしれないという、藁にも縋る思いでシャーロット嬢の作戦の推移を見守ることにした者たちもその陰には多く居た。


尚、48名もの親衛隊員を動員するために、双白百合印のスイーツが活躍したことを知るのは、彼女たちの胃袋だけだ。




その日、シャーロット嬢は胸の高まりを意識しながら、一分一秒が過ぎるのさえもどかしく感じていた。

一日が過ぎるのがこれ程までに遅く感じたことは、生涯でも初めての経験であった。


初めてアーデルハイドと出会ったのは、入学式の日だった。


春の柔らかな日差しの中、王立学園のエントランスへ入って来た見事な四頭立ての馬車は、優雅に化粧塗りを施された箱体から、従者にかしずかれた一人の少年を降ろした。


未だあどけなく、幼さが残るものの将来どれだけの美丈夫となるであろうと予感さえ感じさせた。


しかし、その当時シャーロットもまた幼く、初恋と呼ぶには未だ早すぎたのかも知れない。


そんな彼女が、アーデルハイドを異性として意識し始めたのは、二人が中等部3年生の頃だった。


同級生の侯爵令嬢の一人が、アーデルハイドに恋をしたと打ち明けて来たのだ。


まさか、自分たちには未だ早いと思っていた現実が、これ程早く訪れるとは思いもよらなかった。


親友から打ち明けられたアーデルハイドへの想いを聞かされたシャーロットは焦った。


まさか、自分と同じように彼を意識していた者がこれ程身近にいたなどとは。


ところが、事態は思いがけない方向へ動いてしまった。


侯爵令嬢とシャーロット。


二人だけでしかも、人気の無い教室を使ってこっそりと話し合ったはずの恋話コイバナが、何故か同学年の中等科女子の一部の者たちの知るところとなり、誰が最初にアーデルハイドへ告白するかという緊張状態を生み出してしまったのだ。


この頃は未だ親衛隊も無く、自由に告白できる最後のチャンスだったと、後にシャーロットは思い知ることになるのだが、後悔は先に立ってはくれない。


果敢にも、数名の女子がラブレターを渡したり、お茶会へ誘ってみたものの、当のアーデルハイドが未熟者どんかん過ぎて、普通に友情の延長線上にあるものだとの認識しかしてくれぬのだ。


やがて、彼女たちも成長し、アーデルハイドもまた高等部へと進んだ。


少年から青年へと成長する、正に思春期。


中等部の頃までは、誘いに乗ってくれていた女子とのお茶会へも、誘いにくくなる頃には、いつの間にかアーデルハイドの周囲にエリカとクララ、親友となったアドルフの三人が鉄壁のガードを築き上げてしまっていたのだ。


対抗意識を燃やした同学年女子を中心とした『アーデルハイド親衛隊』の発足式という名目のお茶会が行われたのも、丁度この時期らしい。


最初は高等部の同学年女生徒を中心とした細やかな、50名ほどであった親衛隊が成長し、その規模を拡大するのにそれ程時間は掛からなかった。


例え先輩女子と言えども、結束すれば実家の影響力行使も辞さない親衛隊の前では、素直に参加表明をさせることで軍門へ降し、後から入って来る後輩には、鉄の掟の不文律を継承することで親衛隊は続けられている。


尚、初代会長にして、現在に至るまで一度もその座から降りたことの無い永世女王クイーンこそが、シャーロットに最初に相談して来た侯爵令嬢だ。


シャーロットとて、何もせずに来た訳では無い。


幼少の頃は、幾度となくアーデルハイドへ手紙を書き続け、『好き』と伝えた。


その度に、『ありがとう。僕も友達として嬉しく思うよ。』と返されて、もどかしく思いながらも、それ以上は贅沢かと歯噛みした。


中等部では、徐々に身体つきも成長期に合わせて凛々しくなる男子の中、一人中性的な美しさを保ったままのアーデルハイドの姿に思わず見とれたものだ。


無論。彼の視界に入るための努力だってしている。


朝晩のウォーキングとヨガ。


鏡の前でどの角度から見つめてもらえば、より可愛らしく見えるかを追求してみたり、学園の制服姿に、どのリボンやさり気ない装飾が似合うかを研究してみたり。


髪型だって、時間を掛けてセットしている。


必死で女を磨いているのだ。


全ては、意中の彼のために。


叶うことであれば、実家の辺境伯家の力を使って、なんとか婚約でも結べれば良いけれども、残念ながら伯爵家といえども、アーデルハイドの家柄は、他の伯爵家とは別格だった。


この王国での辺境伯とは、文字通り『辺境を開墾することで伯爵家の地位を得る』という意味合いが強く、成功すれば広大な未開地を領土として支配下に収め、莫大な富を得ることも可能だ。


だが、それにはリスクが伴う。


未開発領地フロンティア、それは、広大な森林で覆われた開拓地であったり、肥沃な湿地帯でありながらも、人手が足りず手付かずのままであったり、広大な土地ではあるものの不毛な丘陵地帯であったり、砂漠地帯などその形態はさまざまではあるものの、熊や狼、コヨーテなどの野生の肉食獣の脅威に加え、いつ襲ってくるか分からない蛮族や強盗ども、国境が近ければそれに他国の軍勢も加わる。


いずれにしても、何代かに渡って莫大な資金と労働力を投資できなければ、回収するまでに時間が掛かると言われている領地経営を指して使われている。


故に、領地の農民たちも半ば屯田兵状態で、弓矢や剣を片手に農耕具を振るい、領地開拓に明け暮れる日々なのだ。


幸い、シャーロットの父が治める領地は、祖父の代から開拓が始まっており、初代の苦労のお陰もあり、少しだけ恵まれた環境ではあったので、身一つとはいえ寮に入り王立学園で学ぶことが許されている。


それでも今尚耕作地よりも荒れ地の方が多く、新規で開拓集落を作るために王都や都市部で人手を集めなければならない程であった。


故にシャーロットが王都で学ぶ目的のもう一つが有力貴族との誼を結ぶ、もしくは、婚姻によって領地経営に便宜を図ってもらえるようにすることが含まれているのは今更言うまでもない。


対して、アーデルハイドの伯爵家は旧家の一つであり、常に東部軍管区を領地として永年他国の侵略から王国を護って来た由緒正しい名家だ。


故に、彼の父親は常時国境警備のため領地を離れることはほとんど無く、今後はその子らが名代として活躍するであろうことも既定路線だ。


地位・名声・財力・家臣団どれ一つを取ってもシャーロットの実家には逆立ちしたって叶わない。


本来であれば、自分のような新興勢力としか言えない歴史の浅い辺境伯家の娘が、妻となれる筈が無い。


だが、妻に拘らなければチャンスはあるかもしれない。


そう、側室や愛人の座だって構わない。


アーデルハイドの側に居られるのであれば・・・。


幸い、親友であり会長でもある侯爵令嬢のお陰でNo.10という特権階級を手にしたこともシャーロットの背中を押してくれた。


名も告げぬ、見知らぬ協力者も得られた今、このチャンスを逃してしまえば、二度と好機は無いかもしれない。


そのような意味でも、負けられない乙女の戦いが今、火蓋を切って始まろうとしているのだ。


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