82.まどろみのなかで②
「・・・・ン?」
僕が目を開けると、そこには短刀を振りかざしたソフィーの姿があった。
「・・・・。」
「・・・・え?」
びっくりしてビクンと身体を動かしてしまった僕の上に、跨る様にして馬乗りになっていたソフィーの小さな身体が跳ね飛ばされてしまう。
「キャッ!」
短く悲鳴を上げて転がり落ちるソフィー。
「今だっ!!
押さえろっ!!」
その姿を見て、捕縛を命じるセバスに首肯する執事たち。
「「「「ハッ!!」」」」
「乱暴にはしないでくださいましっ!!」
メイド頭のエカテリーヌが鋭い声を上げる。
「判っておりますよ。
ソフィーお嬢様は、大切なご令嬢ですから。
誰一人傷付けようなどとは思いませんから。」
セバスがエカテリーヌに優しい声で応じる。
「それにしても、こんな短刀など一体どこから・・・・。
コレはっ!?」
「どうかしまして?
まあ。」
セバスとエカテリーヌの二人が、ソフィーの小さな手から落ちてしまった短刀と拾い上げて、その見事な造形を注意深く観察していたらしいが、短く声が上がったきり、二人とも黙り込んでしまった。
一体何事だと言うのだろうか。
「・・・・一体どうしたの?」
寝ぼけ眼で、僕が目をこすりこすり聞いてみた。
本当に訳が分からなかったのだから仕方が無いのだけれどもね。
「ハイ。それが・・・・私がアーデルお坊ちゃまのご様子を見ようと談話室へ参りましたところ、その・・・・ソフィーお嬢様が、その短刀で・・・・坊ちゃまを・・・・。」
それだけ告げると、カーミラという名のメイドは口ごもってしまった。
「私たちは、彼女の叫び声を聞いて、駆けつけました。
すると、アーデル坊ちゃまに馬乗りになって短刀を翳しているソフィーお嬢様のお姿を拝見しまして、何の真似かと尋ねた訳です。」
僕が先程耳にした声の通りだ。
「すると、ソフィーが僕の命を狙ったと?」
先程から無言のままのソフィーは、悔しそうに唇を噛みしめたまま、一言も話そうとしてくれない。
このままでは、ソフィーが悪者にされて、なんか悪い方へ話しが進むような気がする。
実際に悪いことをしようとしていて、見つかったのはソフィーだから、僕は被害者なんだけどね。
「ソフィー。悪ふざけをするなら、せめて僕が寝ている時じゃなくって、起きている時にしてくれないかい?」
僕なりに精一杯妹であるソフィーを庇おうとしてみる。
ソフィーは、驚いたように目を一杯に見開いて、僕を見つめる。
やがて、観念したようにボソリと声を聞かせてくれた。
「・・・・アーデルお兄様の・・・・キラキラした目が綺麗で・・・・その・・・・。」
今なんて言ったの?
6歳児じゃなくったって、4歳の女の子の口から、『目が綺麗だからくり抜こうとした』だなんて言われたら、理解できるものだろうか?
「あー僕の目ってエメラルドグリーンで綺麗だからかあー。
まいったなぁーーーーーっ!
ハッハッハッハッハーーーーー!!
・・・・・。
なんて、笑い飛ばせるかっ!!」
思わず大声を上げてしまった。
「おーっ!
見事なノリツッコミ!!」
とか、その場に居た誰かがボソリと呟いてたけど、このタイミングでは余計なお世話じゃっ!
ソフィーがプイっと顔を背けてしまった。
なにかヤバイこと言ったかな?
「いずれにしましても、このことは旦那様へ報告しなくてはなりません。」
セバスがキッパリと宣言すると、ソフィーが泣きそうな顔をし出した。
やはり、父上が怖いのだろうか。
無理も無い、僕だって父上から怒られる時には、雷よりも怖いと思ってるもん。
「セバス。今回の件は、うっかりとソファーで寝ちゃった僕も悪いかなーって思うから、父上には、『ソフィーは僕の瞳を綺麗だなと思って、イタズラをしようとした。でも、メイドが驚いて叫んだお陰で、怪我一つ無い。無事だった』と伝えて欲しいんだけど?」
セバスは頷いてくれた。
その姿を見たソフィーの頬が少し上気しているような気がしたけど、気のせいだよね。
「アーデルお兄様・・・・。」
両手を小さな胸の上あたりで組んで、目を大きく見開いてキラキラと輝かせているのは、一体何の真似だろうか。
「やっぱり、私、アーデルお兄様のお嫁さんになりますっ!!」
「ほぇ?」
瓢箪から駒?
藪蛇?
周囲の大人たちは、ニコニコとして何か良い物でも見たかのように、満足げに頷いているけど、なんか大変なことを僕の意思とは無関係に言ってる妹が居るんですけどぉ!?
その日を境に、ソフィーは常に僕と一緒に過ごしたがるように急変してしまった。
最初は、遊び仲間が増えて嬉しかったけど、金魚のフンのように、決して離れようとしない妹の姿に、兄妹愛以上のナニカを感じてしまった僕は、怖くなって逆に僕から離れようとした時期もあったっけ・・・・。
◇
「そうか、あれからもう11年か。」
「ええ。私今でも鮮明に覚えておりますわ。
勇敢にも私を庇おうとしてくださったアーデルお兄様の凛々しいお姿と男気を・・・・。」
うっとりと、歌うように言うソフィーの頬は、あの日と同じように上気してピンク色に染まっていた。
身を捩らせながら、モジモジとして、僕から少しだけ離れようとする。
一寸待て、毎回思うんだけど、どうしてそんな昔の思い出話しで、照れる必要があるのだろう?
それに、僕から少しだけ離れようとするって、普段ものすごくベタベタしておいて、何でこんな時ばかり、恥ずかしそうに離れるのだろうか。
やはり、僕にはまだまだ乙女心というものは解せないようだ。
短いけど、今回はここまでです。
アーデルハイド(主人公)の瞳の色を間違えていたので修正しました(汗
(*- -)(*_ _)ペコリ




